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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第三章 始まりの音
18/22

17.衣装合わせ

◆衣装合わせ◆


金曜日。

今日は衣装を持ってスタジオへ集合する日。


(着替えを考えて家から衣装を着てきちゃったけど、厚底ブーツ、歩きにくい……。でも背が高いのっていいな)


スタジオDに着くと遥は、ドキドキしながら扉を開けた。


「お疲れ様です」


スタジオには、ユキと晃がいた。

晃と目が合った。一瞬、遥の全身を見るように目が動いた。


「……、おつ」


晃は、それだけ言うと自分の鞄をごそごそとやり始めた。

――チッ。


「――……じゃ……ねーか」


僅かな音が遥の耳を掠めて、心が痛んだ。



「お疲れ様」


ユキは、黒いサテンの襟付きシャツに黒い細身のズボンを履いていた。

手に持った白いギターが、際立って見える。


「ユキくん、今着てるの衣装だよね?」


「うん。そうだよ」


「私とユキくんの衣装とあまり変わらないのに、私って……なんか、変……」



扉が開いて、哲央が入ってきた。


「おつかれー。お、みんな衣装着てるな!」


ごそごそやっていた晃が、ぱっと顔を上げた。


「俺は今から着替えるぜ! 哲央は、それが衣装か?」


「うん。ドラム叩きやすいように袖なしにした」


哲央は、晃の前で両手を広げて見せた。

白いノースリーブシャツの上に黒いノースリーブの合皮のベストにズボン。ごつめのベルトを着けている。


「いーじゃん!」


晃は遥の前でもお構いなしに着替え始めた。


(わっ、晃くん。……あ、でも、そっか)


遥は驚いたが、すぐ気が付いた。自分のいる世界のことを。


「お前、ちょっとは恥じらいをもてよ」


哲央は晃と遥の間に入って、遥から晃をなるべく見えないようにした。


「大丈夫だよ。哲央くん」


「そうだぜ。こういう世界だろ」


晃はトランクス1枚になって、どんどんと着替える。

黒のスキニーパンツ。深紅のシースルーシャツ。そこに肩の張った黒い合皮のショートジャケット。首に黒いチョーカーを巻き、腰に銀色のチェーンを付けた。


「どうだ?カッコいいだろう? これにメイク決めるよ」


(晃くん、ちゃんと決めてきてる。なのに私……)


スタジオの鏡に映る自分の姿を見て、遥は肩を落とした。


「遅くなった悪い」


両手を合わせながら瞬が入ってきた。


「ちょっと安全ピン買っててさ」


瞬はギターケースの他に大きな黒いバッグを抱えている。

荷物たちを壁際に置くと、肩の力を抜くように、ぐるりと回して腕を伸ばした。


「みんな、もう着替えてるから瞬も早く!」


哲央は瞬に促した。


「OK! すぐ着替えるよ」


瞬はスタジオの端に行って、さささっと着替えた。

しわ加工された白いシャツに黒のふわっとした袴風パンツ。切りっぱなしの長めの黒いジャケットに黒いネクタイ。ネクタイには安全ピンで十字架の模様が作られている。


「ジャケットの腕のところにも、十字架付けたくて」


「安全ピンの十字架いいじゃん!」


晃は、ちらりと遥を見てから、まじまじと瞬のネクタイを眺めた。


(……わかってるもん)


「だろ? 安全ピンの十字架、やってみたかったんだ」


瞬は嬉しそうに言った。そして、


「ユキと遥は、シンプルだね」


「でも、ちゃんと黒くしたから。ね、遥」


「……ユキくん」


「俺は、ちゃんと良い音、鳴らせばそれでいいよ」


(良い音、か……)


ユキの言葉は、まっすぐだった。


だからこそ、胸の奥で、小さく引っかかる。


音だけでいいなら、

私は、どうしてこんなに悩んでいるんだろう。


遥は、もう一度、鏡の中の自分を見た。


黒い服を着て、

ベースを抱えて立っているだけの自分。


(……まだ、足りない)


何が足りないのかは、分からない。



◆とりあえず進む◆


「今日は、このまま練習して、ライブをやるのに問題ないかの確認をしないか?」


瞬の声は落ち着いていたが、どこか弾んでいるようにも聞こえた。


「それで明日、俺の家に来ない?」


「話し合いでもするのか?」


哲央が腕組みしながら聞いた。


「前にホームページ作るって言ったろう。みんなで衣装とメイク道具持って、準備して写真撮ろう」


瞬は遥にカメラを構えるポーズをしながら言った。

遥は、少しドキッとしてうろたえた。


「瞬くんの家の中で撮るの?」


「俺ん家、白い壁あるからちょうど良いかなと思ってさ」


「瞬が撮るのか?」


晃が聞いた。


「四人の分は、俺が撮るよ。俺の分は誰か撮って」


「まかせろ! この晃様が撮ってやるよ」


「よし、決まり! ユキ、それでいいよな?」


「ああ、かまわないよ」


「あ、あと自分のステージネームも考えてきて。ホームページに載せるからさ」



遥だけ、少し遅れて頷いた。



その後は、衣装のままでの練習が始まった。

メイクこそしていないが、全員が衣装に身を包み楽器を持つと、いつものスタジオの空気と違う気がする。


(みんな、バンドマンって感じ。……私もバンドマンになれてるのかな?)


鏡に映る自分を見たくなくて、視線を落としながらベースを弾く遥。

厚い靴底がベースの振動を遮って、いつもの音がよくわからない。


(厚底、私には向いてないかも)


練習はどんどん進む。時間は、待ってくれない。


(靴は変えよう。これだと自分の音がわからなくなりそう)


遥は、厚底ブーツを脱いだ。いつもの身長に戻った。


――ベースを鳴らす。

いつもの感覚が足から伝わってきた。


(……これでいい)


とりあえず今は進むしかない。そう思った。


ユキと晃は、その背中を、何も言わずに見つめていた。



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