第二十一話「原型」
白い。
すべてが、白で満たされている。
犬塚信乃は、その中に立っていた。
音はない。
重さもない。
ただ、“在る”。
前方に、彼女がいる。
伏姫。
今までとは違う。
曖昧ではない。
揺らぎもない。
“完全な存在”として、そこにいる。
「……ここは何だ」
問い。
返答は、言葉ではなかった。
だが——
理解は、直接流れ込む。
“原型”
すべてが、始まる前の場所。
記録でも、
観測でもない。
“まだ奪われていない領域”。
信乃の思考が、震える。
そんな場所が、残っているのか。
伏姫が、静かに手を上げる。
白の中に、像が浮かぶ。
人々。
祈り。
珠。
繋がり。
それは、力ではない。
“約束”だった。
人と、人でないものとの。
干渉ではなく、
共存のための。
「……それが、今は」
像が歪む。
同じ構造が、
分解され、
再構築されていく。
観測。
選定。
消費。
別物だ。
同じ形をして、
中身が完全に違う。
「奪われた……」
呟き。
伏姫は、否定しない。
だが。
その目は、別のことを示していた。
“完全ではない”
信乃が、息を飲む。
「まだ……残ってるのか」
答えはない。
だが。
この場所が、その証明だ。
原型。
奪われていない部分。
つまり——
“戻せる可能性”。
その瞬間。
白が、ひび割れる。
亀裂。
黒が、侵入してくる。
観測側。
ここにまで、届き始めている。
『検出』
声が、響く。
伏姫が、初めて表情を変えた。
焦り。
信乃を見る。
そして——
手を伸ばす。
触れる。
瞬間。
何かが、流れ込む。
記憶。
違う。
“権限”。
珠が、脈動する。
これまでとは違う。
“与えられた力”ではない。
“戻されたもの”。
次の瞬間。
すべてが崩壊する。
現実へ。




