見捨てた物達、その心中
八坂が戦闘中のその頃……
「勇者一行が帰って来たぞーー!!!!!」
村の人々が大勢集まり、人類の希望である勇者を労おうとする、が
「今すぐに王宮へ連絡を取れ!!!!!大至急だ!…そして今すぐ此処を封鎖しろ!」
返ってきた返事は部隊長の慌ただし叫び声だった。
その後王宮へ戻り、事の顛末を嘘を交えて聞かされた王は、即座に命令を出した。その結局、直ぐに国を挙げての大調査が行われた。他の大貴族達も調査に加わり色々調べたが、芳しい成績も、身代わりとなった勇者の姿も発見出来なかった。
ーーーーーーー赤柳 蓮の心中
自室で一人、彼は笑っていた。その目に、心には罪悪感のカケラも無かった。
『やった…やった!生き残った!しかも俺の邪魔をしそうな男子も消えた。これで、まず同郷のアイツらは俺の手の中だ!』
彼は八坂の事を疎ましく思っていた。自分とは違うタイプだが、奴は俺の障害となりうる可能性を持っていると考えていた。
それは日本でも同じだった。いずれ奴は俺が目をつけた女子にすら手を出す、確信に似たソレはずっと心の引っかかっていた。そして異世界で立場がハッキリした時は快感だった。
田畑?アイツなんか眼中にすらない。
これで俺はこの世界で好き放題できそうだ!
そう、思いながら笑っていた。
彼にはまだ、人を殺したという実感が湧いていなかった。ソレがこの先、運命を分ける事になる
ーーーーーーー花崎 悠里の心中
…………やっぱり、死ぬんだ。
彼女は、これが夢でない事をこの件で実感していた。しかし、彼女もまともではなかった。
『もっともっと、地盤を固めなきゃ。まずは蓮を完全に墜として私に貢いで貰わないと
後は、騎士団の人達にも。強い武器とかスキルとかを貰って絶対に死なない様に周りを利用しよう、私はあんな醜態は晒さない!』
彼女のビッチ力を高める要因と成り果て、今後さらなる混乱を招くこととなる。
また、彼女も罪悪感などはなかった。
ーーーーーーー玉来 あんずの心中
怖い。ソレが彼女のシンプルな答えだった。
死ぬのが怖い、そしてーー簡単に他者を切り捨てられるこの世界が怖くて怖くて仕方ない。
彼が死んだ事はどうでもいいが、「死ぬ」という事実だけで既に女子高生が受け止められる現実を超えていた。何時ものハイテンションは何処かへ行ってしまっていた。それでも
強く、ならないと。
彼女が出した結論は強くなる事だった。
レベルを上げて、スキルを覚えて、魔王を倒して…絶対に家に帰る!
その時点で彼の存在は心の奥底にしまわれ、馬鹿な頭で強くなる計画を考えていた…。
ーーーーーーー田畑 透の心中
僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない!!!!!
真面目な彼は勿論あの時止めようとしたのだ、何を馬鹿な事を言っているのだと。
だが、彼は聞いてしまったのだ。赤柳が部隊長に耳元で囁いていた言葉を。
殺されるーーー彼の頭の中で警鐘が鳴り響いた。
声を出すな、異議を唱えるな、お前が死ぬぞ?
誰かが囁いた気がした。彼もまた死にたく無かったのだ、少なくとも田畑透には他人の身代わりになる勇気がなかった。その結果が今の現状だ
そして、彼はこうして「悪くない」と唱えなければ崩壊してしまいそうな精神状態に陥ってしまった。
何時も真面目で規律もルールを重んじていた田畑の姿は、現実とともにその理想からかけ離れていっている事に彼は気がついていなかった。
ーーーーーーー綺咲 若菜の心中
……………私は、また後悔してるみたい。
どんなに願っても時間は戻らないのに、どんだけ祈っても奇跡なんて起きないのに、どんだけ泣いても何も出来てないのに。
…………それでも後悔が止まらない、涙も際限なく溢れてくる。辛い、辛いよぉ…。
何で、こんな事に?私に勇気がなかったから?
私が止めていれば、こんな事に?
わからない、わからないよ。
………八坂、君。何で、貴方が。
彼女の心は支離滅裂で疑問ばかりが浮かんでくるそれでも、後悔していた。
流れに逆らう勇気もなく、ただ自分の立場を守るのみ。その結果、今の信頼性や人気を誇る美少女が完成していた。
本来ならそんな完璧な女性は何処にも居ないのだが、ソレをずっと演じてきた。
そのメッキが音を立てて崩れ、崩壊していくのは時間の問題だった……。
ーーーーーーー???の心中
「あ、あぁ……な、何で、ですか?……違う、違いますよぉ……。ごめんなさい、ごめんなさい。」
あてがわれた、豪華な自室で何時もの巫女装束からラフで動きやすい服装へ着替えた彼女は虚空に向かって謝罪を繰り返していた。
彼女は、とある可能性を考えていた。
勇者召喚の失敗。ソレにより勇者ではない一般人を誤召喚してしまっていたという事実を。
勿論王に進言したが、即座に否定された。
『勇者ではないなら、能力を持っている事がおかしい。彼は勇者だ!』と。
本当は気がついていた。勇者召喚の失敗など認める訳にはいかない、ただそれだけのことだという事を
王にとって事実などどうでもいい事を。
国から大々的に発表してしまった為に、もう取り返しの付かなくなっている所まで来ていたのだ。
「……やっぱり私には似合わないよね、神託を受けし巫女なんて。迷惑をかけていた人にすら謝罪できないんだから」
と、自嘲気味に笑った。弱々しい笑みだった。
彼女は八坂を避けていた、避けるしかなかった。誤召喚の可能性を悟ったその瞬間に、合わせる顔がないと思っていたからだ。
苦しい思いをしていると知って尚…余計に無理だった。
せめてものお詫びに、戦闘訓練を任されている指導員に金を握らせて、間接的にスキルオーブを渡した。
しかし、その程度では考えた最悪の結果は止める事が出来なかった事をあの日思い知らされた。
成り上がり巫女は、今日も苦悩する。
自分に仕込まれた、最低最悪の事実を知るまで、その全てにおいて苦悩する事となる。
無論、その事実が更に苦しめる要因になる事は分かり切った事のだが……まだ彼女は知らない。
まだ『信託の巫女』は必要なのだから
という訳で、スキルオーブを渡したのは巫女さんでした。(渡した指導員さんはむしろ金に釣られたクズ)
因みに主人公は巫女さんの心中は一切知りません。