わたしの身を寄せる場所
今日は、衛士のお兄ちゃんが非番の日。
聴取を担当してた三人の青年が、そのまま見送りついでに同行してくれるという。
「社用の馬車使っていいらしいぜ?」
と、上役から官憲の営業車を借りてきてくれた。ついでに頼まれ事の買い物も隣り町でする予定なんだとか。おかげで乗り合い馬車を待たなくて済む。すごく助かる。
ほんと、優しい人たちだわ。彼らに出会えたわたしって、なんて恵まれた幸運の持ち主なんだろう。いつの日になるか分からないけど、恩返しは必ずしなくちゃね。
朝に出発して、途中お昼に軽く食べて、更にガラガラと走って夕方暗くなる前に到着。
フェアネス領の町と比べると、わりと暗い雰囲気の街並みだ。
「この町のどのへんだい?」
と訊かれたので、うろ覚えで目的の通り名を伝える。着いたのは、この『ラフネス領伯爵邸』だ。
同行の衛兵のお兄ちゃんたちが驚く。
「嬢ちゃん、ここはこの領地のお貴族様の邸宅だぜ?」
自分の婆さんに会いに来た、とか言ってたんじゃなかったのか?
「そうですね。挨拶してきます」
ササッと馬車を降り、伯爵邸の門番に名乗る。送られた割符があるから、わざわざ先触れの必要もないだろう。
用件を伝えると、「少々お待ちを」と伝令が走り、しばらくして、お付きの方もどうぞと邸宅内に招かれた。
「おいおいおい、こんなとこ俺らが入ってもいいのかよ…?」
豪奢ではないけれど正真正銘貴族の邸宅に、付いてきたお兄ちゃんたちはビビりまくってた。そして、わたしの出自に疑問いっぱいなようだった。
「ここからが、わたしがこの街に居てられるかどうかの瀬戸際なんで、お礼できるかどうかはもう少し待っててくださいね」
「いや、別に礼とかはいいんだけど…」
あまりに不安そうだったから軽口叩いてみたけど、緊張ほぐしてあげられるほどにはならなかったみたい。力不足、申し訳ない。
門を開けてもらい、エントランスに入る。この家の家令の老紳士が出迎えてくれた……途端に、メイドのひとりが飛び出してきて、わたしに勢いよく抱きついた。
「遅いですよ!心配したじゃないですか!」
大声上げて号泣してる。
いやあんた、そんなキャラじゃないでしょ…。
「久しぶりねアビゲイル。良くやってくれたわ、ありがとう」
まぁ、よっぽど心細かったのね。用事もちゃんとこなしてくれたし、労ってあげるか(よしよし)
侍女のアビゲイルも伴い、家令に執務室まで案内される。目的の御方は、まだお仕事中だそうだ。
通された部屋では、ガリガリと無言で事務仕事するペンの音が響いてる。中には5人の事務職の男性と、上座で執務する威厳ある老婆。
お連れしました、と家令が声を掛けた。
チラリとこちらを睨み、すぐ視線を書類に戻し放置される。
それだけでビビりまくるアビゲイルと、困惑する衛兵のお兄ちゃんたち。
お声がけが無い限りこちらから名乗るのは無礼なので、わたしはちょこんとカテーシーをして待つ。
(話から予想してた通り、いろいろとうるさそうな家みたいだわ)
ちょっと笑っちゃった。
「いつまでそんな窮屈な姿勢してんだい」
仕事がひと段落したのか、しばらくしてようやくお声掛けいただいた。
「お目見えのお許し頂きありがとうございます、アンネセサリーと申しますラフネス伯爵夫人」
「……手紙を見たよ。あのクソ女の娘かい」
「はい、あのクソ女の娘です」
名前も言いたく無い同じ女性をイメージし、唇がつい歪んだ。
そうしてしばしの睨み合い。アビーが緊張でブルブルしてる。
わたしより先にこの伯爵邸に身を寄せて、この洗礼も味わい済みだろう。
「で、そのクソ女の娘が、あたしらにいったい何の用だっていうんだい?」
「この伯爵領で暮らす事の許可を、いただきたいと思っています」
「どうしてアタシが、あのクソ女の娘に便宜をはかってやらなきゃいけないんだい?」
「あのクソ女の、娘、だからです」
(分かるだろう?それか、もう知ってるんじゃないの?)
という目で、じっと老婆の顔を見つめた。
緊迫感に、わたしに付き添う人たちが全員、ハラハラして浮き足立ってるのがわかる。取って食われるわけじゃないんだから、大丈夫だって。
「そうかい、そういう事かい…」
「はい、その通りです」
あんたには孫娘の保護する責任があるよね〜、とばかりにニッコリと笑いかけてみると、お婆さまは凄く嫌そうな顔をした。
はぁ…、と長く嘆息し、もう厄介事はゴメンなんだがねぇ……。と呟く。
そこはまぁ、観念して欲しい。




