16話
私とオスカー様は騎士団の事務所の方へ移動すると、応接室へと案内してもらった。オスカー様に待っているように言われ、大人しく部屋で待っていると、タオルを首にかけ、手には飲み物を持ったオスカー様が現れた。
私が立ち上がると、オスカー様が微笑みを浮かべて私に飲み物の一つを差し出した。
「レモン水だ。魔法具で冷やしてあったから冷たくて美味しいんだ」
「あ、いただきます」
「あぁ」
私達は椅子に座ると向かい合ってそれを飲む。
レモンだけでなく恐らく少し砂糖も入っているのであろう。甘みが感じられた。
「美味しいです」
「それはよかった」
「オスカー様は、その、第二王子殿下なのですが、その、よくご自分で動かれていて、すごいなと思います」
思わず、ずっと思っていたことが口から零れ落ちてしまう。不敬だったかなと思うと、オスカー様は肩をすくめて言った。
「よく言われる。だが、これには理由があるのだ」
「理由ですか?」
私が小首を傾げると、オスカー様は飲み物を一口飲んでから口を開いた
「あまり公にはされていないのだが、別段黙っていることでもなくてな。我が国の歴史にもなるのだが、先々代の時代に兄弟で王位を争うことがあって以来、兄には帝王学を学ばせるが弟はそうしたことに興味を持たないように教育されるのだ」
「え?」
「我が王国は兄が虚弱などの理由がないのならばそうすべきということで、私は元々剣が好きだということもあり、幼い頃から王国の剣と盾となるべく、鍛えてきたのだ。我が王国はそもそも国王が逝去しても他の貴族で王政を回す手立ては取られているという点も弟が王位から遠ざけられる理由としてあげられる」
「そう、なのですか?」
「あぁ。そして幼い頃から自分のことは自分で、鍛え上げ昇り詰めなければならなかった。第二王子というのは、皆が思っているような優雅なものではないのだ」
私はその言葉に驚いた。
王子というのはもっと人にもてはやされていると勝手に想像していたのだ。
オスカー様は、私を真っすぐに見つめると言った。
「自分の力で自分の道を切り開くのは容易なことではない。だからこそ、私は女性でありながら、頑張る君を応援したくなるのだと思う」
そう告げられ、私はパッと視線を反らすと、乾いた笑い声をあげて、どうにかその場を流せないかと焦った。
心臓が煩くなる。こんなのはダメだと自分を律するために大きく深呼吸をする。
「すまない。もしかして不快だっただろうか?」
「あ、いえ、違うんです!」
私は見上げてそう言い、呼吸を整えると、もうこの話題から早々に切り替えようと口を開いた。
「あの、今日、ここに来たのは話があって」
「あぁ。どうしたんだ?」
「えっと、出来れば明日、時間はないでしょうか!」
出来ればオスカー様にも見てもらい、自分が今感じていることを一緒に考えてみてほしかった。
「明日?」
「は、はい。えっと、その、一緒に、出掛けてほしくて」
「あ、あぁ……えっと、そうか。うん」
「午前中から、出来れば行きたくて」
「行きたいところは、決まっているのか?」
「あ、はい。ルロート神殿へ行きたくて、神殿に保管されている本を見て見たくて」
ルロート神殿に保管されチエル魔法陣の本は、外に持ち出すことは禁止されているが申請さえすれば見ることが出来る。
その中身を確認したい。
「なるほど。うん。では、神殿に行って、昼食は私のおすすめの所を案内してもいいか?」
「え? あ、はい」
たしかに調査をしにいけば、おそらく昼は過ぎるだろう。昼食場所を決めておくことでその後の時間短縮にもつながる、
「そうか。では昼から行きたい場所は?」
「えっと、ルロート神殿にいければあとは特には」
「うん。そうか……君は本が好きだし、王立図書館はどうかな」
王立図書館ならば、もしかしたらルロート神殿で分から鳴った場合、そちらで調べるのもいいかもしれない。
私はそう思い私は大きくうなずいた。
「はい! あ、それで、許可の必要な本棚もあって、王立図書館に行けるならば事前申請をしておいてもいいですか?」
「うん。許可は取っておこう。君は王城唯一の魔法陣射影師であるし、今後も自由に見て回れるように許可も取っておいた方がいいな。私の方で確認し、申請しておこう」
「え!? いいんですか!?」
「もちろんだ」
元々王立図書館には興味があったが、申請を毎回しなければならないことが面倒ではあったのだ。
私は嬉しく思い、これで何か確証を得られればいいなと思う。
オスカー様は少しそわそわとした様子で言った。
「その、明日は部屋の前まで迎えに行ってもいいだろうか」
「え? えぇ。大丈夫です。いいのですか?」
「あぁ。明日が楽しみだ。丁度休暇で良かった。君が誘ってくれるなんて、嬉しい」
「え?」
「では、明日。楽しみにしている。十時ごろに迎えに行く」
「は、はい」
私は嬉しそうに微笑むオスカー様のことを見つめながら、レモン水をちびりと飲む。
なんだか違和感がある。
オスカー様は明日休みだと言った。私も丁度休みで、それでも魔法陣について気になっていたので休みを返上で働こうと思っていた。
けれど、オスカー様までお休みの日に仕事をさせてもいいのだろうか。そう思った時、私は気づく。
休み。楽しみ。迎えに来てくれる……昼食。
オスカー様は飲み物を飲み終わると、立ち上がった。
「すまない。あまりながくここにはいられないので、そろそろ一度戻らなければならないんだ」
「あ、分かりました。忙しい中、お時間いただきありがとうございます」
「あぁ……」
オスカー様が、私の手を取ると、手の甲へ、キスを落とす。
「明日、楽しみにしている」
「へ?」
「すまないが先に戻る。コップはそこに置いていてくれてかまわないから。では」
「はい」
部屋に残された私は、一体何が起こったのか分からずに困惑する。
今までオスカー様はそんな、あんなに甘い雰囲気などだしたことがなかった。
それが、どうして……
そこで私はハッとする。
「まって、待って、待って!」
自分がオスカー様に言った言葉を思い出し、そして私は両手で顔を覆うと、気づいてしまった。
「私、オスカー様にデートの申し込みをした? え、それって告白したも同然じゃない。……あぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁ」
うなり声をあげるように私はその場で発狂した。
違う。私はあのように、人気のある男性を、異性としてなんて、見てはいけないと思っているからこそ、だから、そのように不埒な思いは。
支離滅裂な文章が頭をよぎる中、心臓が煩い。
そして明日、楽しみに少しでも思ってしまった自分が恥ずかしい。
「あぁぁぁあぁ。身の程知らずなのぉ!」
私は、悶絶するしかなかった。
読んでくださる皆様に感謝です!(●´ω`●)






