19.自分を見る
◆自分を見る◆
瞬の部屋に戻るなり、哲央はソファに腰を落とした。
背もたれに体を預け、大きく息を吐く。
「……ちょっと緊張したな」
「俺は楽しかった!」
晃は鏡の前に立ち、笑いながら前髪を整えている。照明の下には、さっきまでの撮影の空気がまだ残っているようだった。
(本当は、胸の奥がずっと張りつめていた。でも――嫌じゃなかった)
「じゃあ、さっきの写真を確認しよう」
瞬がパソコンを起動すると、画面に写真が次々と並んでいく。
衣装をまとった自分たちは、どこか少しだけ距離のある存在のように映っていた。
「まずは俺な」
瞬が選んだ一枚。胸元の安全ピンの十字架が鋭く光を受け、長い黒髪と濃いメイクが不思議なほど馴染んでいる。
「やっぱり瞬は、なんか違うな」
哲央が言うと、晃と遥も小さく頷いた。
「次はユキ」
画面が切り替わる。
黒いサテンのシャツが光を含み、写真の中のユキは、ただ立っているだけなのに視線を引きつけた。
「……きれい」
気づけば、声が漏れていた。
「これでいい」
ユキは全身とアップを一度ずつ確認すると、迷いなく言った。
「じゃあ次、晃」
笑顔の写真と、すました表情の写真が並ぶ。
「……笑顔、晃くんらしいね」
「笑ってない方が、かっこよくないか?」
「どっちもいいけど、目に入るのは笑顔かな」
「俺もそう思うぜ」
哲央の言葉に、晃は腕を組んで画面を見つめた。
「アップは笑顔、全身はクールなやつでどう?」
「さすが瞬! それ!」
晃が勢いよく肩を組むと、瞬は苦笑してその腕を外した。
「ほら、次は哲央」
少し表情の硬い写真が映る。
「……俺、顔こわばってるな。でも、これでいい」
そして最後に、遥の写真が表示された。
画面の中の自分は、思っていたより前を向いていた。
腰に手を当てた姿は、まるで知らない誰かみたいで――。
(……見ないでほしい)
「遥、やる気に満ちた顔してるな」
「だってさ、撮影前にピアス開けたんだぜ」
一斉に視線が集まり、頬が熱くなる。
「え! 大丈夫? 痛くなかった?」
瞬が慌ててティッシュを差し出す。
「思ったより痛かったけど……大丈夫」
そのとき、ユキが隣に来た。
優しく、遥の頭に手を置く。
「頑張ったな」
その声と体温が、真っ直ぐ胸に落ちてきた。
心臓が大きく跳ね、息をするのを忘れる。
「写真は、これでいいと思う」
ユキは画面を見たまま、そう言った。
「……うん」
遥はそれだけ答えた。
「じゃあ最後。名前と誕生日な」
瞬が紙を回す。
ユキ、晃、哲央と続き、遥の番が来た。
(4月28日……)
一瞬だけそこに目を留めてから、自分の名前と誕生日を書き込む。
瞬は紙を確認し、静かに頷いた。
「よし。これをホームページに載せる」
画面に並ぶ名前を見つめながら、遥は小さく息を吐いた。
――ここに、自分の居場所がある。
◆ついに◆
平日の昼休み。
皆がお昼に出払っているのを確認すると、遥は職場のパソコンでLUMINOUSのホームページをそっと開いた。
真っ先に飛び込んできた、黄色に輝く文字。
“9月11日 初ライブ!”
それに比べて、画像の表示はゆっくりだ。
その時間がもどかしい。
遥は、出入り口を確認しながら画面に視線を戻す。
何度目かの確認の後、やっとトップ画像が表示された。
黒い画面にチカチカと星が瞬き、遥は目を細めずにはいられない。
その真ん中に自分たちが写っている。
(私、LUMINOUSのメンバーなんだ)
プロフィールをクリックして、ホームページの中の“遥”と目があった。
少し心臓が跳ねる。
胸の鼓動が写真を選んだ瞬間を思い出させる。
恥ずかしさと頭の上に置かれたユキの手のぬくもりに気を取られて、写真は全然見られなかった。
(あの日の私、こんな顔をしていたんだ)
目を閉じて、息を吐き出した。
閉じた扉の向こうから、話し声が聞こえる。
もうすぐ、昼休みが終わる。
遥は、LUMINOUSのホームページをそっと閉じ、電源を落とした。
電波の闇にチカチカした星たちが消えていった。
(さあ、あとはライブだ!)
遥は、まだ見ぬステージに思いを馳せた。




