↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/75

第42話「影の残響」

――【分体・白鴉の間】――


鉄の枷に繋がれたまま、ノイル分体は石床を歩かされていた。

白く塗られた壁、均一に並ぶ白鴉の紋章。部屋の中央には布で覆われた台座。そこに“偽りの鋳型”が据えられる。


(これは囮だ……だが、どう扱われるのか観る価値はある)


捕らえられた身を利用して、視線は巡回の間隔や兵の動きを拾い続ける。

泥の核に一つひとつ焼き付け、本体に触れたときに全てを伝えるために。


だが、鋭い声が分体を射抜いた。

「……お前は、本当に人間か?」


白鴉隊長の黒曜の眼が、じっと覗き込む。分体は微動だにせず、沈黙で答える。

胸奥に走る焦りは、伝えられない事実への苛立ちだった。


――【本体・工房跡】――


同じ頃、王都北区の廃工房。

ノイル本体はガロス、ザランディーンと共に地下の倉庫に立っていた。


壁を指先でなぞると、微細な金属の感触。泥の感覚が過去の痕跡を拾う。

(ここに鋳型があった。だが、持ち出されている……)


木箱の残滓に触れる。

湿った繊維、すり減った革紐。そこに染み込む二種類の“匂い”。


ひとつは、病に侵された弱い手の脈。

もうひとつは、記録局監査部特有の油。


(……以前、分体が感じた痕跡と同じだ。繋がった)


ノイルは目を細めた。


――【分体・白鴉の間】――


白鴉の兵たちは、囮の鋳型を厳重に木箱へ収め、封蝋を押している。

「この箱は“影の庫”へ送れ。本物と同じ扱いだ」


分体は鎖に繋がれたまま、その一部始終を記憶する。

だが、白鴉隊長の声が再び近づいた。


「お前の目……人のものではないな。答えろ。お前は“何”だ」


呼吸が鋭くなる。答えるべきか、誤魔化すべきか――分体の核がざわつく。

情報を抱えたまま消えることだけは許されない。


――【本体・工房跡】――


ガロスが問いかける。

「ノイル、何か掴んだか」


「搬出の痕跡は、王城へ続いている。……本物は、そこに」


ザランディーンが唇の端を吊り上げた。

「やはりな。だが、“白鴉の間”に足を踏み入れた者は戻らないと聞く。分体がそこにいるなら――」


ノイルは短く頷いた。

「次に触れられるまで、あれは耐える。必ず情報を持ち帰らせる」


雨音が工房の天井を叩いた。

分体と本体、交わらぬ視線が同じ影を追い始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。