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episode31-1 『もう1人の自分』

episode31-1

『もう1人の自分』



[part1]


お化け屋敷『Happy & hell land!』へ侵入する。


ウミ「入場料は勘弁してくれよ……」


剣を握ったまま慎重に歩くウミ。


彼が見た光景は予想を遥かに超えていた。


まずそこは屋内ではない。ウミ達がいるのは高台で見渡す限り、赤黒い血に塗れた遊園地そのものだった。メリーゴーランドに観覧車、ジェットコースター、ゴーカートなどのアトラクションが一望できる。


ウミ「お化け屋敷の舞台が遊園地なんて初めてだぞ……」


ウミはソラを確認。昏睡状態のようだがnullが展開した(シールド)で安全は保証されてそうだ。


高台から階段で下り、アトラクションエリアに踏み入れる。まず目に入ったのが赤く染まったメリーゴーランド。ライトで照らすと……乗り物、白馬の背中に『人の赤子の顔』が植え付けられてる。


ウミ「趣味が悪いな」


ガチャン!


ブーン、ブーン、ブーン。


メリーゴーランドの機械が起動し始めて、ぐるぐると白馬が回転し始める。愉快な音楽と共に。


ウミ「乗らねーぞ?」


そう呟き、アトラクションを後にする。


メリーゴーランドから離れると売店方向に粘着性のある音が彼の耳に入る。


ウミ「……!」


ウミはすぐにその音の方向へ向かった。何故なら良くないことが起きてると感知したから。


音の根源にたどり着くとそこは凄惨な光景が広がる。


黒い人影が白髪ロングの子供に馬乗りになり、手にした刃物でメッタ刺しにしている。地面は血の海が広がる程にその子は酷い刺傷を受けている。


ウミはすぐにその子の存在に気づいた。


ウミ「ナギ!!」


そう。ナギだった。少女の格好をした髪の長い少年。ウミはすぐにでも黒い影を斬り込むつもりだったが……。


ザクッザクッザクッザクッザクッ!


馬乗りにされたナギもまた医療メスで黒い影をメッタ刺しにする。


ナギ「……嬉しいか?

……気持ちいいか?

……こんなことして

……楽しいか?

……なあ?……なあぁぁ!!!?」


お互いが傷だらけになりながら刺し合っている。やがてナギが黒い人影を押し倒し、馬乗りになる。


ナギ「しね……しね……しね……しね!……しね!!しね!!!」


何度も何度もメスで突き刺すナギ。


ウミは脳が理解を拒んでいた。あのおしとやかで女の子のような少年の彼……ではなくなっていたからだ。


ウミ「ナギ……?おい……ナギ?」


ウミが立ち尽くしているとその黒い影はぐちゃぐちゃな物体に変貌していた。ナギは立ち上がり、ひたすらに蹴り飛ばす。


ナギ「この野郎ォ!!ゴミ!!ゴミ!!ゴミがァ!!」


既に物体は骸になっている。


ウミは近づきナギの手を掴む!


ウミ「落ち着けよ!!どうしたんだ!!?」


ナギはすぐに振り払う。


ナギ「ああぁぁ!!?るせんだよォ!!どけ!!」


ナギはウミを突き飛ばす!そして倒れたウミにすかさず覆いかぶる。ナギの長い髪がウミの身体に触れる。


ナギ「……どんな……気持ち?」


ウミ「……ナギ?」


ナギ「……答えろよ?」


ウミ「…………」


普段のナギの小悪魔ムーブの欠片もなく、暴力的な美少女のような少年がそこにいた。


ウミ「……心配だ」


ナギ「?」


ウミ「いつものお前じゃねーじゃん」


ナギ「いつもの……?」


すると突如、天使のような笑顔を差し出す。


ナギ「えへへー?いつものー?」


ナギは透き通った声でヘラヘラと笑う。



ガンッ!!



医療メスをウミの顔面の隣に突き刺す。


ナギ「オレを女扱いして……舐めてんじゃねーぞ?」


ウミ「……ナギ……」


ナギは獲物を刈り取るような目つきでウミを睨む。


ウミ「…………」


しばらくお互いが硬直状態になるが動いたのはナギだった。彼が持っていたメスを地面に落とした。


ナギ「………ぁぁあ!」


嗚咽を漏らす。


ナギ「……あああぁぁ!!!」


表情が一変して、まるで迷子の少女のような泣き顔になる。


ウミ「……ナギ?」


ナギ「ああぁ!!嫌だァァ!!」


ナギは涙を流しながら叫び出す。


ナギ「嫌だァァァァ!!!!」


ウミは黙って聞いていた。


ナギは突然立ち上がり、どこかに駆け足で行く。ウミはしばらくしてその方向へと行くとそこにはコーヒーカップがあった。ナギは手で顔を覆い、すすり泣いている。


ウミ「……大丈夫か?」


ナギ「…………私じゃ……ない……あんなの!私じゃないよ!!」


ナギ「もう……私……最悪だ」


ナギはカバンを生み出し、大量の薬を口に入れる。


ウミ「それ……何の薬?」


ナギ「……精神安定剤、それと新薬……」


ウミ「新薬?」


ナギ「私、製薬会社の子供だから……」


ウミ「何の薬なんだよ?」


お互いがコーヒーカップにもたれかかっている。


ナギは口を開く。


ナギ「『本当の自分になれる薬』」


ウミは首を傾げ、目を細める。


ウミ「なんだよそれ?」


ナギ「……性別の概念を超越してくれる薬……毎日、摂取してる」


ウミはナギに近寄る。そして直感が働く。


ウミ「良くねぇよ!その薬!身体壊すぞ!!?」


ナギ「……かも。副作用で髪も白くなっちゃったし……」


ウミは両手でナギの肩を掴み、説得する。


ウミ「ダメだ!!『さっき』のも多分そうだ。副作用だよ!きっと!」


ナギ「違う!!!!」


ナギは大きく叫んだ。そのことについて断固と否定する。


ウミ「…………」


ナギ「あれは……私じゃない……」


ウミはナギの詮索をやめる。彼を信じることにした。


ウミ「なあ、あんま落ち込むなよ?こんな世界じゃ誰だって気が狂うモンよ」


ナギは俯いている。目も虚ろだ。


しばらくするとナギはソラの容態について問う。


ナギ「ソラちゃんは大丈夫……?」


ウミ「……色々あったが……良い方向に向かってる。心配するな」


ナギ「……そう」


更にコーヒーカップでじっとしているウミ達。ナギの精神も落ち着いてきたようだ。


ナギ「ねえ?」


ウミは自身の剣を見つめている。


ウミ「なんだよ?」


ナギ「……デート……しよ?」


ウミ「は!?」


ナギ「せっかくの遊園地だし……同年代だし……ウミ君は信用してるし……」


ウミはため息をする。


ウミ「こんな状況で……?」


するとナギは突如、不敵な笑みを浮かべる。


ナギ「こーんな状況……だからー」


ウミはしばし長考、そして答え。


ウミ「探索はするが……遊びはなしだ。ソラやnullの約束をはたしたいからな」


ナギ「…………」


ウミ「でも……その道中は……付き合ってやる」


ナギの表情が晴れる。目を大きく開けて輝かせる。


ナギ「ホント!!?よかったー!言ってみるモンだねー!じゃあじゃあ!手を繋ご!!手!!」


ウミ「やだよ」


ナギ「えー?あーわかった!浮気になるから?ソラちゃんのこと好きなの?」


ウミ「…………ちげぇよ」


ナギ「嘘……下手」


ナギはイタズラな笑みを浮かべる。彼の調子が良くなってくる。


ウミ「……」


ナギ「それと……探索=脱出とは限らないよ?もしかしたら観覧車を乗ることが出れる条件かもしれないし」


ウミ「赤錆た観覧車なんて乗りたくねーよ……しかも男同士で」


ナギ「……そっかー」


どこか寂しげだ。


ナギ「でもダメ。強制参加」


ウミ「はぁぁ?」


ナギ「行こ行こー!」


ウミはソラをベンチに座らせて、ナギと共に観覧車へ近づく。


ウミ「ソラに身に何かあったら全部責任押し付けるからな」


ナギ「いいよー」


ウミはため息をした。



episode31-2へ続く

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