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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第三章 始まりの音
16/34

15.いいのかな

◆いいのかな◆


スタジオDの翌日。


遥は、自宅でテーブルに向かい手紙を書いていた。


宛先はDOLLドール THEATERシアターのトビー。


――トビーさんへ


 こんにちは。国東遥くにさきはるかです。

私、ベースを買いました。そして、ついにMOON BOXでライブします。

でも、不安で、どうしたら――


ペン先が止まる。

その先に続く言葉が、どうしても定まらなかった。


(うーん、違う。トビーさんに知らせたいけど……)


遥は、途中まで書いた手紙をくしゃくしゃに丸めた。

バタンと横になって天井を見つめる。


(3か月後にライブ……)


何度かゴロゴロと寝返りを打つ。

チクタクと鳴る時計の針の音が、やけに耳についた。


(……うるさい)


遥は起き上がり、ベースを手に取った。


(練習しなくちゃ)


少し震える手でヘッドホンをつける。

正しいフレーズなんか気にせずにがむしゃらに指を動かした。


弦が指先に食い込み、鈍い痛みが走る。

それが、胸の奥のもやもやを、ほんの少しだけ散らしてくれる。


「はぁー」


ベースを置き、深く息を吐いた。


「私、何がしたいんだろう……」


答えは出ない。


遥は少し考えてから、みこに電話をかけた。


プルルルルー、プルルルルー


数回の呼び出し音の後、電話が繋がった。


「はい、鈴木ですが……」


年配な感じの声だ。みこではない。


「もしもし、私、美恵子さんのお友達で国東遥っていいます。美恵子さん、いらっしゃいますか?」


「待ってね。みえこー、遥さんから電話―」


「みえこー!」


電話を塞いでいるみたいだが、みこを呼ぶ声は、はっきりと聞こえる。


「ふぅ、もしもし、遥?」


「みこー、ちょっとお話したくて」


「どうした? 電話でいいの? 時間が大丈夫なら、池袋のいつものファミレスで会う?」


「会って話したいよー!」


「じゃあ、1時間後にファミレスの前で待ち合わせね」


電話を切った。遥は、急いで出かける支度をはじめた。



――池袋。

土曜日ということもあって人が多い。

お昼の時間を少し過ぎていることもあって、ファミレスは列ができていた。

二人は最後尾に並ぶ。


「遥ー! 電話くれて嬉しいよ! どうしたの?」


「うーん。なんか、悩んじゃって……」


遥が悩みを説明している間に席に通された。


「私、お昼まだなんだ。なんか食べちゃう!」


みこは、メニューを開いた。


「私もお昼ご飯、まだだよ」


二人は注文すると、ドリンクバーから飲み物を持ってきた。


「それでね……」


遥は、ストローで氷をかき混ぜる。


「やっとライブなのに、私がステージに立っていいのかなって……」


氷が、カランと音を立てる。


「女なのに、さ……」


「ふーん、そっかぁ」


みこは、コーラを一口飲んでから言った。


「でも、やりたかったことなんでしょ?」


「……うん、そうなんだけど、怖くて」


「まあね、ヴィジュアル系の世界ってほとんど女の子いないもんね」


「そうなの……」


そこへ店員が料理を運んできた。


「お待たせ致しました」


「わ! 来たよー。とりあえず食べよう、遥」


「うん。いただきます」


二人はハンバーグにナイフを入れた。



半分ぐらい食べたところで、みこがぽつりと言った。


「でも、きっと遥の心は決まってるんじゃない?」


「えっ!?」


「遥って結構頑固だからさ」


「頑固? 私が!?」


遥は驚いてみこを見つめる。


「えー、自覚ないの?」


「私、人見知りだよ」


遥は、最後まで取ってあったフライドポテトを口に入れた。


「まぁ、人見知りではあるけどさ」


みこは続ける。


「やりたいことは、絶対にやるよね」


「えー、そうかな?」


「つまり悩んだって、そういうことだよ、ね」


みこも最後のハンバーグを口に入れた。


遥は、何か言おうとして、言葉を探した。

けれど、何も出てこなかった。


◆兆し◆


みことと別れて家に戻った遥は、再びベースを手に取った。


(頑固、か……)


自分では、あまり分からなかった。


けれど、弦に触れると、みことと会う前より、指が少しだけ滑らかに動く気がした。


「……でも、そうだよね」


ぽつりと呟き、もう一度、弦を鳴らす。



次の金曜日。

スタジオDの扉を開けた瞬間、室内の熱気が肌に触れた。


「遥、お疲れ〜」


晃が声をかけてきて、そのまま顔を近づけてくる。

横を向き、自分の耳を指差した。


「どうよ、これ」


「あ……ピアス、増えてる!」


もともとそれなりに開いていた耳が、いつの間にか、縁をなぞるようにピアスで埋まっている。


「一度に、そんなに?」


「おう。かっけーだろ」


晃は、得意げに笑った。


「うん、かっこいい。憧れるけど……ちょっと怖いな」


「今のうちに開けちゃえよ」


「えっ、でも……痛くない?」


遥は、無意識に自分の耳に触れる。


「全然大丈夫! 俺が保証する!」


晃は、どん、と自分の胸を叩いた。


「そんなものなのかな……。ユキくんも、瞬くんも開けてるよね」


話を振られた瞬は、少し考えてから言う。


「チクッとする程度かな。心配なら、病院で開けたほうがいいかも」


「ユキくんは?」


「……覚えてない」


そう言ってから、白いギターを手に取る。


「それより、まずは練習しよう」


ユキは、軽く音ならしを始める。


「うん」


遥も頷き、ベースを構えた。


「哲央、カウント頼む」


「まかせとけ。いくぞ」


哲央の声で、スタジオの空気がきゅっと引き締まる。


自分たちの曲と同じ名前のライブへ向かって、時間が、確実に流れていく。


(みんな、本気だ)


――……


(私も、本気のはずなのに……)


考え事をしたまま指を動かし、次の瞬間、大きく音を外した。


演奏が止まる。


「あっ……ごめんなさい」


「大丈夫」


ユキが、落ち着いた声で言った。


「もう一度、最初からやろうか」


遥は小さく頷き、構え直す。



練習終わりの帰り道。


珍しく、遥はユキと並んで歩いていた。


(今日、ダメだったから……かな)


ベースの肩紐を、ぎゅっと握る。


しばらく、二人とも何も言わずに歩く。


池袋駅が見えてきたところで、ユキが口を開いた。


「……不安?」


「え?」


「音が、少し不安そうだったから」


遥は、思わず立ち止まった。

ユキも足を止める。


二人の横を、人の流れが通り過ぎていく。


「ライブが決まって……みんな、すごくて」


言葉を探しながら、続ける。


「私……」


「今日の音は、確かに不安そうだった」


ユキは、はっきりと言った。


けれど、その視線は柔らかい。


「でも、遥の音は、いつもいい音してるよ」


淡い色の瞳が、まっすぐ遥を捉える。

風に揺れる髪が、やけにゆっくりに見えた。


「……本当?」


「ああ」


その瞬間、ユキの瞬きが、スローモーションみたいに感じられた。


「……ありがとう」


息を吸って、遥は続ける。


「私も、ユキくんの音、いいと思う」


少し間を置いて。


「……すごく」



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