魔法銃士ルーサー、寡兵で圧倒的物量の魔王軍に立ち向かう
シルフィルドの北門前。
真っ先に辿り着いたのは魔王軍ケンタウロス部隊、若きヴィザー中佐の率いるヴィザー大隊である。
やや遅れてオーク大隊も迫っている。
―――――――― シルフィルド北門前 ――――――――
__馬馬馬馬馬___________豚豚豚豚豚豚豚__
__馬馬馬馬馬馬馬__________豚豚豚豚____
_______馬馬馬馬馬ヴ馬馬____________
_________馬馬馬馬馬馬____________
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___塔塔塔______________塔塔塔____
壁壁壁塔衛塔壁壁壁壁壁壁門門門壁壁壁壁壁塔衛塔壁壁壁壁
________フサ_壁門門門壁_ミエ_ル______
壁壁壁壁凸凸凸壁壁壁壁壁門門門壁壁壁壁凸凸凸壁壁壁壁壁
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壁:城壁。間抜けな王国と言えどもさすがに魔王領に隣接している首都なので、高さ10メートル級の堅牢な城壁で町が囲まれている。
塔:矢を射る狭間付きの尖塔。
門:堅牢な城門。なお、かんぬきは掛けてない。
凸:内側から城壁へ上る階段。
馬:コンポジット・ボウを装備したケンタウロス兵達。人の上半身は皮鎧を着ており、馬の下半身ではに荷馬のように左右に分けて物資や矢を背負っている。
ケンタウロスは魔王軍の中では矢による遠距離戦力と、兵站維持を主な任務としている。総数一千。
ヴ:ヴィザー大隊を率いるヴィザー司令官。
目立つ羽飾り付きの鉄傘に鉄仮面を付け、金の縁取り付きの鎧に身を包んでいる。
豚:やや遅れて駆け付けるオーク大隊。歩兵であり総数一千。
衛:まともな戦闘は初めてで超ブルってる弓守備兵。尖塔一つに3人が入っている。
サ:城壁に立つサーキ。
ミ:城壁に立つミツール。
ル:尖塔の影から外の様子を伺うルーサー。
エ:ミツールの横で緊張した面持ちで待機するエリック
フ:サーキの横で緊張した面持ちで待機するフィリップ
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ケンタウロス軍は土煙を上げながら城壁まで100メートル程まで近づき、一旦止まって様子を見る。
それを見てミツールが声を張り上げた。
「立ち去れ魔王軍!
僕は異世界転移者のミツール、お前達は僕に決して勝てない!
いずれ滅ぶのは確定だけど、少しでも長生きしたければ今すぐ引き返せ!」
続いてサーキも大声で叫ぶ。
「ウチは異世界転移者のサーキ。
アンタら、これ以上進むと……死ぬよ」
ケンタウロス達は静まり返り、ひときわ目立つ鎧を着たヴィザー司令官が嬉しそうに声を張り上げた。
「クハハハハハ!
サーキだけでなくミツールまでもが一緒に居たとは、まさにカモが葱を背負っている状態と言う物だ。
このヴィザー大隊が異世界転移者共、貴様らを討つ!」
やはり突然の総攻撃、目的はそれだったか。
女神様がド派手な宣伝をしてくれたからな。
「奴らを射殺せ! 異世界転移者の首は真っ先にここへ辿り着いた我らの物だ!
そして我らが……」
「スキル・シルフの迷惑な贈り物!」
俺はエイジド・ラブに風の精霊の力を集め、引き金を引いた。
発射された弾丸は風の精霊の力を受けて大きく湾曲しながらヴィザーの方へとフラフラ向かい、右側頭部から左側頭部へと突き抜けた。
しゃべりかけていたヴィザーはふらりとよろけ、ドサッとその場に倒れる。
スキル・シルフの迷惑な贈り物は魔法銃での風の精霊の補助を受けた超遠距離狙撃、しかも曲射を可能とする魔法銃士の大技である。
いきなり司令官をやられて混乱し始めるケンタウロスに、ヴィザーの近衛兵が青筋を立てながら怒鳴りつける。
「やれぃ! 奴らを撃てぃ!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン
ヒュンヒュンヒュンヒュン
ケンタウロス兵達は一斉に矢を構えて矢をつがえ、連射し始めた。
大量の矢が一斉に嵐の様に撃ち上がる。
「ひえぇぇ」
「きたぁぁぁ」
尖塔の弓守備兵はしゃがんで影に隠れる。
俺は尖塔の影に隠れながらエリックとフィリップに大声で指示をした。
「エリック! フィリップさん!
矢への対抗魔法を早く!」
「宿命を司りし聖なる渦よ、我らに迫る死の運び手を払い給え! ブレッシング・オブ・イベージョン!」
「煉獄に住むシャドウクロウラーよ、鋼より強きその糸の力を我が手に集めよ。
我はコントローラー、ここにある巣の障壁、何者も突き通る事能わず! アンチ・ミサイル・プロテクション!」
二人はミツールとサーキを覆うように防護魔法を発動した。
ミツールに向かう矢は軌道をずらされて次々と逸れて後ろに飛び、サーキに向かう矢は1メートル手前で震えたり回転しながら空中で静止する。
「ミツール殿! 気を抜かないで下さいよ!?
私の聖魔法『ブレッシング・オブ・イベージョン』は被弾の可能性を大きく下げる加護。
当たらない訳では無いんです」
「うわっ!
あぶっ!
軌道が変わってかえってこええよ!」
「私はジョロネロ国での出来事で大きく成長はしましたが、それでもまだ見習いレベルですからね。
危ないっ! パリィ!(カーン!)」
サーキは仁王立ちで腰に手を当てて大笑いである。
「はっはっはっは!
オラオラオラぁ――もっと来ーい!
おっさん、この魔法面白れーな」
「すいません、ちょっと集中させて下さい。
今私必死なのでちょっと余裕ないんで」
俺は尖塔を守る弓守備兵にも叫ぶ。
「身の安全を第一に、そして城壁に梯子を掛けようとするものが居れば見逃さずに撃ち落とせ!
他への攻撃は無理しなくていい!
威嚇射撃で十分だ!
あれだけ居るんだ、誰かには当たる!
大丈夫、尖塔はそう易々とは壊れはしない。
君達の任務は最後まで生き残り、そこに存在し続ける事だからな!?」
「了解でーす」
「ひぃぃぃ!」
司令官を失ったケンタウロス達は執拗に矢で攻撃するが、ミツール達は見えているのに命中しないし、尖塔の狭間の狭い隙間に入り込む矢も無い。
当てる敵が居ない状態での矢の乱射は殆ど効いてない状態である。
そうこうしている内にオーク大隊の先頭が城門前に到着し、矢を放ち続けるケンタウロス隊と並んだ。
ミツール達は再び叫ぶ。
「再度言うぞこの糞馬鹿共!
僕は異世界転移者のミツール! 異世界転移者!
えー、異世界転移者でございまーす!
まったく大量に来てくれちゃって本当に。
とっとと帰れこの野郎!」
「ウチは異世界転移者のサーキ様だ!
おおぅ?
何だてめーら!
びびってんのか?」
無理してでも奴らの目的である異世界転移者を見せびらかす理由。
それは裏回りをされたら困るからだ。
城門前で完全に足止めをすれば、確実に敵軍の一部は城壁沿いに回り込んで抜け道を探し始める。
そうすると今この瞬間も、裏側から列を作って脱出している町の人々を危険に巻き込む事になる。
それをさせないためには餌をぶらつかせて北門に引き付け続けなければならない。
オーク軍は叫ぶ二人を見て一瞬足を止めた。
そして何匹かの偵察兵らしきオークが望遠鏡でミツールとサーキを確認し、手元のスクロールを開いて頷くと身を屈めて兵隊達に紛れて姿を隠す。
司令官らしき奴が居たらついでに葬ってやろうと考えていたが、奴らはヴィザーの間抜けな死を知ってか、用心深くなっているようだ。
ドン ドン ドドン ドン
ドン ドン ドドン ドン
オーク大隊の中から響いていたドラムの調子が変わった。
オーク兵達はウォードラムを聞いて大将の指示を知り、行動をする。
そしてオーク下級兵はあまり賢くは無いのでその合図は滅多に変えられる事は無い。
なので俺の様に何度も魔王軍と戦っていると自然とその意味を覚えてしまう。
このリズムが意味するのは『突撃・突入』。
俺はミツール達に叫んだ。
「オーケィ!
作戦その2に移るぞ!
4人とも走れ!」
「分かりました」
「行きましょうミツール殿」
「いくぞおっさん」
「冷や冷やしましたよ、もう少しでアンチ・ミサイル・プロテクションが切れる限界時間でした」
俺と4人は急いで階段から町の方へと降りた。
そして中央通りの奥へと走る。




