表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Early Days  作者: Hirotsugu Ko
本編
11/30

第十話

「入学したと思ったら、もう公式戦だな…時が経つのは、早いものだぜ」

 部活の帰り道で、晴翔が、そうぼやくと、

「まあ、俺たちは、どうせレギュラーとしては出られないがな」

 優希が、皮肉を言い、

「そりゃあ、仕方がないだろ。鍋島さんらに比べたら、俺たちの実力なんて毛が生えたようなものだからな」

 同じ野球部一年生である八百屋小平太も、そう続けた。ちなみに、彼は、野球部後援会の会長の息子だ。

「まあ、それはともかく…あの鍋島さんがエースをやっている以上、今年の公式戦は、かなり良い線までいけそうな感じがするぜ。他の先輩たちも、良いバッティングしているからな」

 これまた同じく野球部の部員で、社会人野球の選手を父に持つ浜村通が、腕組みをすると、

「面白くなりそうだぜ。今年の夏は…」

 晴翔はニヤリと笑った。と、その時、前方から見知らぬ二人組が、笑いながら、こちらに向かってきたのだった。そして、

「わははは…今回の公式戦は、俺たち東亜工業高校の優勝で決まりだな」

「レギュラーじゃない1年のお前が、自信満々な顔をして言うなよ。まあ、俺も1年だけどな」

 東亜工業高校の野球部員の別駕大海と谷口隼人は、これ見よがしに母校の自慢をしていたのであった。

「おい…あいつらは、東亜工業の連中だぜ」

「あの今年のダークフォースと言われている学校か」

 晴翔たちは、そう噂をしながら、彼らの横を通り過ぎようとすると、その二人組から、思いもよらぬ言葉を聞かされたのであった。

「そう言えば、この辺だったな。志高は…」

 谷口が、そう言うと、

「ああ…確か、鍋島がいる高校だったな」

 別駕は急に大きく笑った。すると、

「結構、速い球投げるって話だが、俺たちの先輩には到底かなわんだろうな」

「そりゃ、そうだろ…志高ごとき弱小校に、負けるわけがないぜ」

 彼らの話を耳にした優希は、途端にプチンとキレた。

「ああ、てめえら…何、ナメたことぬかしてんだ」

「よせ…竜岡!」

 晴翔は、食ってかかろうとする彼を、すぐに制した。だが、因縁をつけられた二人組は、表情を険しくし、応戦するかのようにメンチを切ってきたのだった。

「なんだ、お前ら…よく見りゃ、志高じゃんかよ。アウト・オブ・眼中のな!」

「てめえ、言わせておけば!」

「だから、やめろって!」

 別駕の挑発にキレる彼を、晴翔は再び制したが、

「ふっ…俺たちは、本当のことを言ったまでだぜ。俺たちの野球は、お前らのようなお遊びとは違うのさ」

 谷口に、そう言い返されると、

「お遊びだと…てめえらに何がわかるっつうんだよ、このザコキャラが…レギュラーでも何でも無いカスが、ぎゃあぎゃあ言ってんじゃねえよ」

 優希の怒りは最高潮に達し、とうとう暴言を吐いた。それを聞いて、

「な、何だと…てめえ!」

 別駕は、青筋を立てながら、眉間にしわを寄せた。そして、

「ざけんな…東京湾に捨てられて、魚の餌にでもされてえのか!」

「なんだと、わりゃあ…富士山の樹海に捨てられて、一生行方不明者にされてえのか!」

「おい、落ち着けって」

 二人の罵り合いが、どんどんエスカレートしたのだった。

「だったら、俺たちと勝負しろ…どっちが上か、白黒つけてやるぜ」

 別駕が、首をかき切るポーズを見せると、

「上等だ…受けて立つぜ」

 優希は、中指を立ててガンを飛ばした。

「おい、別駕…何、勝手なことを言っているんだ」

「いい加減にしろ…竜岡!」

 晴翔と谷口は、お互いのチームメイトを止めようとしたが、

「うるせえぞ、谷口…ここまで言われて、後に引けるかよ」

「そうだぜ、虎頭…もはや、あの天狗っぱなをへし折ってやらにゃ、俺の気は収まらないぜ」

 二人に、そう言い返されたのだった。こうして、大志高校1年生らと東亜工業高校1年生らの試合が、強引に決まったのだった…

「なんで、そうなるの!?」

 晴翔は、たまらず萩本欽一のギャグをやってしまったのであった…


 そして、次の日のこと…

「とにかく、事の顛末は、先輩らの耳に入れとかないとまずいぜ」

 晴翔は、横を歩く優希にそう言いながら、歩く速度を速めると、

「なあに…先輩方なら、わかってくれるさ」

 彼は、そう言って、余裕をかました…が、部室にて、事の顛末を聞かされた鍋島は、赤鬼のように顔面を紅潮させて激怒した。

「お前ら、勝手なことをしてんじゃねえぞ」

 彼は、そう言うと、そばにあった椅子をドカッと蹴飛ばしてから立ち上がり、部にある唯一の大きなテーブルをひっくり返して、部室内に轟音を響かせたのだった。その迫力のある衝撃映像を目の当たりにして、

「す、すいません…」

 晴翔たちは怯みながら、ワビを入れたが、

「お前ら、1年…全員、表へ出ろ!」

 許してもらえず、

「は、はい…」

「とっとと出ろと言っているのが、聞こえねえのか!」

 主将と同様に怒り狂う先輩らに、何度も尻を蹴られながら、彼らはグランドに放り出されたのだった。

「何やってんだよ、お前ら…俺たちまで、とばっちり食ったじゃないか」

「わりいな…」

 将人は、小声で晴翔たちを非難すると、

「お前ら、入部してから日も浅いのに、よくもそんな大きな口を叩いてくれたもんだな…今から、高校野球の厳しさをとことん教えてやる」

 鍋島は、ギロッと1年生たちを睨みつけ、

「これから、俺たちレギュラー組と試合だ…オーダーは、お前らで勝手に組め…いいな!」

「へっ?」

 彼の意外な命令に、晴翔は目が点になった。

「おい、レギュラー組と試合だってよ…面白そうだな」

「こら…不謹慎なことを言うな」

 優希の発言に、玄奘がジロッと睨むと、

「こりゃ、こてんぱんにやられそうな雰囲気だぜ…しゃあないか、災いの種を撒いたのは俺たちだからな」

 晴翔は、そう言って、コリコリと頭をかいたのだった…


 そして、数分後…

 1年生たちは、以下のオーダーで試合へ臨むことになった。


 1番・センター、八百屋小平太。

 2番・サード、浜村通。

 3番・レフト、虎頭晴翔。

 4番・ライト、竜岡優希。

 5番・キャッチャー、宝生院玄奘。

 6番・ショート、佐戸一郎。

 7番・セカンド、井出将人。

 8番・ファースト、二ノ宮勉。

 9番・ピッチャー、烏丸藤次。


「お前たちが、先行でいいぞ。さあ、早くバッターボックスに入れ…」

 鍋島は、そう言ってピッチャーマウンドへと向かうと、

「うわあ…緊張するな」

 小平太は、緊張感たっぷりで、バッターボックスへと向かったのだった。


 そして、1年生チームの先攻で、試合は始まった…

「いくぞ!」

 鍋島は、そう発して、大きく振りかぶり、渾身の力で腕を振り抜いた。すると、放たれたボールは、目にも止まらぬスピードでキャッチャーミットをめがけて、飛び込んできたのだった。

 …ズッバーン!!!

「う、うわあ!」

 小平太が、思わず腰を抜かしてのけぞり、

「れ、練習の時とは、遥かに威力が違う。これが、主将の本当のピッチングなのか」

 嫌な汗を全身にかくと、

「なんだ、そのザマは…それでも、高校球児か!」

 彼は、おもむろに怒鳴り声をあげた。それに怯んだ小平太は、

「す、すいません…」

 すぐに直立不動になって、平謝りした。そのためか、さっきより構えが小さくなると、

「バッティングの構えを忘れたのか、小平太…そんな弱腰で、打てるとでも思っているのか」

 再び叱咤を受け、

「あわわ…」

 彼は、慌ててバットを構え直したのだった。それを見て、

「ふう…先が思いやられるぜ」

 苦い顔をしながら鍋島は、第二球目を投げた。

「くっ…」

 それに対して、小平太は、ボールを捉えようとバットを振ったが、完全に振り遅れてしまった。そして、

「ボールをよく見ろ…タイミングが、まったく合っていないぞ」

「は、はい!」

「次を投げるぞ!」

 彼の第三球目に、

「だ、だめだ…追いつけない…」

 小平太は、またしても振り遅れてしまい、あえなく三振したのであった。

「うわあ、やべえ…あの球は、ほんと打てそうにないぞ」

 1年生組のベンチサイドから、そう悲鳴に似た声があがったが、

「やっぱ、俺たちをこてんぱんにする気なんだな…しかし、そう簡単にやられてたまるかよ」

 どよめく彼らの中で、晴翔は、そう闘志を燃やしたのだった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ