第44話「断たれる声、繋がる影」
――【分体・白鴉の間】――
冷たい石床に、剣が突き立つ音が響く。
白鴉の隊長は刃を引き抜き、低く言った。
「命令は抹消。……お前はここで終わる」
剣の光が、灯火に揺れる。
分体は焦燥を抱えながら、刃を見据えた。
(逃げれば簡単だ。だが、鋳型の座を見失う。ここで消えるわけにはいかない)
剣が振り下ろされた瞬間、分体は崩れた。
肉も骨もない身が、泥となって鉄枷を抜け落ちる。
刃は空を裂き、火花が散った。
「なっ……化け物め!」
白鴉の兵たちが一斉に抜刀し、迫る。
分体は床を奔り、湿気の溜まる壁際へ。そこにある――封緘された木箱。
「止めろ!」
一人の兵が横薙ぎに剣を振る。
分体は崩れながら避け、刃の軌道を“流す”。
切っ先が泥に飲み込まれ、金属音が鈍く変わった。
刃を引き抜こうとした兵の腕に、泥が絡みつく。
「っ……!?」
その瞬間、兵の手首に分体の一部が這い上がり、冷たく締め付ける。
兵は悲鳴を上げ、剣を手放した。
落ちた刃は泥に吸い込まれ、分体の腕から“新たな刃”として突き出る。
「……っ!」
もう一人が槍を突き込む。
分体は背を隆起させ、後頭部に無表情の“顔”を浮かべた。
人ではないその相貌に、兵の動きが一瞬止まる。
その隙を突き、泥の刃が槍の柄を断ち切った。
だが――鋳型の木箱に指を伸ばした瞬間、透明な壁に弾かれた。
「……結界……!」
二重の封術。箱は守られている。
「戯れは終わりだ」
白鴉の隊長が低く言い放つ。
剣を構え直し、踏み込み――その一撃は迷いなく首を狙っていた。
分体は逃げない。
崩れながらも結界へ指先を這わせ、感覚の全てを注ぎ込む。
(ここに“本物”がある――! だが、この情報を……本体に伝えなければ……!)
――【本体・地下水路】――
同時刻。
ノイルの指先に、かすかな震えが伝わった。
(……分体が、鋳型に触れようとした)
それは情報の共有ではなく、ただの残響。
けれど確かに方向と存在を示すものだった。
「まだ間に合う」
ノイルは呟き、さらに奥へと足を進める。
水路の冷気が肺を焼き、石壁に雫が滴る。
――【分体・白鴉の間】――
白鴉の隊長の剣が、再び振り下ろされる。
刃の冷光が分体を切り裂こうと迫る。
(本体が来るまで――俺は消えない)
結界の奥で、鋳型がかすかに光を返した。




