策謀
「……最初こそは確かに監視のためでした」
王太子殿下にまとわりつく得体の知れない女生徒は、当然身辺調査される。だけでなく、何をするつもりか何が目的かの監視も必要だ。
「フィーユさんのご実家シャルマン男爵家は、新興の下級貴族団で盟主のような立場でしたから、その動向は注目して見られています。その新興貴族団にいち早く接触してたのは王弟殿下で、王太子殿下にしつこく絡もうとする彼女は、王弟派の工作員の疑いがかけられていましたから」
なんかつらつらとさえずってるぞ。
もうコーニー嬢の言葉はわたしの耳から入って、逆の耳からそのまま出ていってる。聴く気になれない。どーでもいい。
「ですがフィーユさんと触れ合う機会が多くなるにつれ、彼女は策謀とは無縁の、王太子殿下に憧れてるだけの一生徒だと分かり、警戒は解かれました。シャルマン男爵家自体が、王弟派から王太子殿下に接触するようそそのかされているものの、まだフィーユさんを使って王太子派の一部を取り込んで切り崩しを計る企みに気づいていない様子なのです。
純粋に自家の利益になると思って、娘を王太子殿下に近づかせてるだけでした。新興貴族団の商売的にはなかなかと事情が切迫している様子ではありますが」
長々と何か言ってるけど、内容は頭に入ってこない。とりあえず「私悪くない」と言い訳しようとしてるっぽいな。よく分からん。
「ですので今回は、フィーユさんやあなた様方と協力したいと考えたのです。お互いメリットがあるでしょう?賢い選択だと思います」
全然賢くねーよ。
まず、わたしはラフネスだ。王太子にも王統派にも王弟派にも、どこにも好意的に迎え入れられるわけがない。
かろうじて国王は、曲がりなりにも自国所属の貴族には寛容にもなるだろう。でも切り捨てる駒をどれにするかとなれば、真っ先にラフネスを選ぶ。
そんなウチが、王太子派の手先になって得する事なんて一つも無い。
「他を当たってちょうだい。わたしはわたしたちだけで勝手にやるから」
「なぜです?私共と組めば、あなた方が必要としている情報をもたらせられるんですよ?ルバドール様の論文を不正だと言い出したのも、調査機関への査読依頼を取り消したのも、クラブ活動予算の凍結を指示したのも、全て王弟派のホスタイル教諭たちによるものだという証拠が手に入るんですよ?彼の者が教育文部省の予算委員会に圧力をかけに行っていた証拠もあるのですよ?」
(やっぱりそうかぁ)と思いつつ、甘言には乗らない。
「だからさぁ、敵対関係の相手からの情報なんて、真偽不明で信じれるわけないでしょ。ガセネタ掴まされるのはゴメンだわ」
「王太子殿下の名誉を授かる私達が、嘘をつくとでも?」
コーニー嬢の目つきが悪くなった。まるで無礼者!とでも言いたげだ。何にも分かってないな。
「権力争いの策謀っていうのはそういうものなのよ。むしろ嘘をつかないのが美徳だなんて言ってんなら、そりゃ王太子殿下は王弟殿下の派閥に負けるのも当然だ、としか思えないわ」
その上で、わたしは巻き込まれるのはゴメンだってだけ。
「……これらの証拠は、王太子派からも提出して、ホスタイル教諭の不正を訴えるつもりでいます。王弟派に支配されつつある学園側も、件の教諭を処分せざるを得ないでしょう。それくらい、確証のある証拠です。
しかし出来れば、王太子殿下のお名前は前面に出したくない。一種派閥関係に無縁な生徒たちによる告発にしたいのです」
(ガッツリ嘘つく気満開じゃん)
『神官の嘘は説法、将の嘘は智略』とかいうけど、王太子派の考えてるのは若さゆえか、あまりに稚拙だ。
だいたいが、学園内での処分?そんな甘いもんに意味あんの?
「ホスタイル氏と王弟殿下が元凶だってのは分かったわ。でもわたしは王太子派の提案には乗らない」
コーニー嬢が睨みつけてくる。
「こっちはこっちで勝手にやる。そっちはそっちで勝手にやりな」
そしてアンタとは、絶交だ。




