第46話「白鴉との衝突」
白刃が喉へ落ちる。
分体は自ら裂け目を広げ、刃を泥の中に呑み込んだ。
金属音が鈍く沈む。だが兵たちが背後から腕を押さえ、肩を掴み、泥ごと床に縫いつける。
(……これで、終わるか)
核が震える。薄れゆく視界の中で、結界の奥の箱が仄白く光った。
その時――。
石壁が低く鳴った。
―――
封緘室の扉が、泥の流れと化して崩れ落ちる。
本体ノイルが踏み入り、背後にガロスが剣を抜いて続いた。
「なっ……!」
兵たちの視線が散る。
「行け!」
ガロスが吼え、剣を振る。鋭い一閃が最前列の白鴉を弾き飛ばし、血霧が冷気に散った。
分体はその隙を逃さず、腕に絡んだ兵の足首へ糸を走らせる。わずかな震えで膝を折らせ、兵を崩す。
ザランディーンは後方に立ち、古い巻物を広げながら笑った。
「封印は三重……外殻はすでに剥がれている。時間を稼げ、ノイル!」
白鴉隊長が前に出た。
刃を払うと、泥を呑んだはずの剣身は傷ひとつなく、氷の光を湛えている。
「命令は抹消。例外はない」
「記録にない者を抹消するなら――俺は、記録に抗う者だ」
互いの声が、冷気に沈む。
次の瞬間、隊長が踏み込む。
刃が閃き、ノイルは泥膜で受け止めた。だが剣は泥を裂く。
裂け目ごと呑み込み、腕から逆手の刃を吐き出す。隊長は半歩退き、紙一重で避ける。
「おぞましい……だが、面白い」
兵が突き出した槍を分体が影から絡め取る。糸が踝に震えを走らせ、体勢を崩す。
その頭上から、本体の背に開いた“顔”が無表情に覗く。兵は思わず怯み、ガロスの剣が正確に突き刺さった。
だが隊長は動じない。刃の切っ先が泥を裂き、ノイルの肩を斬り裂く。痛みはないが、核に近い部分が震える。
(強い……だが、まだ――)
「封印を狙え!」
ザランディーンの声が響いた。
ノイルは頷き、分体を走らせる。
結界の隙間を探り、封蝋の縁へ指を触れさせる。痺れる拒絶の感覚。だが“逆記”がじわりと染み入る。
「させるか」
隊長の刃が本体を狙う。
ノイルは泥を爆ぜさせ、わずかに進路を逸らす。その刹那、分体の指先が封蝋の継ぎ目に食い込んだ。
光が漏れる。空気が震える。
「――これが、“白鴉が隠したもの”か」
隊長の瞳が細まる。
ノイルはその視線を睨み返した。
刃が、再び交わる。




