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魔法銃士ルーサー、いきなり始まった剣聖ブラーディ直々の指導を見守る

 シルフィルドの広場にて。

 ミツールは剣聖ブラーディに言われ、今の自分の持つ剣技を素振りして見せていた。

 隣ではサーキも木刀を振るっている。


「ふぅ――む。

 怪しげではあるが基礎の基礎だけは教わっているようじゃの。

 じゃが実用性と効率だけを追求し、人から形だけ教えられた物は技術と言われる物。

 それは誰でも簡単に奪えるし、発展性も無い。

 兵団で大勢の兵士を戦えるように育て上げるだけならば良いがの。

 そなた達は最強のソードマスターとなりたいのであろう?

 ならばその先にかねばならぬ。

 何故そういう動きをするのか、何故そういう事をしてはならないのかを一つ一つ経験し、長い修練をもって己の中に築き上げねばならぬ。

 それを技能と言い、そう容易く奪う事の出来ぬ物となるのだ」


 剣聖ブラーディは周囲を見回すと、地面に落ちていた手ごろなサイズの木の棒を二本拾い上げた。

 そしてミツールとサーキの前に二刀流で構えて歩み寄る。


「痛みを持って理解せよ。

 これよりわしが汝らにゆっくりと打ちかかる。

 我が剣をさばききり、わしに攻撃を当てて見よ」

「え? でも僕が持ってるの真剣だし……」

「お師匠! 本当にいいのかい?」


「構わんよ?

 出来ればの話じゃがな。

 ではいくぞ?」


 剣聖ブラーディは宣言した通り、緩やかな動きでミツールとサーキに棒きれを振り下ろした。

 二人はまず剣を水平に構えて受け止めに掛かる。


 ニュルリッ!


「あっ、ズリぃ!」

「うわっ」


 ドガッ

 バシッ


「はぐっ」

「痛っ!」


 剣聖ブラーディは緩やかに剣の軌道をうねらせ、あたふたして剣に振り回される二人の受けをすり抜けて胴を打った。


「何が問題だったのか?

 どうするべきだったのか?

 しっかり知恵を絞って考えながら次の打撃に備えよ。

 その為にわしはゆっくりやっておるのじゃからの」


 剣聖ブラーディは何度も棒きれを振り上げ、振り下ろしミツールとサーキを打つ。

 二人はゆっくりとしたブラーディの剣に全力、全速力で対応しようにも、クルリクルリとすり抜けられ打ち据えられる。


「ほれほれ。

 これが真剣ならば既にサーキは5回、ミツールは8回致命傷を受けて死んでいるぞ?」


 二人は防衛に必死でゆっくりと棒を振るブラーディへの攻撃をしない。

 いや、出来ないのだ。

 ゆっくりだが練り込まれた最善の剣筋故、剣聖ブラーディへ攻撃に転じる猶予すら全く与えられていないのである。

 俺やナオミ、エリックやダイヤやフィリップも感心しながらその様子を見守っていた。


 ドガッ ドタッ


「いててっ!」


 バシッ バタッ


「いつっ!」


 剣聖ブラーディの木の棒の打撃を受け、二人そろって尻餅をつく。


「まずはここまでとするかの。

 詰め込み過ぎても消化出来る物ではないしのぅ」

「剣聖ブラーディ様、有難うございました!」

「有難うございました! お師匠!」


 二人そろって礼をする。

 俺も二人に声を掛ける。


「剣聖ブラーディ様からのご指導はまさに黄金を頂くような物。

 二人共とても価値ある時間を過ごしたな。

 まったくこの贅沢ものめ」


 剣聖ブラーディは自分のアゴ髭を撫でながら笑った。


「ふぉっふぉっふぉ。

 こういう机上の学習も良いが、本物の剣客となるには己の人生をその道に置かねばならぬ。

 実戦を並行して行う事が好ましいんじゃがのぅ」


 ***


 ここは大賢者の森と呼ばれる森。

 滅多に人が足を踏み入れる事の無い聖域は今、魔王軍の襲撃部隊の侵入を受け入れていた。

 体高1.8から2メートル程もある武装したオークの集団があちこちで木を切り倒したり、森に生息する動物達を手あたり次第に狩っては丸焼きにして食っている。

 大賢者の木と呼ばれた黄金色に輝く巨木の周囲だけは神聖な力による結界が有る為、オーク共も近寄ることが出来ない。

 しかしその結界をすり抜けて歩み寄る者が居た。

 カエルの様な顔、左右に板のようなプレートが垂れた形のヘルムを被り、ミスリル製のプレートメイルで全身を覆った両生類人間、この軍団を率いる将軍である。


 ザッザッザッザッ


 その者は大賢者の木に歩み寄り、蔦の格子から中を覗く。


「お前が噂の光輝の陣営の大賢者、タカーシか?

 異世界転移者と言うから始末しておこうと思って来たんだけど、どうやら相手にする価値も無さそうですね」


 大賢者タカーシは両手で蔦の格子を掴み、顔を近づけて周囲を見回す。


「魔王軍の手の者か。

 せいぜい吠えるがよい。

 私は戦う事が出来ぬが、既に別の異世界転移者が現れておる。

 今まで何度も繰り返してきた歴史同様に、お前達の敗北は既に確定しておるわい」

「大した信頼ですね。

 そんなにその異世界転移者とやらは強いんですか?」


「今の所強くは無い。

 しかし必ずお前達はかの者の手によって滅ぼされる。

 そういう宿命なのだ」

「ふふん。

 信じられない話だけど、この世界はそうらしいね。

 でも光輝の軍の勝利の歴史は終わる。

 何故なら僕が来たからですよ」


「……何者だ……お前は?」

「魔王軍の勢力として異世界から転移してきました。

 キュルカーズと言います。

 この名前、いずれこの世界に響き渡る事になるので覚えておいて損は無いですよ?」


「よく居るんだ。

 自分が転移者だとホラを吹く奴がな。

 本物の転移者であるわしを騙す事は出来ん。

 まぁ一応聞こうか?

 お前はどこから来た?」

「地球です」


「転移者の事をよく調べておるようだな。

 ではけもの〇レンズの二期の感想を聞こうか?」

「素晴らしいお話でしたよ。

 僕は大満足でした。

 あれ程の名作は今後出ないでしょうね」


「プ。

 はぁ~っはっは。

 バァ~かめっ!

 けもの〇レンズの二期なんて出てないんだよ。

 知ったかぶりして誤魔化そうとして失敗したな。

 お前は転移者の騙りだ!」

「出てますよ?

 2019年の1月から4月にかけての全12話。

 バッグちゃんは主人公では無くなってますがね」


「!

 そんな細かな情報を知ってるなんて……貴様本当に転移者なのか?」

「だからそう言ってるでしょ?

 大好きなアニメだからこうやってポータブルDVDプレイヤーまでこの世界に持ち込んでいるんですよ」


「……見せてくれ……頼むっ! この通りだ!」

「えぇぇ?

 はっはっは、あんた光輝の陣営の転移者でしょう?

 魔王軍に頭下げちゃっていいの?」


「それとこれとは話は別なのだ!

 ミツールの奴、わしに嘘を教えやがって!

 なぁ、頼む、頼むよ!」

「まぁいいでしょう。

 同じアニメを愛する者に対する情けですよ。

 ほらっ」


 キュルカーズはポータブルDVDプレイヤーのディスプレイを大賢者タカーシに見えるようにして地面に置き、プレイスイッチを押した。

 そして近くに丸太を転がして来ると座り込んで一緒に視聴する。


 数時間にわたる連続再生、タカーシは格子に顔を押し当てながら食い入るように視聴し続けた。

 そしてついに最終話の再生が終わり、キュルカーズはポータブルDVDプレイヤーを止めて拾い上げる。


「何度見ても最高ですね。

 犬の悲劇エピソードも最高に笑えてきますよ。

 心の底からスッとします。

 ん? どうしたんです?」


 タカーシは崩れ落ちそうになりながらも必死で格子に掴まり、生気を失った青い顔で宙を見ていた。


「……そういう事……だったのか……。

 ミツール……お前の言った事は……正しかった。

 けもの〇レンズの二期は出て無いし、永久に出ない……そういう事だったのか……。

 そしてミツール、お前もまた、深く愛するが故に……」

「何言ってるんです。

 貴方は今さっきまで見てましたよね?

 素晴らしいアニメだったじゃないですか」


 タカーシの頬にふた筋の光る物が滑り落ちる。

 そしてキュルカーズを睨みつけながら言い放った。


「貴様には分かるまい!

 貴様には永久に分かるまいっ!

 おぞましき悪の軍勢よ!

 今すぐその汚らわしいDVDを持って、ここから立ち去れぃ!

 我々、光輝の陣営は決してお前達魔王軍に屈する事は無い!」

「いい度胸ですね。

 ま、貴方を始末するのは後にしてあげましょう。

 どうせそこから出られないんでしょうし、最後にこの世界が魔王軍の物、僕の物になり果てる姿を貴方に見せつけてやりたくなりましたからね。

 ま、腹ごしらえを終えたらさくっとシルフィルドから奪いますかね」

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