恋と友情と嫉妬とアホと
私には幼馴染がいる。
ただ家が隣同士で、親同士が仲がいいから私にも優しくしてくれるのかな、と思ったけど、そんなことはない。
その幼馴染の男の子は、誰にでも優しくて、そして誰にでも愛される人だった。
私は引っ込み思案で、前に立つのがとにかく苦手だった。今もまだ苦手かもしれない。それでも隣にはいつもその男の子がいて、私を手伝ってくれていた。
いつの間にか私はそんな彼に甘えていたのかもしれない。依存していたのかもしれない。恋愛感情というには醜い、もっと歪な心を持っていた。
でも、みんなから好かれる彼を独り占めしていた私は周りからは好かれていなかった。リコーダーが盗まれたり、よく知らない男の子に告白されたりしたから異性からは好かれていたかもしれないけど。
体操着や上履きがなくなることはしょっちゅうあったし、沢山陰口を叩かれて。小学生でも恨みとか妬みとか持つんだーなんて少し他人事のように考えている自分もいた。
それでも、その子は、誠也くんは違う。私を守ってくれようとして他の女の子たちに説得しに行ったりしてくれた。嬉しかったけど、申し訳ない気持ちの方が大きくて。それに、いじめは無くならなかった。守られてる私ということに対して余計ムカついたんだと思う。
小学生もそろそろ終わりという時期になって私は急遽親の仕事の都合で引っ越すことになり、転校した。クラスのみんなは寄せ書きをくれたけど、書いてあることはみんな同じようなことで、全然友達がいなかったことに気づいた。
でも転校した小学生や、中学校では沢山友達が出来て凄く楽しかったの。なんだか胸のつっかえが取れた気がしたの。
ただ、誠也くんのことをそんな風に感じてた私が許せなくて。こんな私でいいわけがなくて。誠也くんと一緒にいた時間は楽しかったはずなのに、なんでだろって。
また仕事の都合で私はまたここに戻ってくることになった。親は私が中学校を卒業するまではと気を遣ってくれて、高校生になるタイミングで引っ越すことになった。
もうすでに気持ちの切り替えはできていた。なんなら誠也くんとまた会えるのが楽しみになっていたくらいだ。高校では絶対誠也くんにおんぶに抱っこにはならないぞ、という決意があった。
しかし、誠也くんは昔と変わっていた。見た目は昔よりシュッとしてカッコよく、大人っぽくなってたけど、明らかに憔悴していた。…色々あったみたいで。
誠也くんは優しい。困っている人がいれば分け隔てなく手を差し伸べるし、ちゃんと解決するまで付き合っちゃう。その優しさが自分の首を絞めることも分かっているはずなのに。
彼は言った。また傷つけてしまったと。どうして助けたいのに助けてやれないんだろうと。
…だから、今度は私が誠也くんを助けたいの。だから、一緒にいるの。
―――――
大変良い話だ。麗しき友情だ。
デフォルトで持っているハイスペックさと持ち前の優しさが機能しすぎてしまい、自分は好かれ、助けられた人が妬まれる。そんなこと生憎俺とは縁の無い話だ。
「…共感は出来ないな。俺なら優しくしない」
「意地悪なこというなぁ〜。性格はそう簡単には変えられないからね」
百合ははぐらかしていたが、俺は少し憔悴の原因を聞いたことがある。誠也は中学生の時、一時期サッカー部のマネージャーと付き合っていたらしい。噂で聞いただけなので真相は知らないが、そのマネージャーは不登校になってしまったらしい。…グループからハブられたことが原因で。
きっとこれも交際の願いに対して断れなかったのだろう。勉強もスポーツもできるくせに不器用なやつだ。
だから誠也はその自分を戒めようと、恋愛に対して敏感になっている。その誠也とどうやって恋愛をするという問題もあるが、それよりも…
「さっき、鈴音の恋を応援するって言ったな。それはつまり、鈴音がいじめられる可能性を孕んでいる。それをわかっていて言ったんだな?」
「うん。もちろんわかってるよ。でも、鈴音ちゃんがいじめられれば良いなんて微塵も思ってない」
「当然だ。そう思ってるなら殴り飛ばしてる」
「こわーい。鈴音ちゃんのこと大切に思ってるんだね。嬉しいな。…やっぱり大丈夫。鈴音ちゃんには、君がいるから」
「…ん?どういうことだ?」
「誠也くんはみんなの味方になろうとするでしょ。それで私、なんか嫌われちゃうの。これってなんでだろうね?」
「……鈴音と百合って似た者同士かもな、嫌味っぽいとこ含めて」
わかりきっている。カッコいい男の子といつも一緒にいる可愛い女の子、特に小学生なら高嶺だから諦めようという考えよりも、自分の思いに正直になるものだろう。
「褒め言葉として受け取っておくよ。だからね、賢二くんは鈴音ちゃんの相談役になれるし、ボディーガードにもなれる」
「んーと…それ、めっちゃ俺損してない?ヘイトを引きつけるってことじゃん」
「大丈夫だよ。なんてったって、私も助けるから!それにほら…賢二くんならそこまで目立たなそうだし?」
「そりゃ君たちに比べれば見た目はパッとしないだろうよ……はぁ、不器用だなぁ。百合。もっと簡単なやり方があるだろ」
「簡単なやり方?」
鈴音が困ることなく、誠也も誰か1人を手助けすることもなく、そして百合が諦めることもないやり方が。
「もっと積極的に取り合えばいいんだよ。単純だろ?全部受動的になっているから気遣いを受けている姿がフォーカスされているんだ。そこまで人ってのは他人を意識しないもんだ。どっちつかずな態度が、ワンチャンあると思わせてしまうから妬むんじゃねーのか?」
ついでに、誠也にはもう少し困って欲しい。あいつの悩みは贅沢な悩みってやつだ。なんかムカつくし。俺がここまで悩んでやっているということをバラしてやりたいくらいだ。
百合は意を決したようにゆっくりと頷くと、教室に戻っていった。もう昼休みも終わる時間、昼飯食うタイミング逃したな…
教室に戻ると、誠也と鈴音は沈黙し、百合はそれを苦笑いしながら眺めていた。そりゃそうだよな…話続かないよな…
「賢二!やっと戻ってきた!なんか怒らせちゃったみたいでさ…」
「いや、怒ってないって、大丈夫大丈夫」
相変わらず緊張すると顔に出るようで、頬を赤らめて俯いている鈴音を見て即答した。
キーンコーンカーンコーン…………
「昼休み終わっちゃったね、机戻さなきゃ」
「弁当…」
腹減ったまま授業受けるのは嫌だなぁと思いつつも仕方なく机を動かしていたその時、誠也が席から立ち上がった瞬間。
「うわっ、なんだこれっ」
「きゃあっ」
「えっ!?」
机の横に掛かっていた荷物に躓いた誠也が倒れ込んだ先は鈴音と百合がいる場所で…
ドン!
誠也は2人に抱き抱えられていた。
「誠也くん、大丈夫?怪我はない?」
「あ、あああ雨宮くんが、前とは逆バージョンで……」
「うん、大丈夫…」
そのままじっと動かない3人。まあ1人は頭がオーバーヒートして動けないのだろうが。
周りのクラスメイトもそれをじっと見つめている。感嘆の声を漏らす者さえいる。授業のために来た先生ですら止めない。それほどまでに絵になる3人だ。
それでも、あんなさっきまで真面目に話して、計画を立てたというのに……
「お前ら、いい加減離れろぉぉぉぉお!」
一体誰が嫉妬なんてするだろうか。こんな…呆れるような茶番に。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
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