EP.FNー01 その目覚めは人知れずーIN THE COFFINー
は、話が進まねぇ。
EP.FNー01
ーー???
「…………何処だ、ここは?」
目が覚めたら、暗いどこかに囲われていた。
………というか、狭い。狭すぎて寝返りも満足に行えない。ロッカーにでも押し込められたかのような狭さだ。
もちろんだが、自分には狭い場所で寝るような趣味はない。ついでに言えば、昨日は普通にベットで寝た。なのに、なぜこんな狭いところに押し込まれているのだろうか。
取りあえず考えてはみたが分かるはずもない。情報が少なすぎる。
何はともあれ、まずはここから出よう。そう考え、取りあえず、眼前のーーつまりは上部の天井(?)を押し開けようと試みるがーー、
「………………………………。」
--開かない。
再度、そもそも開くものではないのか?と考えつつ試みるもやはりと言うべきか開く気配はない。
若干の苛立ちもふまえ殴りつけるが、仰向けのうえ周りを囲まれているためか満足に力が入らない。
一向に開くことがないため、彼はもう知らんとばかりに蹴り上げた。思いっきり。普通に蹴ったのでは、殴りつけていた時と大して結果は変わらないだろうと思い、体と眼前の天井(?)の間に足を滑り込ませ、押し上げるように。空手で言う「前蹴り」というやつだ。これならば、背面とに預けた背中と臀部が支えとなり、この空間の狭さが逆に助けとなる。ただ、彼の体格ならば天井(?)に足の裏を押し付ける状態にはならず、天井(?)に足が引っかかるはずなのだが、そうならずに難無く足を滑り込ませ、蹴り上げる。
かくして天井(?)は吹き飛ぶ……がーー。
「……………………………………………………は?」
ーー想像以上の力が出た。
吹き飛んだのは天井ではなく蓋だったらようだ。証拠に本来の天井とぶつかり、砕け散る。本人は想像以上の結果が起こったことに驚き、固まる。
自分の剥き出しの足が随分と小さく華奢なことに気付くが、それを深く考える間はなかった。何故なら、砕け散った何かが降ってきたからだ。
「……くッ!?」
咄嗟に顔を庇い身を守るが、落ちてきた破片で体の数ヵ所に裂傷を作る。
「クソが………………あ゛?何だこれは?」
裂傷の痛みに毒つく。想像より軽い痛みだったが痛いものは痛いのだ。だが、目覚めてから起こり続ける異常はそれで終わりでは無かった。その裂傷から流れるモノが血でなかったのだ。仰向けのまま腕を伸ばし、傷の状態を確認する。傷口から流れるモノ。厳密には『流れる』という表現もおかしい。傷口からは鮮血を連想させるような紅い粒子が宙に撒かれている。その小さな紅い光も数秒もしないうちに空中に溶け消える。更には、身体に残る他の傷もゆっくりとだが目視できる速さで治っていく。
「何なんだこれは?この光の塊もそうだが、この傷の治りの早さ………………………………………ありえないだろう。」
治癒とかそう言うレベルの話ではない。傷を負ったという時間そのものを吸い取ったかのような治りだ。
いつの間にか、他の裂傷による体の痛みも消えている。
自分の体の異常性に疑問を覚えるが、そんなものに自分の知識で答えが導き出せるわけがない。彼はあっさりと考えることを諦める。
何時までもこのままでいるわけにもいかないので、両手を自分を閉じ込めていた何かの縁にかけて上体を起こそうとしたところで肩と背にくすぐるような感覚が起こった。背後を、確認しようとして視界に入ったのは自分の物とは思えない程に華奢な肩。そして、やけに長く光沢のある黒髪。
ーー誰の髪だ?コイツは......。
いや、視界の入り方から自分の髪だと分かるのだが......。長過ぎる。ついでに言えば、本来の俺の髪にこんな光沢はなかった。本当に自分の物か?これ。
彼は何となく察しているのだが、ゆっくりと視線を下に降ろしていく。
最初に見えたのは、先程見たやけに長い黒髪と、随分と華奢な肩。
転じて次に見えるのは、僅かばかりの膨らみを持った胸、随分と細い腰、そしてーー。
「未使用のまま、喪失か......はは。」
随分と渇いた笑いが溢れた。
視線の先にあるのは股間部。渇いた笑いの原因は脚と脚の間にあるはずモノが無く、無いはずの丸みと谷間があったためだ。
彼ーー否、彼女は視線を外す。受け入れられない現実から逃げるように。だが、悲しいことにその行為が逃げたはずの現実を直視せざるえない状況に陥らせた。外した視線の先にあったのは鏡。それだけだ。だが、それだけで理解したくない現実を理解するには充分だった。
鏡に写ったのは、齢が10と少し程度の少女。つり目がちで真紅の瞳。肌はと雪のような白。比喩でも何でもなく、まったくの白。黒髪ということもあり、二つが互いに互いを際立たせている。血色が無いというのに不思議と生気を感じさせる相貌。
「お、おい。コレはどういった冗談だ?」
鏡に写る自分の姿はやはり見知らぬ誰か............という訳ではなかった。
「えーと、あれだ。夢だ。夢オチってやつだな。うん。」
自分に言い聞かせるように語る彼女(彼?)。夢オチでないことは先程の痛みで分かりきっている。鏡で現実を突きつけられたのに、未だ現実逃避を続ける彼女(やっぱり彼?)。
「...........................。」
眼を閉じ、眉間に皺を寄せながら静かに未だに逃避気味の思考と現実を擦り合わせ、最も納得のいく解を求める。
最も有力な夢オチ説は前途で述べた通り違うと考えるのが妥当。
ならば、それ以外といえばーー。
「......っっっけんな!!眼が覚めたらゲームの世界に迷い込んでましたとか冗談にもほどがあるッ!!」
「彼女」の名はクロノア。彼が以前まで遊んでいたオンラインゲームのプレイキャラの一人である。
今回の描写に「夢オチ」を使ったのですが、マジで夢の中では痛みをかんじないのでしょうか?めっちゃ謎です。
「夢の中で頰をつねる」という行為を真剣にやろうとして10年はたったと思うのですが、全くできません。
大半は夢を見た記憶が無いのですが、時たま夢の内容を覚えたまま起床しても、それを夢と気づかず後で「しまったあああ!!」と悶絶する日々を送っています。
この謎が解ける日はいつかくるのでしょうか?