表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/175

判断

蒼が、次に視界が回復した時には、天黎は傍にはいなかった。

だが、しっかりと出て行く前の自分の居間の、椅子の上へとまるでずっとそこに居たように、座っている状態だった。

天黎は、蒼だけきっちり帰してくれたのだとそれで分かった。

すると、目の前にパッと碧黎が現れた。

「蒼?!主…天黎は来ておったのではないのか?!」

やっぱり気取っていたのか。

蒼は思ったが、頷いた。

「来てましたよ。でも、今は碧黎様とか他の神と話すつもりもないみたいで、オレに話があるって天黎様が居る空間へ連れて行ってもらっていました。いろいろ話して来たんですけど…天黎様は、別に維月と無理に命を繋ごうとは思っておられないみたいで。だから、維心様にも警戒しなくて大丈夫だってお伝えください。」

碧黎は、イライラと言った。

「それは、昨日会合の後の宴で維心と話したのでそうではないかと思っておった。それより、天黎はどうしておった?天媛もこちらへ来ておるし…一人では、いろいろ考え込んで煮詰まって何をするかと案じておったのだ。」

蒼は、ため息をついて首を振った。

「大丈夫ですよ。天黎様は落ち着いたかたですし、オレもいろいろ話して頂いて知ったんですけど、大きさから違うんです。単に命の大きさだけではなくて、心の大きさもですけど。」

碧黎は、ムッとした顔をした。

「なぜに蒼よ…確かに主は、素直であるし神達も皆、主には本音を申すような性質であるから、心地は分からぬでもないが…。」

自分を差し置いて。

とは、碧黎は言わなかった。

だが、蒼には碧黎が、天黎に対して水臭いと思っているのだろうな、と思った。長い年月見守ってくれた親なので、自分ではなく蒼と話そうと思ったのが引っ掛かっているらしい。

蒼は、言った。

「では、オレが話した内容をお話ししますね。別に、大したことを話したのではないんですよ。ほら、感情の事とか、碧黎様だってつい最近知ったばかりですし、オレの方がそっちには適任だと思われたんだと思います。」

碧黎は、眉を上げた。

「感情のこと?」

蒼は、頷いた。

そして、天黎と何を話して来たのか掻い摘んで話した。


碧黎は、話を聞き終わって少し、落ち着いたような表情になって、椅子に座り直した。

「…そうか。我らと話す時は、光の時でさえ小さくなって目線を合わせてくれたので、我も正確な大きさまで分からなんだが、天黎から見たら我はそんなに小さいか。」

そう言いながら、じっと自分の手を見ている。

蒼が、碧黎の大きさが指で作った丸程度、と言ったからだろう。

「オレ達なんてもっと小さいです。見失うぐらい。」と、自分の帯の石に触れた。「落としたら探すのが大変な大きさですよね。でも、まあオレ達は気を発しているから、それを読んで見つけ出してくださるんでしょうけど。」

碧黎は、頷いた。

「そうであるな。それにしても、数万年も天媛の弾丸トークというものに晒されていたのだろう?天黎は。よう我慢したの。感心するわ。」

蒼が、弾丸トークと説明したので、碧黎はそのまま言う。蒼は、碧黎が言うと違和感あるなあと思いながらも、苦笑して頷いた。

「そうなんです。十六夜なんて数週間でしたからね。オレでもひと月もつかどうか。きっとああいう性質なんでしょうね。でも、今は十六夜に嫌われたくないから黙っているんだと思います。命を繋いだから、十六夜がどれだけ鬱陶しく思っていたのか分かってると思いますから。普段は穏やかで、愛情深いかたなんですけど。」

碧黎は、少し顔をしかめて言った。

「愛情深いかどうかは知らぬが、あれらから見たら十六夜など小さな石なのだろう?それを想うなどの…一過性のものであるようにも思うがな。何しろ十六夜は、あれらから見たら全く育っておらぬ命であろうし、これが維心とかであるなら分かるのだが、十六夜であるからなあ。大きいのはそうであろうが、中身がのう。」

蒼は、同じように顔をしかめた。確かに十六夜は、素直で優しい性格だが、軽薄で気ままだ。それがまた自分に正直で良いとか思うのだろうか。

「…分かりませんけど。恋愛って、理屈じゃありませんもんね。碧黎様だってそうでしたでしょう?いきなり降って湧いて来たり、じわじわといつの間にかはまり込んでいたり、愛情って怖い一面もあります。」

碧黎は、言われて確かにその通りだと思ったのか、渋々頷いた。

「そうであるな。我だって、誰かを愛するまでは分からなんだが、理屈ではないし、抗えぬものぞ。天媛が十六夜を愛したのも、抗えぬものだったのだろう。天黎は…、焦っておっただけで、そんなに理不尽な命ではないのは、我も知っておったよ。」

蒼は、碧黎が天黎を理解しようとしているのに、微笑ましかった。

なんだかんだ言っても、碧黎は天黎が心配だし、慕っているのだろうと思った。

そのまま碧黎は、話すだけ話したらスッキリしたのか、またパッと蒼の前から消えて行ったのだった。


あれから数日、維心は恐る恐る維月から離れて政務をこなしていたが、維月は特に連れ去られるような様子もなく、問題なく過ごしていた。

維心が傍を離れる時は、義心が居間の隅で詰めていて、維月に何かあったらすぐに一緒に行けと言われていたので、義心は最近は、ずっと奥宮の居間に居た。

維心が居ない時だけなので日中だけだったが、維月はせっせと義心の前で帯を機織り機で織っていて、カタンカタンという音の合間に、維月に話しかけられては茶を飲んだりと、義心は仕事というより休養のような心地で務めていた。

帯が織れたら義心にもあげるわね、と維月は嬉しそうだったが、義心はそれどころではないのに、と内心苦笑していた。

だが、全く懸念することも無さそうに楽し気にしている、維月を見ていると、それでも良いか、と思っていた。

今日も、そうやって一日が終わる時間になって、維心が政務を終えて居間へと帰って来ると、義心は膝をついて維心を出迎え、維月は機織り機から立ち上がって維心の方へと足を進めた。

「維心様!お帰りなさいませ。」

維心は、無事な維月にホッとして維月に手を差し出すと、その手を握って引っ張り、傍へと引き寄せた。

「今帰った。本日も無事なようよ。」

維月は、頷く。

「はい。義心にも、私のお喋りに付き合わせるばかりで気の毒ですわ。本当に何もありませんのよ。ほら、蒼が話しに来てくれたでしょう?きっと、蒼が言う通りなのですわ。」

維心は、顔をしかめた。

確かに、蒼は碧黎に言ったのに一向に龍の宮へと天黎の話を伝えに行かない、と言って、わざわざ訪ねて来て、あの時の事を維心と維月に話してくれた。

二人はそれを聞いて、やはり碧黎と同じで律儀な命なのだ、とホッとして、それで維心も、政務に出て行けるようになったのもあった。

それでも、維心は心配性なので、義心を傍に置いているが、義心は筆頭軍神なので、その義心が常、奥宮から出られないとなると、軍務も滞る。

軍神達は皆優秀なので、義心が居ないぐらいではおかしなことは起こらないが、不測の事態を気取るとか、特殊な能力は義心が特別にあった。

維月の御守りだけに、使って良い人材ではなかった。

だが、維心にとって義心が一番信頼できるので、どうしても維月を守るのに、自分でなければ義心をと、ここに置いてしまっていたのだ。

維心は、言った。

「そうよなあ。確かに義心でなければならぬ任務も多いゆえ、これがずっと主の護衛ばかりというわけには行かぬのは分かっておるが…今少し。誠に安心となったらこれを通常任務に戻そうぞ。それまでは、我が居らぬ時は義心をここに。良いの?」

維月は、義心も困ってるだろうなあと思いながらも、維心が言うので仕方なく頷いた。

「はい、維心様。」

維心は、維月の返事に満足して義心を見ると、義心に言った。

「主もご苦労だった。また、明日も頼む。本日は戻って良い。」

義心は、膝を付いたまま頭を下げた。

「は!」

そうして、義心は戻って行った。

維心は、居間の隅に置かれた機織り機の方へと視線を向けながら、維月と共に正面の定位置へと座った。

「おお、昨日より進んだの。毎日よう励んでおるな。」

維月は、その金色の糸を見ながら微笑んだ。

「はい。良い出来だと織りの龍も本日、褒めてくれましたの。いつもは厳しいですのに。少しは上達したのかと嬉しくなりましたわ。これで、維心様の帯を織る事もそう遠くない未来には。」

維心は、微笑み返して頷いた。

「あまり根を詰めるでないぞ。我は楽しみに待つゆえ良いからの。」

維月は、維心様は優しいなあと感動して、維心に抱き着いた。

「はい、維心様。」

スリスリと維心の胸に頬を摺り寄せていると、維心が維月を抱きしめてくれる。いつもの事なので、幸福を感じながらそうしていると、目の前にそれこそ何の前触れも気の乱れもなく、天黎がパッと出て来た。

「!!」

二人は、虚を突かれてそのまま固まる。

天黎は、二人の前に立ってこちらを見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ