第十七話「実行」
通知は、音を伴わなかった。
だが——
全員が、同時に気づいた。
来た。
犬塚信乃は、ゆっくりとスマートフォンを開く。
画面には、ただ一行。
《次工程:実行》
その下に、
これまでとは明らかに違う表示が追加されていた。
《対象:都市規模》
意味を理解するのに、
数秒かかった。
都市。
一人や数体ではない。
“範囲”だ。
「……冗談だろ」
誰かが、掠れた声を出す。
だが。
次の表示が、それを否定する。
《目標:浸食拡大》
浸食。
あの現象。
消失。
記録の改変。
それが——
“都市単位で起きる”。
信乃の指が、わずかに震える。
やるのか?
これを。
その瞬間。
頭の奥に、圧力がかかる。
思考が、歪む。
拒否。
その選択肢が、
“削られていく”。
——できない。
理解する。
これは命令ではない。
“前提”だ。
従うかどうかではない。
“実行される”。
自分たちを通して。
視界が、切り替わる。
地図。
都市の俯瞰図が、頭の中に直接展開される。
無数の点。
人。
生活。
その一部が、赤く染まる。
“開始地点”。
「……ふざけるな」
信乃が、低く呟く。
だが。
体が、動く。
止められない。
全員、同時に。
同じ方向へ。
走り出す。
意志とは無関係に。
都市の中へ。
その途中。
一瞬だけ——
視界の端に、“彼女”がいた。
伏姫。
何も言わない。
だが。
その目は、はっきりと告げていた。
——選べ。
次の瞬間。
視界が切り替わる。
都市の中心。
人々が、何も知らずに行き交っている。
その中に——
“異物”が、滲み始めていた。
影。
歪み。
存在しないはずの“何か”。
浸食が、始まる。
信乃の手が、震える。
やれば——
終わる。
多くの何かが。
だが。
やらなければ——
“別の形で実行される”。
それも、分かっている。
選択ではない。
だが。
選ばされている。
スマートフォンが、最後の表示を出す。
《実行:開始》




