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Early Days  作者: Hirotsugu Ko
本編
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5/30

第四話

 それから数日が経ったある日の昼休みのこと…

「また、授業が終わったら練習か…やってられんな」

 弁当を食べ終わった優希は、思わずため息をついた。

「朝早くから授業が始まるまで朝練をやって、授業が終わったら夜まで練習のサイクルだからな…しかも、土日もおかまいなしで、練習漬けだし…どっかで、息抜きしたいもんだぜ」

 と、机の上で寝ようとした時、クラスメイトの手島健司が声をかけてきた。

「かっかっか…そろそろ、根をあげて来たようだな」

 この手島と言う男は、優希と同じ中学校の出身者で、一緒につるんでいた不良仲間であった。ちなみに、この二人はその中学校のワルのツートップであり、校内で知らない者がいないほどである。

「るっせえ…愚痴でも吐かにゃ、野球部は務まらねえんだよ」

「中学時代じゃ、番長やっていたくせに、名折れもいいとこだぜ」

 手島は、両手をあげてため息をつくと、

「てめえには、この練習地獄って奴は、一生わかんねえよ」

「だったら、やめちまえよ…野球部なんてよ」

 途端に食ってかかってきた優希にガンを飛ばした。

「そう言うわけには、いくかよ…」

「無理するなって…昔みたいに、俺と一緒につるんで遊んでいた方が、はるかに楽しいぜ」

 それを聞いた優希は、

「まあ、そうかもしれんな」

 無言で頷いたが、

「そうだろ…大体、てめえは野球なんてものをやるガラじゃねえんだからよ。人間には分相応ってもんがあるんだから、そこんとこをよく理解しとかねえとな」

 ふいにかっとなり、立ち上がるやいなや手島をぶん殴ったのだった。

「何しやがる!」

 彼は、立ち上がって優希の胸倉を掴むと、

「人が一生懸命やっているのに、やる気無くすようなことを言っているんじゃねえよ」

「何だと、このチキン野郎が!」

 そう怒鳴って殴り返した。

「てめえ、ぶっ殺してやらあ!」

 こうして、優希と手島の殴り合いが始まったのだった。と、その時、彼らの教室の横を通り過ぎようとした玄奘が、血相を変えながら止めに入った。

「おい…やめろ、竜岡!」

 彼は、そう言って、二人の拳を両手で受け止めると、

「てめえ、また邪魔する気か」

 優希は、目を血走らせて、大きく声を上げた。だが、

「とある高校球児が暴力事件を起こして、その野球部が公式戦の出場停止になった過去の事例を知らんのか」

「うぐ…」

 玄奘の言葉に、彼は動きを止めた。そして、

「高校野球の世界は、とても厳格なものだ…自分勝手な振る舞いをして、野球部のみんなに迷惑をかけるな」

 拳をだらんと下したのであった。その様子に手島は、

「わははは…それ、みろ…お前には、野球をやる資格はねえんだよ」

 大きく高笑いした。すると、玄奘は振り返り、

「ほんとに、すまなかった」

 おもむろに頭を下げたのだった。

「だが、彼は、本気でやりたいことを見つけ、それに向かってがんばろうとしているところなんだ。このくらいで、許してやってくれ」

 それを見た彼は、気まずそうにポリポリと頭をかくと、

「まあ、心配するな…」

 と、切り出し、

「こいつは、昔からのダチだ…こいつの面目がつぶれるような真似はしねえよ」

 玄奘を安心させようとした。その様子に、優希は、ぺっとツバを吐き捨てると、

「けったくそ悪いぜ…もう野球なんざ、やっていられるかよ」

 そう捨てゼリフを吐いて、さっさと教室を出て行ってしまったのであった…


 そして、放課後…

「はあ…竜岡が、そんなことを言って、ばっくれただと?」

 部室で練習着に着替えながら、

「ああ…どうやら、勝手に校門を出て、そのまま行方がわからなくなったみたいなんだ。午後の授業にも出てなかったそうだし…」

 玄奘から、そう話を聞くと、途端に晴翔はあきれかえった。

「どうせ、こんなことだろうと思ったぜ…やっぱ、無理だったんだよ」

「君まで、そんなことを言うなよ」

 彼の発言に、玄奘はムッとしたが、

「わりい…少し言い過ぎたよ。しかし、俺たちはこれから練習しなければならないんだぜ。奴を探すためにサボるわけには、いかねえしよ…」

「しかし…」

「そんなに、心配はいらねえって…ちょっと頭に血が上っているだけだろ…冷めたら、そのうち帰って来るさ。何せ、奴は野球が好きなんだからな」

「…」

 不安な気持ちをぐっと抑え、優希の野球への思いを信じようと、懸命に自分へ言い聞かせたのであった。


 その頃、優希は、ゲームセンターで格闘ゲームに没頭していた。

「ちっ…また、やられちまったよ。何だよ、このゲームは!」

 あえなくゲームオーバーになった彼は、

「最近のゲームは、設定を難しくしすぎなんだよ。このコイン泥棒が!」

 思わずそのゲーム機を叩いた。そして、

「ああ…かったりいな…野球もゲームもよ。もっと面白えことはないのかよ」

 そう言って背伸びをした時、向こうの方で何人かがたむろして、揉めている光景を目の当たりにし、

「あれは、芦田に、剣崎たちじゃねえか?」

 彼は、そう言って、缶コーヒーをグビッと飲み干した。芦田弘樹と剣崎雅史は、中学時代に優希とつるんでいた仲間で、彼と同じ大志高校に入学した芦田は、グループでパシリをやっていた男である。一方、別の高校へ進学した剣崎は、竜岡・手島に続くNo.3的存在で、血の気の多い男だ。

「ちょっと行ってみるか…」

 そう言うと、優希はおもむろに立ち上がって、彼らのいる方へ向かった。


「ちょっと遊ぶ金が欲しいんだよ…早く出しな」

 剣崎は、同じ高校の不良仲間と共に、芦田を脅すと、

「それが、今日はあんまし持ってなくてさ」

 彼は、何とかその場を切り抜けようと笑って誤魔化そうとした。そして、

「うだうだ、言ってんじゃねえよ…パシリの芦田がよう!」

 芦田の態度に、彼がそう激高した時、優希がずいっと割って入ってきた。

「おい、何してんだよ。てめえは!」

「おう…誰かと思えば、竜岡じゃねえか。久しぶりだな」

 剣崎が、ニヤリと笑って、

「見ての通り、芦田にカンパしてもらおうと思ってな」

 そう続けると、ふいに優希はキレて、

「ざけんなよ…芦田は、俺の学校の人間だ。勝手に、カツアゲしてんじゃねえぞ」

 メンチを切った。すると、

「ああ…何か、文句があんのか、こらあ!」

「ありあり何だよ、バカヤロー!」

「死にてえのか…てめえ!」

 剣崎が、顔をひきつらせて声を荒げた。その態度に、

「上等だぜ!」

 中学時代では自分の方が格上だったと言う自負もあったため、ついに優希は拳を振り上げようとした。と、その時、横から芦田が声を上げた。

「ダメだよ、竜岡くん…野球部の君が、こんなところで喧嘩したら、大問題になっちゃうよ」

 その言葉に、優希はピタリと止まった。

「はあ…お前、野球部なんかに入ったのかよ?」

 剣崎は、そう言うと、大きく高笑いした。

「ぎゃはははは…マジかよ。超うけるっつうの!」

「わ…わりいかよ…」

 優希が、ムッとしながら、そう答えると、

「いい話を聞かせてもらったぜ…ならば、てめえは手が出せねえってことだな」

 剣崎は、仲間に合図をして彼を囲ませた。そして、

「剣崎…てめえ!」

「ここで、てめえをボコボコにしておきゃ、もはや俺の天下だぜ」

 容赦なく、彼を殴りつけたのだった。

「この野郎!」

 優希が、怒りのあまり思わず殴り返そうとした時、

「殴ったらダメだ…竜岡くん!」

 芦田は、そう叫んで背後から剣崎にしがみついた。だが、

「やめてくれ…剣崎くん!」

「パシリは、すっこんでろ!」

 あっさりと彼に振り払われて、振り向きざまに殴り倒されたのであった。

「芦田!」

 優希は、そう叫んで彼を助けようとしたが、

「そうは、問屋が卸さないってよ」

 剣崎の仲間たちによって、フルボッコにされたのであった。そして、

「げ…げふっ…」

「ぎゃははは…手出しのできねえ竜岡なんざ、目じゃねえっつうの!」

 剣崎は、そう言い放って、よろめく優希に止めを刺そうとした。と、その時、背後から何者かが現れて、彼を殴り倒したのだった。

「や、野郎!」

 剣崎が、立ち上がろうとした瞬間、

「ずいぶん、派手にやってくれるじゃねえか…剣崎よう!」

「手島くん…」

 芦田は、思わず息を飲んだ。

「言っておくが、俺は野球部でも何でもないんでな…手だろうが、足だろうが、何でも出るぜ!」

 そう言って、手島が、優希に群がる剣崎の仲間たちを、次から次へと容赦なく殴り倒していくと、

「お…覚えていろ!」

 剣崎は、仲間たちを連れて、そそくさと退散していったのだった。

「また、派手にやられたもんだな…竜岡…」

 手島が、小さく笑って手を差し伸べると、

「うるせえよ…」

 優希は、ぷいっとそっぽを向いた。

「それよりも、こんなところで油を売っていていいのかよ。頭も十分に冷えただろし…そろそろ、戻りな」

 それを聞いた彼は、ポリポリと頭をかき、

「しゃあねえな…」

 立ち上がると、

「ありがとな。手島…」

 小さく笑って見せた。それを見て、

「なあに…礼を言われるほどのことは、してねえよ」

 手島も小さく笑ったのだった…

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