第九話「初動」
夜。
空気が、重い。
理由は分かっている。
“来る”。
犬塚信乃は、無言で立っていた。
あの場所。
第七話で集まった、あの地点。
すでに、全員が揃っている。
言葉は、ない。
だが、全員が理解している。
同じものを感じている。
“接近”。
スマートフォンが、同時に震えた。
《初動任務:発令》
その下に、座標。
そして——
《対象:排除》
一人が、低く呟く。
「……来るぞ」
次の瞬間。
空間が、歪んだ。
“それ”は、音もなく現れた。
人の形。
だが、崩れている。
輪郭が安定しない。
黒く、揺れている。
第五話の“それ”と同じ。
だが——数が違う。
一体ではない。
三。
四。
増える。
“群れ”だ。
誰かが、一歩前に出る。
迷いはない。
——戦う。
信乃も、前へ。
手の甲の印が、強く光る。
呼応するように、
全員の“それ”が脈打つ。
《戦闘:開始》
次の瞬間。
世界が、弾けた。
炎が走る。
影が跳ねる。
光が裂ける。
それぞれの“力”が、
一斉に解き放たれる。
初めての戦い。
だが。
誰一人として、躊躇はなかった。
——分かっている。
これは、選ばれた時点で決まっていたことだ。
信乃は、腕を振るう。
見えない刃が、“それ”を切り裂く。
確かな手応え。
だが。
消えない。
再び、形を戻す。
「……再生してる?」
誰かの声。
次の瞬間。
背後から気配。
遅い。
振り向いた時には——
“それ”が、目前に迫っていた。
——終わる。
そう思った、その瞬間。
光が走る。
別の誰かの力が、
それを弾き飛ばす。
息が戻る。
……一人じゃない。
理解する。
これは——
“連携”するための戦いだ。
スマートフォンが、震える。
《戦闘データ:収集中》
——観測されている。
誰かに。
その瞬間。
全員が、同じ違和感に気づく。
これは——
“試されている”。
信乃は、歯を食いしばった。
ならば。
答えるしかない。
力を、解放する。
戦いは、まだ終わらない。
だが。
確実に、一歩進んでいる。
“人”としてではなく——
“選ばれたもの”として。




