episode31-3 『もう1人の自分』
episode31-3
『もう1人の自分』
[part5]
ソラを外に待機させて、アトラクションのミラーハウスへ侵入。受付カウンターには巨大猫のぬいぐるみが腰掛けている。しかし、動く様子はなさそうだ。
ウミ「入るぞ」
施設内の奥へと進む2人。中は漆黒の闇でウミが手にしているライトのみが真実を照らしてる。
ウミ「辺り全部鏡だな」
ナギ「意外と綺麗……」
ウミは警戒しながらも辺りを探索する。特に変わったところはない。鏡にウミやナギが映り込んでいるぐらいだ。
ナギ「私……美少女!!」
ウミ「はいはい」
いちいち反応するナギを無視して奥へライトを照らす。すると……。
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鏡の部屋の奥から悲鳴のような怒鳴り声が響く。
ウミ「なんだ……?」
ナギ「なんか聞こえる」
ウミは親が子どもに叱っているのではないかと予想する。しかし、怒鳴り声……罵声の言葉が分からない。言語が明らかに異国のような言葉なのだ。
ウミ「アベンド……か?」
ウミは聞き耳を立ててると罵声はどんどん近づいていく。
ナギ「きてる?」
辺りを見渡しても異変はない。鏡に写るのはやはりウミとナギのみ。
悲鳴のような罵声がずっと響き渡る。
ウミ「気が狂うな」
ナギ「こーゆーとき、null君やソラちゃんならどうするの?」
ウミ「あいつらか……」
ウミは考える。nullなら解析、ソラは撮影で真実を写せる力がある。
ウミ「不便だよ……まったく」
いなくなってから彼らの重大性に気づくウミ。するとナギが静かに呟く。
ナギ「待って……聞こえる……赤子の声……」
ウミは耳を傾ける。罵声だけではなく赤ん坊の泣き叫ぶ声が耳を刺激する。
ウミ「これ、あぶねーかもな。一旦引き返し……」
ナギ「いや」
ナギはウミの会話に被せる。
ナギ「後ろ……鏡になってる」
ウミ「!!?」
ウミは確認すると歩いてきた経路が……ない。壁一面に鏡が貼り巡らされていた。そして……彼らが進むべき道は……。
ウミ「進むしか……ねえ」
ナギ「うん……」
2人はゆっくりと前へ進む。赤子の泣き声と異国の罵声が更に激しくなる。
彼らは鏡の迷宮に入り込んでしまった。
一本道を進み続けると十字路にたどり着いた。
ナギ「うわぁ……どうしよ」
ウミ「どうもこうもねぇ……」
流石に弱る2人。部屋一面が鏡張りになっている。ナギはキョロキョロと周りを見渡し考えている。しかし彼の様子がおかしい。呼吸が荒い。表情が青ざめている。
ウミ「どうした?」
ナギ「…………」
その問い答えることなく、突如医療用メスを振り回し鏡を叩き割る!!
バリン!バリン!バリン!バリン!
次々と鏡に手持ちのメスを刺し始めた!鏡にヒビが入る。
ウミ「ナギ!!?」
ナギ「あぁぁぁーー!!」
ナギ「どいつもこいつも!!どいつもこいつもッッッ!!!オレをコケにしやがってッッ!!」
バリン!バリン!バリン!バリン!
鏡に写るナギやウミが歪み始める。
ナギ「出てこいよ!!?クソ野郎!!!なァァァァ!!?オレを見ろ!!?今すぐ切り落としてやる!!!」
ウミはナギを取り押さえる。異国の罵声と赤子の泣き声は止まらない。
ウミ「落ち着けよ!!どうしたんだ!!何もいねーだろ!!?」
ナギは鏡に指を指す。
ナギ「ここにッッ!!いる!!いるだろぉ!!クソ野郎!!クズ親がよぉぉ!!?」
ウミは鏡を見つめるがソレらしきモノは写ってない。
ウミ「いねーよ!?ちゃんと見ろ!!」
ナギは鏡に両手を触れる。割れた鏡の破片が手に刺さる。
ナギは我に返る。
ナギ「え?」
ナギ「…………」
ナギの手のひらから赤い液体が流れるが、すぐに傷は再生した。
ナギ「あぁぁぁ!!…………」
鏡の破片が周りに散らばっている光景でこの惨状を理解した。
ナギ「こんな時に!!もう……また!!」
彼はすぐにカバンから薬を取り出し、再び摂取。ウミは唖然としている。
ウミ「落ち着けよ……」
罵声と赤子の声が室内に響き渡る。赤子の泣き声のほうが勝っている。
ナギはしばらくしゃがみこみ、呼吸を整える。ウミはじっと様子を見守る。
ウミ「落ち着いたか?」
ナギは苦い顔をしているがゆっくりと頷く。ウミは周りの鏡を覗く。
とある割れた鏡に……『背の高い影の女性』がこちらを見つめている。表情は……笑顔だ。
ウミ「ッッ!!」
ウミは剣を握りしめたが、力を抑制する。
ウミ「……慌てるな……」
自分自身に声をかける。ナギはウミの顔を覗く。
ナギ「ウミ君……?」
ウミは首を振り、口を開いた。
ウミ「大丈夫だ……」
ナギ「嘘、下手」
ウミ「うるせぇよ」
軽口を叩くウミ。赤子の叫び声が酷い。頭が痛くなるぐらいに。
するとナギはウミの腕を掴む。
ナギ「……エスコート……して」
ウミ「…………」
ウミは複雑な感情を抱え込む。そして掴まれた手を離す。
ウミ「自分で歩け……」
ナギ「それ……私が男だから?」
ウミ「……違う」
ウミは続ける。
ウミ「自分の問題は自分自身で乗り越えるしかないから」
ナギは諦めて再び前へと進む。ウミも彼に続く。
赤子の泣き声がウミ達のすぐそばで聞こえ始めた。
ウミ「原因よ?やっぱりコイツら(赤子や罵声)だろうな……」
ナギ「うん……」
ウミ「……どこにいるんだ……?」
……ソラの撮影なら場所を掴めたかもしれない。しかし、自力にやるしかない。するとナギが……。
ナギ「音の方角ってわかる?」
ウミは少し悩んだが……ゆっくり指を指す。
ウミ「お前の後ろ……だ」
ナギはすぐに振り返る。
ナギ「……ここにいるんだ」
彼はそう呟き、声の方向に歩き出す。
ウミ「何やってる?」
ナギ「私が囮になるから……ウミ君は……私を斬って」
ウミ「おい、バカ言うな!」
ナギ「大丈夫、ウミ君程度の攻撃じゃすーぐ再生するし」
ナギは音の根源と重なる。ナギの全身から血が溢れ始める。
ナギ「あーー、なんか……どんどん……汚染されている」
ウミはナギの手を掴み、音源から離れる。
ナギ「ちょっとウミ君!」
ウミ「やめろ!!死に急ぐな!」
ナギ「だから再生するってー」
ナギはヘラヘラしてると思った矢先に真剣な表情になる。
ナギ「ウミ君がやらないなら、自分でやる」
ウミ「…………」
ナギは表情が冷たい。そして淡々と言う。
ナギ「ごめん、嘘ついてた。私、何度も何度もアベンド達を殺してる。つまり経験者。だから傷つけられることもつけることも……慣れてる。大丈夫だよ?今回も……」
そう言って再び音源へ向かう。赤子が叫ぶ場所へと。
ウミ「ナギ!!」
ウミもナギの所へ進む。
ナギ「ウミ君……ダメ!自分でなんとか……」
ウミ「……俺が囮になる!」
ナギ「え?」
ウミ「それなら……!」
ナギは目つきが鋭くなる。
ナギ「それ、もっと駄目」
ウミ「なんで!」
ナギはウミの肩に触れる。
ナギ「適正な人材が最適な仕事を行う。わざわざ不適合者が行うことじゃない。そーゆー何気ない善意は時には『凶器』になる」
ウミ「…………」
ナギはニコッと笑う。
ナギ「ちょっとnull君をリスペクトしたよー?」
ウミ「……そう思った」
ウミはやれやれとため息をする。
ウミ「一旦、冷静になろう……レセプションだっけ?あれをやる?」
ナギ「レセプション?」
ウミ「簡単に言う相手の解析する行為だよ。まあnullの真似だが」
ナギ「へー」
赤子の音源から少し離れてウミは解析を行う。
ウミ「観察行動……えーと、辺りは鏡……写っているのは俺達だけ。
次は交流行動……コミュニケーションか……」
ウミは赤子に声をかける。
ウミ「なんで泣いてる?なんで怒られている?原因はなんだ?」
赤子は泣く行為をやめない。ウミは次の手を考える。
ウミ「交流行動……罵声のほうへ」
ウミ「お前は子どものあやし方も知らねーのか?」
ウミは少し怒りに満ちた声で問う。ナギは不安そうにウミを見つめる。
すると赤子は更に泣き声を激化した。
ナギ「う!!」
ウミは状況を確認。特に自分達への影響は感じない。
ウミ「……洞察行動……周囲のノイズ等の痕跡を探す」
何もない……が、1つだけ違和感が。
『壁1枚の鏡にヒビが入っている』
ナギ「これ、さっきはなかったよね?」
ウミ「ホントだな」
ウミ「俺が交流をとってからだ」
ナギ「ウミ君が煽ったからでしょ?」
ウミ「しょうがねーだろ……」
ぶつぶつと文句を呟く。
ウミは新たな手段を模索する。
ウミ「まさかよ、鏡……割っちゃいけねーんじゃないか?」
ナギ「え?」
ウミ「俺の勘になるが『醜い存在を受け入れろ』ってことじゃないか?」
ナギ「醜い存在……ソレって自分達のことも?」
赤子の叫びと罵声は止まらない。ナギはやや焦った様子でウミに問う。
ナギ「それじゃ……結局どうすれば!?」
「『怨嗟の咆哮』」
突如、中性的な声が響き渡る。ウミはすぐにその声の正体に気づく。
ウミ「……null」
null「あとは自分達でなんとかして」
それ以降、声は聞こえなくなった。
ウミ「怨嗟……理不尽や不条理による恨みや嘆きという意味……ソレの叫び……」
ナギ「つまりだよ?この空間って人間達の汚れそのものなんじゃないの?」
ウミ「だから鏡は壊しちゃダメだったのか……汚れは壊せない……必要なのは『掃除(浄化)』や離脱だったんだ」
ナギは少しだけ余裕を持ち始める。
ナギ「じゃあ鏡を綺麗に拭けばいいじゃん!!」
ウミ「おい……」
ウミは軽快なツッコミをしながら鏡に近づく。そこには歪んだ笑みで恍惚な少年が写っていた。
ウミ「よぉ?」
鏡の主は答えない。ウミは続ける。
ウミ「……確かにあん時はなぁ……そうだったよ……この世の全てを感じたよ」
ナギ「…………」
ウミ「でもソレも今も、俺だよ……」
ウミ「……これで満足か?」
鏡の主、『もう1人の自分』は何も答えず、ゆっくりと消えていった。
ナギ「ウミ君……やっぱり、ぼ……私達似た者同士なのかも……」
ナギは俯いてどこか気まずそうだ。
ウミ「次、お前の番」
次……即ちナギである。ナギは鏡に近づく。
『鏡の中の自分は……全身血に塗れてる綺麗な少年がいた』
ウミはソレを認識していなかった。
ナギ「……バカ」
ナギ「……私……バカ」
ナギ「薄々ね……思ってたケド……やっぱり……」
すると鏡の中の彼が消える。それと同時に赤子の叫び声と罵声も消えていく。
ウミとナギは突如、めまいが発生する。そのめまいが落ち着いたあたりで……
遊園地のメリーゴーランドの白馬に乗っていた。
空は夕焼けで美しく、遊園地も寂れているがアトラクションは小綺麗だ。軽快なポップ音楽と共に白馬が輪廻している。
ウミ「ここ……」
状況を確認すると……ウミ、ナギ、そして眠っているソラが白馬に乗ってメリーゴーランドを内を回っている。
ウミ「ナギ!?」
ナギも意識を取り戻す。
ナギ「アレ?帰ってきた?」
ナギはキョロキョロと辺りを見渡す。
ウミ「ここ深度1……なのか?」
するとメリーゴーランドの中心の柱に黒髪ロングヘアーの眠そうな子供が佇んでいる。少年か少女か……どちらかというと少女寄り。
ウミはすぐにその存在に気づいた。
ウミ「null!!」
nullは無表情で口を開く。
null「おかえり……喫茶店に帰るよ?」
episode31
END




