第62話「隊長との一騎打ち」
広間の空気が、重く張り詰めた。
残る白鴉たちの動きが止まり、視線が中央へ集まる。
隊長格の大男が、大剣を肩に担ぎながら一歩前へ出た。
刃は人間の胴ほどの幅を持ち、鈍い銀の光を放つ。
その歩みだけで、床石がきしみを上げる。
「泥の化け物……貴様の首を、ここで捧げる」
「俺に首があるなら、な」
ノイルの声は低く、しかし冷たい笑みを帯びていた。
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次の瞬間、巨体が爆ぜるように動いた。
大剣が風を裂き、一直線にノイルの頭を狙う。
通常なら、避ける暇もなく両断される速度。
だが、ノイルの首はそのまま――溶けて、空を切らせた。
刃が泥を裂くが、次の瞬間には再び形を戻す。
「……化け物め」
隊長が呻き、すぐさま横薙ぎを放つ。
ノイルは身体をひねらず、背を隆起させた。
後頭部から“もう一つの顔”が開き、そこから腕が伸びる。
突如生えたその腕が、大剣の軌道を掴み、押し返した。
「ッ……!」
驚愕に目を見開く隊長。
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ノイルは反撃に移る。
溶けた腕が鞭のようにしなり、隊長の脚を絡め取る。
だが、隊長の筋力は常人を遥かに凌いでいた。
脚を踏み砕くかのような力で、泥の鞭を引き裂く。
「泥が人を縛れると思うな!」
咆哮と共に剣が振り下ろされ、石床が割れた。
ノイルは一歩引きながら、滴を床に散らす。
その滴が糸となり、隊長の周囲を走る。
音もなく張り巡らされた見えぬ網。
「足元に気を付けろ」
言葉と同時に、隊長の足が引き攣った。
糸が筋肉の震えを読み取り、わずかな動きを絡め取ったのだ。
その一瞬の硬直を逃さず、ノイルは胸から槍のように腕を突き出した。
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だが、隊長は咄嗟に大剣を盾のように構えた。
鉄と泥がぶつかり合い、轟音が広間を震わせる。
互いの力が拮抗し、石床にひびが走る。
「……面白い」
隊長の目がぎらついた。
「本気で叩き潰す価値がある」
全身の筋肉が膨れ上がり、彼の剣がさらに重みを増す。
ノイルの腕が軋み、泥の繊維が裂ける。
「なら、こちらも“本気”を見せよう」
ノイルの体表がざわめき、全身から無数の針が突き出した。
蚊のように細いが、血を求める鋭さを持つ針群。
一斉に放たれたそれらが、隊長の皮膚を穿った。
「……ッ!」
隊長が呻き、大剣の動きがわずかに鈍る。
血が滲む。その一滴から、ノイルは記憶を掬い取った。
(……なるほど。お前も“記録”に縛られているのか)
敵の奥に潜む命令の気配――それを感じ取った瞬間、ノイルはさらに笑みを深めた。
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戦いはまだ続く。
だが、この瞬間すでにノイルは確信していた。
――この男を喰らえば、“王への道”がより鮮明になる。
(倒す。必ず)
広間の中心で、泥と鉄が激突する。
音と衝撃が壁を揺らし、玉座への道が試されていた。




