もういい
「疾!!!!」
鋭い槍の突き、常人ならーー日本にいた頃俺なら即座にお陀仏だ。しかし
ガッ!!!
槍の一撃に合わせて拳で殴り、防ぐ
無論普通にやれば手が血まみれになっていずれもげてしまうが、俺にはスキルオーブで手に入れた身体強化がある
元のステータスが高いお陰で(多分)槍を素手で掴んでも全く切れない。身体強化様々である
勿論槍を掴んだ時は化け物を見るような目で見られたが……
繰り出される槍の乱撃も素手で捌き、体を捻って避ける。初見では驚いた槍の速さも戦う内に目が慣れていった。自分自身がその何倍も速く動けるので当たり前と言えばそうなのだが
そうして、何度目かわからない打ち合いの末に相手が距離を取る
その顔には疲労が浮かんでおり、息が上がっている。また、若干の苛立ちも混じっているようだ
「この餓鬼……!!!」
その相手であるーー ベルガーは俺を親の仇のように睨みつける
当然だ。自分から息巻いておいて俺にまだ一撃も食らわせていない上に俺はまだ一度も攻撃していない
八坂は知らないが、その事がさらに怒りを加速させていた
だが、俺は余裕はあっても油断してはいなかった
(多分コイツ……能力を使ってない)
この世界の能力は『身体強化』などの地味な奴もあれば『正義の名』などステータスに超絶な補正がかけられるチートもある
この世界の能力はたった一つで戦況を簡単に返せる力がある、そう思っている
だから、油断はしない。
死に関わるとなれば尚更のこと
俺は生きる、そう決めたのだ
「……はぁ、まさか初心者如きに能力を使わないといけないとはなぁ…恥だ」
などと考えていたら、さっきまで憤怒の表情だったベルガーが急にため息を吐き出した
「だが、テメエみたいな餓鬼に舐められたままよりかはマシだ………こっからは本気でぶっ殺す!!!」
そう宣言してーー再び槍を構えはじめた
(……来た!こっからが本当の勝負になる)
俺も相手が何の能力でも対処出来る様に常に思考を巡らせておく……『無我の境地』も重ねて使うか迷った瞬間
ボッ!!!
先程までも同じように突き出した筈の槍が突然視界からブレて肩に一撃がヒットした
「なぁ…⁉︎チッ、クソ!!!」
体にも傷はなく、ダメージこそなかったが始めてまともに攻撃が通った
その事実にベルガーはニヤリと笑い、俺は舌打ちをするしかなかった
一度、軽く後ろに下がり、体制を整えるのと同時に敵の能力について推察する
(幻惑…いや、体に到達する、そのものが早かった。なら槍の速度を上げる能力か!しかもかなり速い上に速度差か……厄介だな)
ただ速いだけならまだ対処出来るがーー緩急。
途中まで普通の速さで槍を出す事によって俺の体感速度を上昇させているため、反応しづらい
ボッ!!!ボッ!!!ボッ!!!
加えて、槍を手元に戻すスピードも増してる為今までとは比べ物にならない連続攻撃となっている
「オラオラオラオラァ!!!さっきまでの威勢はどうしたぁ⁉︎餓鬼?」
ベルガーは完全に調子に乗っており、槍の乱撃をこれでもかと叩き込む
イラッとしながらも、身体の調整の為…と耐えていたのだが、そう上手くはいかなかった何故なら
「このまま、死ねよ!!!クソ餓鬼が!!!」
「………あ?」
その言葉はダメだから
死ね?それはあの恐怖をあの無力感をもう一度俺に味わえと?…………ふざけんな
妙に乾いた感情、今まで耐えていた筈のもの全てがどうでもよくなる、くだらないと思ってしまう
「…………………もういい」
俺は今まで、武器にしか当ててなかった拳をベルガーに直接小突く様に打ち込んだ
ボッウ!!!!!!ベキベキベキベキベキ、ピンッ………ボタ、ボタ、ボタ、ボタボタ、ボタ…
槍の一撃とは比較にならない、空気を貫く音が響くと同時に石畳は剥がれ、壁はひび割れ、砕ける
そのたった一発を受けた本人は……
「う……ぐぁ……」
槍を取り落とし、肩に手を当てる
そこにはさっきまで付いていた筈の腕が無く
赤黒い断面からは、真っ赤な血が滴り落ちてくる
痛みは壮絶なもので発狂しないのは彼がC級だったからに他ならない
しかし顔は苦痛に歪み、さっきまでの愉悦に浸っていた表情は影も形もなく目は完全にこの現象に怯えきってしまっていた
「あーーー。………やっちまったな」
目立つのは御免だ……と言いながらこの有様である。しかし、どうしてもあんな事言われてしまうと殺意が膨れ上がっしまう
「おい、先輩……」
名前なんぞ最早覚えておらず、状態も気にせず声をかける。
ビクッ!!!っと肩を震わせながら怯えた目を向ける、心は既に折れてしまっていた
「後始末は任せた………ちなみに俺の事は喋るなよ?」
そう、殺意を込めて言っておいた
勿論言ったどうなるか何てそれは野暮なことだ
言われた本人様は、もう痛みも忘れて首が取れるんじゃないかというくらい上下に動かしていた
恐怖の刷り込みは完了である
用も済んだので、『空中歩行』を発動させ空からこの場を離脱する事にした
魔力を踏むのは水面を歩いている様な感覚がしてどうにも慣れないが地上の人に注意しながら逃走を図る
そして、騒ぎのお陰で人目のない場所に着地した俺は
「……さて、ギルドに向かうか」
何事も無かったの様に、目的を果たしに行くのであった
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