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Early Days  作者: Hirotsugu Ko
本編
13/30

第十二話

 そして、東亜工業高校と交流試合を行う日が訪れた…

「今日は、私たちの初陣だ。先輩たちが見ている中で、戦うことになる。志高の名に恥じない試合をするぞ。いいな!」

「おおっ!」

 試合前に円陣を組んだ大志高校1年生たちは、チームリーダーの玄奘の言葉に、大きな声を張り上げた。すると、円陣の横で控えていた鍋島は、

「練習試合とは言え、舐めてかかるなよ。自分たちにとって、糧となる有意義な試合をしろ…いいな!」

 と、彼らを激励した。

「はい!」

 それを聞いた彼らは、割れんばかりの大きな声で、そう答えたのだった。

「ずいぶん、気合いが入っているな。奴らは…」

 谷口は、不敵な笑みを漏らすと、

「ふっ…すぐに、ぐうの音も出ないようにしてやるぜ」

 別駕は、そう言って、仲間たちに目を合わせた。

「まあ…お前の一存で試合をするハメになったが、感謝しているぜ。腕を振るう場所がないと、鈍ってしまうからな」

 東亜工業高校1年生のピッチャーの城山勇治が、ニヤリと笑うと、

「こちらも先輩らに睨まれた中での試合だから、負けるわけにはいかないぜ」

 キャッチャーの川崎保は、バスンとキャッチャーミットを鳴らしたのだった。

 ちなみに、両校の1年生同士が試合をするとのことで、この機会にレギュラーメンバー同士で交流試合をしようと言う運びとなり、彼らの試合の後で、両校が激突する予定となっていた。

「公式戦を前に、今年のダークフォースと呼ばれている東亜工業と練習試合ができるとは、願ったり叶ったりだぜ…虎頭たちには、逆に感謝しないといけないかもしれんな」

 彼らを見ながら、鍋島は、そう苦笑いしたのであった…


 そして、1回表、東亜工業高校1年生チームの攻撃が始まった。

「今こそ、お前のピッチングを披露する時だ…気合い入れていこうぜ」

「おう…任せておけ!」

 藤次の力強い声を聞いた玄奘は、笑顔で自分のポジションに戻っていった。

「しかし、大丈夫かな…先輩たちとの試合じゃあ、めった打ちにされたし、暴投も多かったしな」

 と、晴翔の心配を余所に、藤次は第一球目を勢いよく、キャッチャーミットに捻じ込ませたのだった。

 …ズッバーン!!!

「ストライーク!」

「おお…なんかすごかったぞ、今の…」

 晴翔は、藤次の速球に、はっと目が覚めた。

「いいぞ、藤次…その調子だ!」

 玄奘が、そう大きな声を出しながら返球すると、

「なかなかやるじゃねえか…志高もよ」

 東亜工業高校1年生チームの1番バッター・服部は、ニヤリと笑った。

「ふっ…そう簡単には、打たせはしないぜ」

 藤次は、大きく振りかぶって、第二球目を投げた。それに対して、

「おらあ!」

 服部は、大声をあげてバットを振ったが、それはむなしく空を切った。そして、

「ストライクツー!」

「おっかしいな…」

 そう漏らすと、彼は打席を外して、数回ほど素振りをしたのだった。

「へへっ…完全に振り遅れてやがるぜ、あいつ…」

 と、晴翔が、小さく呟いた瞬間、藤次の放ったボールは、見事に服部を空振りさせたのであった。

「ストライーク、バッターアウト!」

「いいぞ…先頭バッターを三振とは、また憎いね!」

 そう景気よく、晴翔が藤次に声掛けすると、

「ナイス、ピッチング!」

 他のナインたちもこぞって、声を掛け始めたのだった。

「けっ…一人三振とったぐらいで、ガタガタうるせえんだよ。ヘボ集団がよ…」

 その声援を聞いて別駕が愚痴ると、

「まあ、見ておけ…俺が、奴らを黙らしてやるかよ」

 2番バッターの四葉は、不敵な笑みを浮かべながら、バッターボックスへ向かっていった。

「さあ、この調子で三振の山を築いてやれ」

「ああ…」

 玄奘の言葉に、藤次は表情を引き締め、四葉に対して第一球目を投げた。

「なめるなよ!」

 彼は、フルスイングで臨んだが、ボールに当てることができず、大きく空振りし、

「ストライーク!」

「くっ…際どい球を投げやがるぜ」

 目をひん剥いて、歯ぎしりしたのだった。


 そうこうしている内に、四葉が、あっと言う間に三振で倒れてしまうと、

「いいぞ、烏丸…連続三振だぜ」

 晴翔たちの声援は、さらにグランド内をこだました。

「ちっ…ならば、俺が口火を切ってやるまでだ」

 別駕が、ぺっと唾を吐いてから打席に入ると、

「3番は、あのクソ野郎か」

 晴翔は、途端に表情を険しくさせ、

「そいつには、遠慮することはないぜ…ボコボコにいわせてやれ、烏丸!」

 拳をあげながら、そう叫んだ。

「やれやれ…騒がしいことだな」

 藤次は、小さく笑ったが、

「来い…この3流ピッチャーが!」

 別駕の挑発に、眉を細めると、

「笑止…」

 そう短く言葉を切って捨てた。そして、大きく振りかぶり、容赦なく第一球目を放った。すると、そのボールは、まるで獲物に襲いかかるかのように、迷うことなく突っ込んできたのであった。

「うおりゃあ!」

 別駕は、そのボールに対して怯むことなく、バットを振り抜いた。しかし、そのバットは、容易くボールを捉えることができなかった。

「ストライーク!」

「おのれ…」

 彼が、肉食獣のような目になって、マウンド上の男を睨みつけると、

「ふっ…熱くなってやがるな」

 藤次は、それを受け流すかのように第二球目を投げた。

「もらったぜ!」

 別駕は、執念でそのボールを捉えた。だが、打球は大きく外れて1塁ベンチの奥へと飛び込んでしまった。

「ファール…」

「今のは、良いスイングだったな。さすがに、3番バッターだけのことはある。気を付けていかないと」

 玄奘は、そう言って、アイコンタクトをすると、

「むう…」

 藤次は静かに頷いた。

「さあ、次はホームランにしてやるぜ」

 別駕は、そう叫んで目を光らせると、

「減らず口が、多い奴だぜ」

 彼は、涼しげに発しながらも、情熱を込めた第三球目を投げたのだった。

「今度こそ、もらった!」

 別駕は、フルスイングでボールを捉えようとした。だが、そのボールは、急に失速して挙動を乱すと、ストンと落ちてきたのだった。そして、

「な、何っ!」

 …ブーン!!!

 …ズバーン!!!

 別駕は、驚きの表情を浮かべながら、大きく空振りしたのであった。

「ストライーク、バッターアウト。スリーアウト、チェンジ!」

「やったぜ!」

 晴翔たちが、大喜びで藤次のもとへ駆け寄っていくさまを見ながら、

「別駕の奴、熱くなりすぎだぜ…俺まで、ちゃんと打順を回せっつうの…」

 4番バッターの谷口は、深くため息をつき、

「フォークとは、味な真似を…次の打席は、みてろよ」

 別駕は、そう言って、バットを大地に叩きつけたのだった…


 そして、1回裏となり、大志高校1年生たちの攻撃となった…

「向こうは三者凡退で、こっちにとっちゃ、良い流れだ。烏丸のピッチングに応えるためにも、先制点を取らなくちゃな」

 小平太が、数回素振りをしてから、バッターボックスに入ると、

「向こうに三者凡退を決められたんだったら、こっちも三者凡退でお返しをしてやらないとな」

 城山は、ニヤリと笑って、第一球目を投げた。

「なっ…」

 その尋常でない球威に、彼はいとも簡単に見逃してしまい、

「ストライーク!」

「速い…」

 思わず生唾をのみ込んだ。

「へい、へい…どうした、バッター。見ているだけじゃなくて、お手々を使いな」

 別駕のヤジに、

「あの野郎!」

「やめとけよ…奴の十八番の遠吠えだ。聞き流しとけ」

 優希は、ふいにベンチを立ったが、晴翔によって制された。

「次は、これだぜ…」

 城山が、間髪を入れずに第二球目を放つと、

「くそ!」

 小平太は、懸命にバットを振ったが、ボールに追いつくことはできなかった。その投球に、

「ストライク、ツー!」

「あれが、1年の球かよ」

 彼は思わず、そうぼやいたのであった。

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