15話
古代魔法信者の一件から数日、私はあれからオスカーと共に調査を進めていた。それに伴い、魔法使いであるアルデヒド様と話をする場面もあり、私は感動した。
アルデヒド様は白銀色の髪と瞳を持った美しい魔法使いで、私は今回の事件について説明をしていったのだけれど、最後に魔法使いになりたいならいつでもおいでと小さく声をかけられた。
おそらくアルデヒド様はすぐに私の魔力に気が付いたのであろう。内心驚きながらも丁重にお断りしたのであった。
私は魔法陣の解析を始めており、オスカーとは頻繁に会いながら情報共有を行っている。
あの日起こったことについても、何故爆博したのか、他の発見されている魔法陣も爆発の恐れがあるのかなど話し合いをしており、メリルはいくつかの仮説を立てた。
そして仮説と実験とを安全面に配慮しながら繰り返すが、明確な答えが見えない。
多人数が魔法陣に乗り、乗った者の体から魔法陣に必要な魔力を吸い上げるという仕組みも考えたけれど、そう考えるならば私であれば魔力が抜かれたのは分かるはずだ。しかしあの時、そうした感覚はなかった。
「一体、どうやって魔法陣は発動したのかしら……」
無から有は生まれない。
魔法陣を起動させる魔力がなければ魔法陣は発動しない。
当たり前のことである。そして大量の魔力を消費すると言う歴史があったからこそ、あまりにも効率が悪いと魔法陣は廃れていったのだ。
私は、椅子の背もたれにぐっと体重をかけると大きく背伸びをした。
「っく……はぁぁぁ。あー。だめだ。煮詰まったぁ」
答えが見えない。その時、背後にロドリゴ様が立っていたことに気が付き、私は背筋を正す。
「魔法陣を確認しているのか」
「はい……何故魔方陣が発動したのかがわからなくて」
いつもはこうした質問はしないのになと思っていると、少しむっとした様子でロドリゴ様は口を開いた。
「最近は第二王子殿下と親しくしているようだが、仕事だっていうことをわかっておけよ」
「え?」
ロドリゴ様は嫌な感じの微笑みを浮かべると、声を潜めて言った。
「お前なんかが、相手にされるわけじゃないんだから、弁えておけってことだ」
「は……」
何を当り前のことを言っているのであろうか。
私はロドリゴ様の言葉に驚いていると、ロドリゴ様はにやにやとしながら言葉を続けた。
「調査しているふりして、お近づきになりたいんだろうが、相手を考えろ。お前に相応しい相手を探す方がいい」
そう言われ私は真顔で言葉を返した。
「あの、オスカー様が素敵な方なのは公然の事実であり、私が相手にされないのも当たり前なので、大丈夫です」
「あ、いや、そういうことを言いたいのではなくて、お前にはお前に相応しい相手を」
「はい。分かりました。でも今は魔法陣の解析が先なので」
ロドリゴ様は私の言葉に苛立たし気に声をあげた。
「そうだな! お前の仕事だもんな! 言っておくがそれだけが仕事じゃないからな! こっちにだってまだまだあるんだ」
しまったと思った。おそらくロドリゴ様の機嫌を損ねた。私はまたかと思いながら、ロドリゴ様に仕事を机の上に乗せられた。
「っふ。お前がいくらみても魔法陣の解析など出来るわけがないさ」
私はその言葉に、私でなければ一体誰が出来るのだと思いながら、そこで手を止めた。
「私がいくら見ても、解析が出来るわけがない……」
机の上に並べられた魔法陣を私は見つめながら、ハッとして立ち上がった。
「すみません。一度席を外します。残りの仕事は帰ってきてからします」
そう言って私はロドリゴ様が文句を言い始める前に部屋から飛び出した。
このロストマジックの魔法陣を見た時、違和感を覚えた。それは私が知っているどの魔法陣とも異なるものが組み込まれているからであった。
魔法陣とは規則正しい法則があり、形式や形にも意味がある。
一つ一つが独立した形をしているように見えてが繋がっている。
私は魔法陣射影師だからこそ、そこに縛られていた。
私は騎士団へと向かうと、オスカー様に会うためにその門をくぐったのだけれど、身長の高い筋骨隆々な男性ばかりいる騎士団に一歩足を踏み入れて固まった。
ここに私のような者がきていいわけがない。
そう思ったのだけれど、私の横を日傘をさした侍女を携えた令嬢達が通り過ぎていく。
「ふふふ。もうすぐ騎士様達の模擬試合公開の時間ですわぁ」
「わくわくしますわね。ふふふ。騎士様と良いご縁があるといいのだけれど」
そんな声が聞こえて私が振り返ると、他にも令嬢達はおり、その後をついて行くと騎士団の訓練場へとたどり着いた。
どうやら模擬試合の公開日のようで、令嬢達の楽しそうな声が響いていた。
貴族の令嬢達はこうして騎士団の男性を見に来ることがあるとは聞いたことがあった。
自分の専属の騎士を見つける為の者もいれば、恋人を求めている令嬢もいるようで、あまり自由のない貴族令嬢達の密かな楽しみの一つだという。
私は美しく着飾った令嬢達の姿に、一気に自分の姿が気になり、急いで騎士団の事務所の方へと向かおうとしたのだけれど、ひときわ歓声があがりそちらへと視線を向けた。
「オスカー様だわ! はぁぁ。いつ見ても素敵」
「本当に……いずれは騎士団の総指揮官をなるのではないかと言われているお方だものね。本当に素敵」
「ご婚約もされていないし! まだチャンスはあるわ」
熱狂的な令嬢達の声に、私はその先にいるオスカー様を見た。
騎士団の制服をきっちりと着て、剣を構えるオスカー様。その姿は凛々しく、私は目を奪われた。
剣を構え、模擬試合にて相手を寄せ付けることなくすぐに勝ってしまうその姿に令嬢達は声援を送っている。
まるで、自分とは住む世界が違う。
最近一緒に仕事をしていたから、距離が近くなったように感じていたけれど全然近くなどない。
遠いな。
私は一歩後ずさりしそうになった時、模擬試合で勝ったオスカー様と目が合った。
そして先ほどまでは凛々しかったオスカー様の表情が、一瞬で柔らかなものへと変わり笑顔を浮かべると手をあげた。
「メリル嬢! 来てくれたのか!」
ドクンと体の中の血が沸騰するかのような感覚がした。
バクバクと心臓が煩くなり、私は周りからの視線が怖くてうつむくと、ざわめきが聞こえる。
「え? 誰?」
「あ、私知っているわ。メイフィールド家の落ちこぼれ令嬢よ」
「まぁ。なんで、オスカー様と……」
こそこそとしたざわめきの中、オスカー様が私の方へと駆け寄ってきた。そして私の手を取ると言った。
「場所を移そうか。丁度試合も終わったところだ。ここの進行は他の者が行っているので大丈夫だから、向こうへ行こう」
「あ……はい」
内心いいのだろうかという思いがあったけれど、令嬢達からの視線が痛くて、私は同意すると歩き出したのであった。
歩いているとオスカー様が小さな声で言った。
「すまない。君が来てくれたのが、その……嬉しくて、ついはしゃいでしまった……他の人間もいたのに配慮すべきところ、すまない」
私の心臓はさらにうるさくなっていく。
ロドリゴ様の忠告の言葉が蘇り、自分自身でちゃんとわかっているつもりだったのにこの状況はすこぶる悪いと思う。
「いえ、大丈夫です」
そう言葉を返しながらも、私の想いとは裏腹に、心臓は正直に大きく鳴っていたのであった。
じめじめし始めましたね(●´ω`●)
評価やブクマでの応援もよろしくお願いいたします!励みになります!






