第十一話
「冗談じゃねえよ。何もここまで本気に投げることはないだろうに…」
通が、恐る恐る打席に入ると、
「浜村か…いいだろう」
鍋島は、そう言って、第一球目を投げた。すると、
「おわっ!」
彼は、そう叫んで、大きく空振りし、
「目をつぶるな。打てるわけがないだろうが、バカタレ!」
「すいません…」
少し顔を赤らめた。そして、
「もっと、真面目にやれ!」
鍋島が、機嫌悪そうに第二球目を投げると、
「くう!」
通は、懸命にバットを振ったが、むなしく空を切ったのであった。
「やっぱ、振り遅れてしまう…こうなったら、短く持って合わせるしかない」
そう言って、彼がバットを短く持つと、
「短く持ったか」
鍋島は、小さく笑って、第三球目を投げた。それに対して、
「ぬうあ!」
通は、必死にボールを当てようとしたが、結局振り遅れてしまい、
「まだ、まだだな…もっと筋力をつけないとだめだ。無論、バッティングの練習も合わせてな」
とぼとぼと歩いて、ベンチへ戻っていったのだった。
「よっしゃあ…俺の番だぜ!」
晴翔が、そう吠えて、バッターボックスへ向かうと、
「虎頭か…威勢の良さは、認めてやるぜ」
鍋島は、ニヤリと笑った。
「お願いします!」
打席に入った彼は、深くお辞儀すると、
「このまま、やられっぱなしにされてたまるかよ…一矢を報いてやるぜ」
強くバットを握りしめた。
「ふっ…他の奴らとは、根性が違いそうだな」
鍋島は、そう言って、大きく振りかぶり、
「さあ、俺の度肝を抜くようなバッティングを見せてみろ」
勢いよく振り抜いてボールを放った。すると、ボールは、キャッチャーミットに襲いかかるかのように、鋭く飛んできた。
「うらあ!」
晴翔は、思い切りバットを振り、それに応戦した。しかし、ボールは、バットの下を潜り抜けて、キャッチャーミットに突き刺さったのであった。
「く…くそ!」
彼が、思わず悔しがると、
「俺のスピードについて来られるとは、なかなかやるな…だが、にわかに野球を始めただけあって、まだまだ技術面では、劣っているようだぜ」
鍋島は、小さく笑った。
「さあ…こいつは、どうだ!」
第二球目に、
「今度こそ!」
晴翔は、そのボールを捉えようと、必死に当てようとした。
…カツッ!!!
すると、ボールはバットをかすって、バックネットに突き刺さり、
「おい…かすったぞ」
1年生組たちは、その光景を見て、思わず生唾を飲んだ。
「惜しかったな…だが、入ったばかりの時に比べて、かなり上達してきている感じがするぜ」
鍋島が、顎をしゃくると、
「とにかく、どんな形でもいい…何が何でも、1塁まで出てやるぜ」
晴翔は、表情を厳しくさせてバットを握りしめた。
「だが…まだ、お前たちにやられるほど、俺はもうろくしてないぜ」
そして、第三球目…
「しゃあっ!」
彼は、そう大声を発してバットを思い切り振り抜いたが、ボールを当てることはできず、三振してしまったのであった。
「かあっ…やられた!」
晴翔が、思わず声をあげて悔しがると、
「ふっ…惜しかったな。まあ、その調子でがんばれよ」
鍋島は、そう小さく笑いながら、深く帽子をかぶり直して、マウンドをおりたのであった。
そして、1年生チームの守りとなった…
「ふう…気合いを入れて、投げないとな」
藤次は、マウンド上で大きく深呼吸すると、
「びびるんじゃねえぞ…景気よくやっていこうぜ」
「うっせえ…わかっているわい」
晴翔の掛け声に怒鳴り返したが、
「相手は、先輩たちだ…胸を借りるつもりでいくぞ」
「おう…」
玄奘の目を見て、そう軽く頷いた。
「さあ、お手並み拝見といくか」
鍋島は、同期の1番バッターを送り出すと、ベンチにどかっと座って腕組みした。
「よし…」
藤次は、大きく振りかぶって、第一球目を投げた。すると、
…ザシュ!!!
ボールは、バッターの位置まで届かず、ワンバウンドしてしまい、
「とっ…」
玄奘は、すかさずジャンプして、なんとかボールを受け止めたのだった。
「わりぃ…」
藤次が、頭をかきながら苦笑いすると、
「少しあがっているようだな」
鍋島は、小さく笑った。
「何やってんだよ、お前…あれこれ考えずに、ど真ん中に投げればいいだろうが!」
「やかましいわい…ピッチャーなんかやったことない癖に、いちいち指図しているんじゃねえぞ」
晴翔の声に、藤次が思わずキレると、
「チームワーク悪いな…私たちのチームは…」
玄奘は、深くため息をついた。そして、
「ほんと青臭い奴らだ…俺たちが、異常に大人っぽく見えるぜ」
鍋島は、その様子に、思わず吹き出した。
「さあ、気を取り直していくか」
藤次は、そう言って、第二球目を投げた。すると、今度は、矢のように鋭くキャッチャーミットに突き刺さったのだった。
「ナイス、ピッチング!」
玄奘が、返球すると、
「ふう…何とか、調子が掴めてきたようだぜ」
彼は、投球姿勢を構え直し、
「いくぜ!」
気合いを入れて、第三球目を投げた。だが、レギュラー組の1番バッターは、その球を難なくとらえてはじき返したのだった。
…カキーン!!!
「何っ!」
玄奘は、思わず立ち上がって、マスクをはぎ取った。すると、その打球は、フェンスを越えて校外へ消えてしまったのであった。
「ホ…ホームランだと…」
その光景を見た藤次が、がっくりと肩を落とすと、
「なかなか、いい球だったと思うぞ。だが、俺たちレギュラー陣には通用しないぜ。志高の看板を背負うピッチャーになりたいんだったら、もっと精進するんだな」
鍋島は、そう言いながら、若きピッチャーを見つめた。
「くっ…」
その後、藤次は、力投を重ねたが、ことごとくレギュラー陣の餌食となり、気が付いた時には、巻き返しが不可能なぐらいの大量点を取られてしまったのだった…
そして、試合は、レギュラー陣の5回コールド勝ちという一方的な展開で、幕を閉じたのであった。
「ま、負けたか…」
晴翔たちが、げんなりしていると、レギュラー陣が集まってきて、
「これで、少しは目が覚めたか」
鍋島が、ギロリと睨んだ。
「はい…勝手なことばかりして、ほんとに申し訳ありませんでした」
晴翔たちは、一斉に深く頭を下げると、それを見た鍋島は小さく笑った。
「まあ…今ので、少しはウォーミングアップになっただろ」
「へっ?」
その言葉に、彼らは思わず首をひねった。
「東亜工業との試合、がんばれよ…健闘を祈るぜ」
鍋島が、そう言って、晴翔の肩を叩くと、
「しゅ、主将…」
一瞬、面食らったが、
「はい、がんばります…今日は、数々の貴重なご指導を頂き、本当にありがとうございました!」
彼は、笑顔で、大きく返事したのであった。




