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Early Days  作者: Hirotsugu Ko
本編
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6/30

第五話

 それから数日が経ったある日のこと…

「もっと声を出せ」

 先頭を切って走る鍋島の激に、

「ファイト…ファイト!」

 野球部員たちは大きく声を出し、土煙をあげながらランニングをしていると、そこへ下校中の剣崎たちがフェンス越しに彼らの姿を見つけ、

「けっ…やっているぜ。竜岡の奴…」

 おもむろに毒づいた。

「ファイト、ファイト…」

「声が小さいぞ…腹から声を出せ、竜岡!」

 先輩らに叱咤される優希を見て、

「あんなことやって、何が面白いんだか…」

 彼は、ペッとつばを吐き捨てると、

「この前のこともあるしな…このまま乗り込んで、めちゃめちゃにしてやろうか」

 仲間たちに目を合わせた。と、その時、目の前から手島と芦田が現れたのだった。

「なんだ、お前ら…お礼参りにでも来たんか?」

 手島が、ギロッと剣崎を睨むと、

「けっ…たまたま、ここを通っただけだろうが…いちいち、因縁つけてくるんじゃねえよ」

 彼は、そう言い放って逆に睨み返した。すると、

「なあ…だったら、少しだけでも、うちの野球部の練習を立ち見していかないか?」

 芦田は、険悪な二人のムードを察して、そう提案した。

「おお、そうだな。少し覗いていくか」

 その提案に、手島が賛同すると、

「はあ…何を言ってんだ、お前ら…何で、俺が他校の野球部の練習なんか見ないといけねえんだよ。そんな暇じゃねえしよ」

 剣崎は、思わずあきれた顔をした。

「まあ、そう言わず、見て行けよ。大体、お前らが忙しいわけねえだろうが…」

 手島が、フェンス越しにグランドの方へと目を向けると、

「物好きなもんだぜ。まあ、昔のよしみで、少しだけ付き合ってやるか」

 彼らは、しぶしぶ同じ方に視線をもっていったのであった。


「よし、次は守備練習をするぞ…全員、グラブを持って、そこへ並べ」

 鍋島は、ボールとバットを持ち、

「さあ、誰からでもいいぞ」

 そう部員たちに言うと、優希がイの一番に名乗り上げたのだった。

「お願いします!」

「威勢がいいな…竜岡…」

 鍋島は、やる気に満ちた彼の態度に口角をあげた。そして、掛け声と共にノックを開始したのであった。

「おっとっと…」

 その強烈な当たりに、優希が思わずトンネルをすると、

「どんなことがあっても、ボールを逃がすな…体を張ってでも、ボールを止めろ」

 彼は、その失態に怒鳴り声をあげた。すると、

「ぎゃははは…何だ、そりゃあ…トンネルしてんじゃねえよ、このヘボ野郎がよう!」

 剣崎と仲間たちは、それを見て大爆笑をした。

「さあ、もういっちょう!」

 鍋島が、続けてノックをすると、

「よっしゃ!」

 優希は、難なく捕球をした。ところが、

「ボールがやって来るまで、つっ立っているな。もっと、前へ出ながら捕球しろ。じゃないと、アウトが取れないぞ」

「す、すみません…」

 と、叱咤され、彼は頭をかいた。それを見て、剣崎は、

「くっくっく…内野ゴロで、アウトを取れないってか…笑わせてくれるぜ!」

 腹を抱えながら、そう言葉を吐き出したのだった。

「もういっちょうだ…竜岡!」

 鍋島は、そう言って、さらにノックをした。すると、

「うおっ!」

 優希は、その打球に対して、万歳をして反らしてしまった。

「前へ出ろと言っても、ただ突っ込んで来るだけじゃ、ダメだ…打球のタイミングを見極めながら捕球しろ」

「はい!」

 彼が、鍋島に対して、大きく返事をすると、

「おい、おい…何なんだよ、あの守備は…だらしねえな」

 剣崎は、大きくあくびをした。それに対して、

「しかし、今日は、やけに怒られているな。奴は…」

「でも、それだけあの主将が、熱を入れて竜岡くんを鍛えようとしているのが、ひしひしと伝わってきますね」

 手島と芦田が、そう口にすると、

「おう、おう…熱血青春って奴だね、大いに結構なことだ」

 彼は、手で顔を仰ぐジェスチャーをしたのだった。

「いくぞ!」

 次の打球がやってくると、

「うっしゃ!」

 優希は、うまくキャッチして、すばやく投げ返した。ところが、そのボールは、受ける相手から大きく軌道が反れて、あさっての方向へ行ってしまった。

「相手をよく見てから投げろ…暴投は、敵に進塁を許すきっかけになると、何度も言っているだろうが!」

「面目ねえ…」

 鍋島の怒声に、彼は苦笑いをすると、

「こりゃあ、ダメだな…奴は、素質ゼロだぜ」

 剣崎たちが、その場を去ろうとして時、ふいに手島が彼らを制した。

「まあ、待てよ…昔の仲間が、がんばっているんじゃねえか…もうちっと、見ていけよ」

「これ以上見ても、暇つぶしにも、何の参考にもなんねえよ。大体、なんでここに居るのか、意味わかんねえし…」

「いいから、黙って見ろ!」

「何なんだよ…まったくよう…」

 そして、彼らは、ぶつぶつ文句を言いながらも、もう少し様子を見ることにしたのだった。


 そして、優希の守備練習は、さらに続いた。

「はあ、はあ…くそっ…」

 彼が、息を切らしながら、ふがいない自分に苛立ったが、

「疲れただろう…このくらいにしとくか」

 鍋島の言葉に、首を振った。

「俺なら、まだやれるぜ。主将…」

「気持ちはわかるが、他のみんなも練習をしなければならないんだ。お前一人に、構っているわけにはいかない」

「なら、あと一球だけでいい…お願いします!」

「わかった…あと、一球だけだぞ」

 鍋島は、そう言ってバットを構えると、

「全神経を集中させろ…一発で決めるつもりで来い」

 そう声を張り上げて、ノックをした。すると、

「おらあ!」

 優希は、その打球を見事にキャッチして、きれいに送球した。そして、

「よし…今のは、なかなか良かったぞ。それを忘れるな!」

「はい…ありがとうございました!」

 彼に対して、深く礼を言ったのだった。

「OKが出た…さすが、竜岡くんだ」

 芦田の言葉に、

「やりゃ、できるじゃねえか…あいつは…」

 手島が小さく笑うと、

「けっ…」

 剣崎は、そっぽを向いた。

「なあ…何か感じないか」

「何をだ!」

「昔、一緒につるんでいた奴が、必死にがんばっていやがる…あの喧嘩だけしか能の無い奴がだぜ」

「関係ねえよ。奴は奴、俺は俺だぜ…好きにさせれば、いいんだよ」

 手島の問いかけに剣崎は、吐き捨てるように言うと、

「今のあいつを見ていると、何だか俺も何かやること見つけて、がんばらにゃなんねえなって気がしてくるぜ」

 ふいに彼は、そう呟いたのだった。それを聞いた剣崎は思わず吹き出し、

「お前も何かやろうとしているんかよ?」

 聞き返すと、

「ああ…応援部に入ろうかって思っている。これからも、奴らを応援していきたくなったんでな」

 その発言に、芦田は両手をあげた。

「いいっスね…それだったら、僕も応援部に入りますよ」

「そうだろ…いっちょう、やってやるか」

 そのやりとりに剣崎は、ペッとツバを吐き捨て、

「勝手にやっていろ…バカが…」

 仲間たちを連れて、その場を去ろうとしたのだった。

「けっ…どいつもこいつもよう…」

 彼は、そう言いかけて、チラリと野球部たちを見ると、優希のもとに晴翔が、駆け寄る光景を目の当たりにしたのであった。

「よう…なかなか熱いじゃねえか、野球少年…」

「うるせえよ…」

 晴翔の皮肉に優希は、そう言い返した。そして、

「最後の守備は、結構いい線いっていたぜ…この調子でがんばんなよ」

「てめえ、俺よりも主将に褒められたからと言って、いい気になってんじゃねえよ…このカン違い野郎が!」

 彼の発言に、晴翔はカチンとくると、

「なんだと…折角、褒めてやってんのに、何だその態度は!」

 優希の頭を脇に抱えて締め上げた。すると、

「上等だぜ、このうぬぼれ屋さんがよう!」

 彼は、晴翔の技をするりとほどいて、逆に締め上げたのだった。

「ぐ、ぐわあ…く、苦しい!」

「ほれ、ほれ…おとなしく、ギブアップをしな…」

 そのタップに、優希はヘッドロックを解いて彼の肩をポンと叩き、

「わはははは!」

「がはははは!」

 笑いながら肩を組み合ったのであった。その光景に、

「ふっ…団体競技ってのは、いいもんだな」

 手島は、そうこぼした。

「…」

 それに対して剣崎は、無言で目を反らして歩み始めたが、

「俺も何かやること見つけるかな…」

 そう口にして、その場を去っていったのであった。

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