プロローグ
「飲みすぎた〜」
「だから…飲みすぎんなッつっただろ!」
中学から十年来の幼馴染である香と飲み歩いていた。こいつは元々酒に強いタイプではない。が、俺と飲むときはいつも盛り上がってハメを外し過ぎる。
「良いでしょ、別に。一肇がおぶってくれるし」
「お前それで五回くらい俺の背中に吐いただろ!」
初めてコイツと飲んだとき、香が酔いすぎて動けなくなった。おぶれと言われてチョロい俺は内心嬉しく思いながらコイツを背に乗せた。吐かれた。結構お気に入りの服を着ていったのに、吐かれた。
今は毎週、週末に一緒に飲みに行っている。
「てかお前んちまだかよ!こんな遠かったっけ?」
「知らん。もうすぐ着く。確実に。」
寝ぼけた声が背中から聞こえてきた。お前半分寝てるだろ。あてになんね〜。
「これか!これだろ!このマンションだろ!」
返事が無い。嘘だろ?
「おい!起きろ!」
「ついた〜?」
間の抜けた声に腹が立つ。だからそう言ってるだろ!
「てか一肇、一ヶ月ぶりじゃない?このマンション」
「あぁ、そうだよ。久しぶりだよ。」
それどころではない。一カ月ぶり、コイツを背負ってこの階段を登る。人二人分の重さになるのだ。たった十段に満たない階段でも、地獄と化す。
「行くぞ、香。大人しくしてろよ。」
一歩目を踏み出す。まだ大丈夫。
二段目へ足をかけようと左足を持ち上げる。
「ぐ…」
数秒かかり、ようやく二段目に足をかける。
三段目へと、ゆっくり慎重に足をかける。
カチ、カチ、と鳴る秒針のような階段の音が、背中にいる香の鼓動と息遣いを強調する。それらが妙に大きく聞こえ、なぜかいつもより緊張した。
「ふん…!」
六段目に足をかける。
少し休む。
七段目
少し休む。
最後の一段、に行く前にもう少し休む。
汗ばんだ額と、首、そして背中。チリチリと鳴く虫の声がよく聞こえる。
そして、ようやく最後の一段に足をかけ、ぐいっと香と自分を持ち上げる。
「グハッ、ハァ、ハァ…ついたぞ!」
「なんか私が重いみたいじゃん!」
殺すぞコイツ。二三年間生きてきて、一番殺意が湧いたと思う。
「もう歩けるか?」
内心とは裏腹に、口からは心配の言葉がついて出る。
「うん。降ろして〜。」
「まて。やっぱり家のなかで下ろす。」
えっ、何で!と香が驚いた。
「お前が心配だからだよ!」
シーンと周りが静まり返る。マズイ。誤解されるような事を言ってしまった。いや、言い訳をさせて欲しい。
「いやお前、前一回ここで降ろしたら階段から滑り落ちてったじゃん。怪我無かったけど、もう一回俺が運ぶ羽目になったんだぞ!」
………。
「なんだ、そういう事ね〜。なら遠慮なく、連れてってもらうっすわ〜。」
めっちゃ棒読み。コイツ反省してないだろ。
「お前、あん時結構真面目に心配したんだぞ!反省してないだろ!」
「えガチ?私心配させちゃった?ごめ〜ん」
先程と変わって、コイツの口調が少し上がった。からかう時のやつだ。酔った状態でこのフェーズに入られるとかなりダルい。
「ういーす。」
と、適当にいなして香の玄関の戸を開ける。すると香が冷静に話しかけてきた。
「あ、ちょっと待って、吐きそう。」
「なんでそんな冷静なんだよ‼」
廊下に座らせるすため、腰を降ろす。また背中に吐かれてはならない!悲鳴を上げる膝を犠牲にし、素早く香を降ろそうと頑張る。
「さーん、にー」
「待て待て!せめて玄関に吐け!いや、何処にも吐くな!」
やっとの思いで香を玄関に座らせる。
よっこい
せ
トス、と降ろした所は、玄関じゃなくて、最後の飲み屋の椅子だった。
「あ、吐き気収まった。」
「吐き気収まったじゃねえよ…どうなってんだよこれ!」
「お客様、店内で大声を出さないでください。」
「じゃなくて、え?いや、え?」
「ねぇ一肇〜これさっきの店員さんじゃない?」
「知らねぇよいちいち店員の顔なんざ覚えてねぇよ!」
「お客様、それは悲しいです。」
「仕方ないでしょ!事実でしょ!」
「確かに〜、一肇に一票。」
「モチベ…無くなりました…バイト今日で辞めます…。」
あぁ、もうどうなってんだよこれ!風邪ンと来見る夢みたいじゃねえかよ!
どうか、俺が酔いつぶれただけであってくれ…。
深夜2時半の再秒針
短期で終わらせる予定です。




