第23回
第25回新風舎出版賞、最終審査落選作品(笑)
9月、暑さも和らぎ、夏の終わりを迎えるこの季節、俺には気がかりなものが一つだけ机の引き出しにあった。俺はそれを手に取り、ジッと眺めた。
変わりたい。変わらなきゃダメなんだ。俺は心で自分に言い聞かせると、明日、その決心を行動にうつす事にし、その日は眠りについた。
翌日、俺は走る電車の中に居た。電車に乗ったのはいつ以来だろう。はっきりと思い出せない位久しぶりの事だった。平日の昼間という事もあってか、人はまばらだった。席は充分空いていたが、俺は座席の前の吊り革に掴まり、そこから車窓から見える景色をなんとなく見ていた。
俺はあの日、確実に犯罪を犯した。『窃盗』という犯罪を。俺は、俺をやった奴らと全く変わらない犯罪者なんだ。今更になって罪を償うなんて虫が良過ぎるのは充分に分かっている。そして許してもらえるなんてこれっぽっちも思ってはいない。ただ、本人に会って謝りたい。その後は、俺はどんな罰を受けても構わない。その位の事を俺はしてしまったのだから。
電車は鉄橋をいくつか渡り、車窓から見える風景は、いつからか田園が続く景色に変わっていった。車内の人も、気がつくと周りには誰もおらず、その誰も居ない車内に一人手すりに掴まって立つ俺は、とても浮いていた。
「次は、終点○○、○○です」
そう、車掌独特の口調の車内アナウンスが流れ、俺は扉の目前に移動した。
終点でもあるその目的地の駅に到着し、電車を降り左右を順番に見ると、降車した客はどうやら俺一人のようだった。という事は、電車に乗っていたのも俺一人だったらしい。駅の建物はとても古く、改札はというと、未だに駅員が直接切符を受け取るといった形式を取っているようだった。
俺は改札を出ようと改札の所まで来たが、肝心の切符を渡す駅員が居ない。なぜだろうと改札横の事務室を覗いくが、人は誰もおらず、ただ扇風機が一つ、首を左右にゆっくり動かしながら、誰も居ない事務室に静かに風を送っていた。
俺は仕方なく切符を改札に表向きに置き、駅を出る事にした。
第24回へ続く...




