第33回
第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)
「あの、俺免許取ったんです」
俺はズボンのポケットを探った。
「あら、そうなの?早く言ってくれなきゃ」
「これ...顔が凄い疲れてますけど...」
俺は奥さんに免許証を渡した。
「あら、よく撮れてるじゃない」
そう言って奥さんは免許証を青山さんに渡した。
俺は免許証をじっくり見ている青山さんを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「...俺、青山さん達に逢えて、本当に良かったって思うんです...今日は、免許が取れたっていう事よりも、それ、そのお礼が言いたくて...なんかうまく言えないけど、俺が変われたキッカケって言うか、なんていうか...」
「結くんの言いたい事は充分に分かるよ。君はもう、あの頃の君じゃないし、立派な人間に変わったよ」
俺は顔を上げられなかったが、下を向いたまま、黙って聞いていた。
「それに、私達だって、君に出逢えて本当に良かったって思ってるよ。な?」
青山さんのその意外な言葉に、俺は思わず顔を上げた。
「そうよ、結くんだって、私達の色んなキッカケになったわよ」
「....」
俺はそのような事を一度も言われた事はなかった。今まで自分の存在や生きている価値さえないと思っていた。なのに、今こうして俺は誰かの何かしらのキッカケになっている。俺はその言葉に多少の違和感を覚えつつも、それを素直に受け入れた。
「ねー、ゆいおにいちゃん、遊ぼうよー」
小さな陽くんは、俺のズボンの膝の部分を掴んで揺らしながらそう言った。
陽くんは俺とは初対面なのに、とても人なつっこい子供だった。しかしその無邪気さが可愛らしく、とても癒された。
「あ、そうそう、お外で写真でも撮りましょうよ」
そう言う奥さんを見て、そう言えばこの人の子だったと、一人で納得した。
「どうかした?」
「いや...陽くん可愛いですね」
「そうよー、親バカかもしれないけど、うちの子が一番可愛いわよー。幼稚園で他の子を見ても陽より可愛い子はいないわよね...それに、『陽』って名前もいいでしょ?」
「そうですね」
「『陽』って名前は私が付けたんだよ。明るい子に育ってほしいってね」
青山さんが、俺にそう言った。
「『結』くんも、いい名前だよね。ご両親に名前の由来は聞いた事はあるのかな?」
奥さんにふいにそう言われ、俺は考えた。そう言えば、そんな事は一度も考えた事もなかったし、誰が付けたのかさえ知らない。
「いえ...」
「それじゃー、一度、ご両親に聞いてみるといい。いい名前だから、ちゃんとした理由があると思うよ」
青山さんのその言葉に、俺は少し考えさせられた。
「じゃー、撮りますよー」
青山さん一家と俺は外に出て、奥さんが外を歩いていた男の人に撮影を頼むと、4人は青山さんの家の前に並んだ。
「はい、チーズ」
第34回へ続く...




