表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

153/155

153 一人で抱えちゃった!?兄の真実!?






 視界が、ぐらりと揺れた。

 ……フラフラする。足の裏が、地面をうまく掴めない。


「オトちゃん。大丈夫!?」

 母さんの声が、やけに遠い。

 次の瞬間、両肩を強く掴まれる。温かい手。いつもの安心するはずの温もりなのに、僕の体はうまく反応できなかった。


「……母さん」

 喉が、ひどく乾いている。言葉を出すたび、砂を噛むみたいだ。


「兄さんは……裏記録師だったの!?」

 言った瞬間、胸の奥で何かが、ぱきりと音を立てた。

 否定してほしかった。笑って、「違うわよ」って、いつもの調子で。


 けれど母さんは、目を伏せる。

「……シオくんは、私たちには何も言わないの」

 静かな声だった。責めるでも、庇うでもない。ただ受け止める声。


「オトちゃんにも言ってないってことは……一人で抱えてたのね……」


 一人で。

 兄さんが、ずっと。

 背中に、冷たい汗が伝う。指先が、じん、と痺れた。



 その様子を見ていた青鮎記録師たちの間にも、ざわめきが広がった。


「シオマさん……」

「俺たちは……騙されていたのか!?」

 空気が、きしむ。信頼と疑念が、目に見えない刃のようにぶつかり合う。


「そんなはずないだろ……シオマさんは、いつも俺たちの記録を丁寧に見てくれて……」

「でも裏記録師なんだろ!? 消された頁を扱う連中だぞ!」

「じゃあ、今までの記録だって……!」

 不安が、不安を呼ぶ。


 気づけば、僕は叫んでいた。

「違う!」

 思ったよりも大きな声が、広場に響く。全員の視線が、僕に向いた。


 胸が痛い。でも、逃げたくなかった。

「兄さんは……嘘をついてたかもしれない。でも、俺たちを傷つけるためじゃない!」

 震える拳を握りしめる。

「兄さんは……守るために、守るために闘ってきたんだ!」


 母さんが、はっと息を呑む。ざわめきが、わずかに止まる。


「俺たちが見てきた兄さんは、本物だよ……!」


 笑って、困って、責任を押しつけられて。それでも文句も言わず、記録を続けていた兄さん。

 あれは、演技だけなんかじゃない。



 そのとき、水が静かに鳴った。

「……騙す者は、守るために泣かぬ」

 シュレイヴァの低い声が、場を包む。蒼の瞳が、青鮎記録師たちを見渡す。

「裏記録師は、光の記録を奪う存在ではない。闇に沈められた真実を、背負う者よ」


 沈黙。

 誰も、すぐには言い返せなかった。


 母さんが、僕の肩をそっと抱き寄せる。

「オトちゃん……」

 その温もりに、少しだけ呼吸が戻る。




 ズゥーーーーーン。


 そのとき、腹の奥を鈍く叩くような振動が、大地の底から響いた。

 足元の小石が跳ね、木々の葉がざわりと揺れる。


「……なに?」

 顔を上げた瞬間、二度目の衝撃。ドン、と空気が押し出される。

 僕たちは反射的に地上へ駆け出した。魔物たちも、ざわめきながら後に続く。


 そして――見た。


 ミラソムの方角。

 空を焦がすような土煙が、巨大な柱となって立ち上っている。


「……あれって」

 黒トンボが、低く羽音を震わせる。警戒の振動。


「まさか……」


 誰ともなく、声が漏れた。僕たちの瞳に、はっきりと映る。

 遠く、霞む塔の影。白銀の柱――アクア・スパイラル。

その方向に、濃い土煙が立ち上っている。まるで大地が息を吐き出しているみたいに、灰色の柱が空へと伸びていた。


 空気が、震えている。耳鳴りのような低い唸り。足元から伝わる、わずかな揺れ。

 それだけじゃない。

 水だ。

 見えないはずの水脈の流れが、肌を刺すようにざわついている。普段なら穏やかに巡っているはずの流れが、どこかで無理やりねじ曲げられている感覚。


 胸の奥が、ひやりと冷えた。

「アクア・スパイラルに……異変?」



 黒トンボが空へ跳ね上がり、すぐさまカルマのもとへ戻る。

「おかしい……上層結界が揺らいでる。施したばかりの制御が乱れた……!?」

 カルマは目を閉じ、そっと水の流れに触れる。


「……シオマさんの身に、何か起こったのかもしれない。水の記録が……暴れてる」

 小さい声なのに、場の空気が重く沈む。黒トンボが、鋭く羽音を震わせた。

「……違う。これは“揺らぎ”じゃない。干渉だ」

「干渉?」


 カルマが目を細め、遠くを見据える。

「上層結界が歪んでる。誰かが……内側から触れてる」


 内側。

 その言葉に、息が詰まる。

 (兄さん……)




 ズゥン……ズゥン……


 断続的な地鳴り。ただの崩落じゃない。



 魔物たちは四方へ散り、ミラソムから距離を取ろうとする。


「記録庫が開いてしまってるんじゃ……」

 青鮎記録師の一人が、青ざめる。


「あの塔は、協会だけじゃない。研究者の塔だぞ……!」

「里の封印も心配だが、今はミラソムへ向かうべきでは?」

「俺たちに何ができるんだ!」

「……まさか、あの方が……?」


 混乱が広がる。

 僕には、まだ全体が見えない。そのとき、ホンホンが小さな声で言った。


「セオトー!閉じられていた頁が……浮き上がってるホン……」

 振り向くと、ホンホンの体がふくらんでいる。紙束みたいに、ぱん、と膨張していた。

「え!? ホンホン、大丈夫!?」


「情報が……溢れてるホン……抑えきれないホン……!」


 そのとき、シュレイヴァの低い声が、水面の奥から響いた。

「均衡が崩れたな」

 蒼の瞳が、塔の方角を射抜く。


「封じられていた頁が浮かび上がり、理が暴れておる。あの塔は……真実を抱えすぎた」

 ズゥン、とまた地鳴り。土煙が、さらに濃くなる。


「放っておけば、どうなるの?」

 エイミの問いに、シュレイヴァはわずかに沈黙した。


「記録が溢れる。抑え込まれた事実が、制御なく流れ出す。……塔ごと、崩れるやもしれぬ」

「そんな……!」


 青鮎記録師たちの間に、緊張が走る。


「研究層が破損したら、保管封印が連鎖するぞ!」

「下層の水圧制御も危ない!」


 僕の心臓が、強く跳ねた。制御装置……。

 フレクシア……クロム・リーフ……兄さんも、あの塔の中にいる。


 震える空気の中、僕は拳を握る。

「……行こう」

 自分でも驚くほど、はっきりした声だった。


「確かめなきゃいけない。あそこで何が起きてるのか」


 土煙の向こうで、白銀の塔が、低く唸る。


 アクア・スパイラルは、確かに――何かを叫んでいた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ