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魔法銃士ルーサー、ミルトン王国へ向かう

 俺は冒険者ギルドの受付嬢、メリロイヒにクエストの依頼票を出した。


「えーと、これを……」

「あっ、少々お待ちください。

 ナオミさぁ――ん!

 依頼を受けて下さる方が現れましたよ?」


 メリロイヒが隣の通路の方を向いて大声で呼ぶ。

 ガタッと待合室の一つの扉が開き、ナオミが少しだけ頭を覗かせてこちらを確認した。


 タッタッタ


 俺を見て嬉しそうに駆け寄る。

 メリロイヒは笑いそうな笑顔で言った。


「それではルーサー様がクエスト受注という事で手続きを致しますのでここにサインをお願いします」


 俺はサインした。


「はい……完了です。

 お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ルーサーさん、きっと受けて下さると信じていました!

 さぁ、行きましょう」

「やれやれ……」


 ナオミは勝手に俺と腕を組んでギルドの建物の外側へと誘導する。

 建物の横には屋根付きで荷台が空の荷馬車が止めてあった。

 四輪で馬二頭が引く形式のものである。

 ナオミは慣れた様子で馬車に足を掛け、御者の座席に登って座るとその隣を俺に示す。


「ルーサーさん、どうぞこちらへ」

「うーん、あれ? ちょっと二人で乗るには狭くないか?」


 座ってみると余裕が無いというか腕が長袖の服を着たナオミと密着しっぱなしである。


「大丈夫です! 私は。

 それでは進みましょう。

 ハイッ!」


 ピシィッ!


 ナオミが二頭の馬の手綱を一瞬上に振り上げ、ムチのように馬に当てて掛け声をかける。

 二頭の馬はそれを合図に前へと進み始めた。


 カラカラカラ……


 ドーラーの町の大通りを進み、門を抜けて街道を進み始める。


「馬の扱いに慣れてるな。大したもんだ」

「物心ついた頃から馬に乗ったり、牛を使って畑を耕したりしてたのでもう慣れました。

 時々聞き分けの無い子も居ますが、この二頭は素直ないい子だから楽なんです。

 ギルドの外でも大人しく待ってくれていましたし」


「そういやナオミって普段何してるんだ?

 おたゑちゃんの家に今住まわせて貰ってるけど、話をした事がなくてな」

「うちは食材の卸売りをする商家で、色んな地域から野菜や果物、肉や乾物から生きたお魚まで仕入れて、ドーラの町の八百屋や肉屋、料理屋や宿屋に卸売りしています。

 私は店番から在庫管理、仕入れまで、今ではもう大体の事はやっていますね。

 ドーラの町では一番のお店だと思います」


「そうかぁ、若いのに偉いなぁ」


 俺なんてあやうくプー太郎さんだったんだぞ。


「おたゑお婆ちゃんも一緒にドーラの町で住むように何度も勧めたのですが、亡くなった一郎お爺ちゃんとの思い出のあるたけのこ村の家で余生を過ごしたいようです。

 お婆ちゃんとミミちゃんだけでの孤独な生活で少し心配していましたが、ルーサーさんが一緒に暮らして頂けてるお陰で今は安心出来ます」

「そうなのかぁ。

 そういう事情があったわけだなぁ。

 でもおたゑちゃんはたけのこ村の他のお婆さん達といつも仲良くやってる。

 皆いい人達だから大丈夫さ。

 勿論俺だって居るしな」


「ルーサーさん」

「ん?」


「……いぇ、私に触れられていても平気になったんだなぁって」

「そう言えば……、耐性ついたのかな?

 いや変な誤解を与えてたなら謝るよ。

 別にナオミの事を嫌っていた訳では無いからよ」


「おたゑお婆ちゃんが言ってました。

 ルーサーさんはたけのこ村の歓迎会でも若い女の子に触れられた後、もどしてたって。

 若い女の子に何かトラウマとか有るのですか?」


 ナオミはすぐ横からまっすぐこっちを見る。


「いやそれが分からないんだよ。

 何故か分からないが体が反応する。

 自分の意思じゃどうにもならない」

「その……男の方のほうが好きだとか?」


「はっはっは。

 そういう奴も勇者パーティーに居たけどなぁ。

 二人ほど。

 まぁ実際の所、察してるんだろう?

 あのクエスト依頼票だもんな」

「ルーサーさん」


「ん?」

「ルーサーさんが私の顔を見る時、どこか怯えているように感じます」


「そうか?

 まぁ、俺自身覚えていないトラウマだってあるかも知れんな。

 ところでミルトン王国に何を仕入れに行くんだ?」

「色んなチーズと乾燥肉、燻製肉、塩漬け肉ですね。

 ミルトン王国は放牧が盛んなのでチーズが名産なんですよ」


「その仕入れ予定はいつ決まったんだ?」

「えっとその……おととい?」


「……」

「はいはい。今日決めました!」


「そんな適当で店大丈夫かよ!?」

「大丈夫です! お客はどの店も有る素材でメニュー決めますから!」


 ***


 一方、一日早くミルトン王国へ向かっていたミツール達『打倒アバドーン』パーティは一足早くミルトン王国に到着していた。

 そしてミルトン王国の首都シルフィルドの門の前で足止めである。

 衛兵に話を聞いていたミツールが振り返って言った。


「入国税がいるって。1万ゴールド」

「えぇぇ? そんな話聞いた事が有りませんよ!

 ミツール殿、私は半年ほど前に来たことが有りますがそんな物は取られなかったです。

 何かの間違いでは無いでしょうか?

 もう一度確認して頂けますか?」


 ミツールは衛兵にもう一度尋ねた。


「半年前は無料で入れたそうだけど?」

「半年前はそうだが、今は必要だ。

 一か月前にミルトン王国の王であるウオラ様が決められた法律だ。

 一人に付き一万ゴールド。

 払わない者を中へ通すわけにはいかぬ」


 ダイヤも少し怒気を漂わせながら抗議する。


「いくら何でも一万ゴールドなんて有り得ないでしょう?

 高すぎよ!

 正気じゃ無いわよ!

 そんな大金巻き上げてたら誰もこの町に来なくなるわよ!?」

「仮にお前達がウオラ様の発行した特別通行パスを持っているならば通れるが、どうせ持ってないんだろう?

 別に同じ程度の価値のある物品でもいいぞ。

 お前の持っている剣と……あと多少の防具くらいか?」

「ふざけんな!

 俺達はミルトン王国首都の下水道のオオネズミ駆除のクエストを受けて来たんだ!

 武器無しにやれるか!」


 一連のやり取りを見ていたおっさんマジシャンのフィリップが歩み出ると、衛兵に笑顔で話しかけた。


「どうも、お久しぶりですピーターさん。

 3年前くらいですかなぁ、一緒にホーンドバニー討伐のクエスト……やりましたよね?」

「ん?

 あぁ!

 ひょっとしてフィリップさん?」


「そうそう。

 私ですよ。

 マジシャンのフィリップ!」

「あ――!

 覚えてる覚えてる。

 あん時は俺も甘ちゃんで、ホーンドバニー舐めてましたから。

 太ももぶっ刺されて泣きましたよ。

 フィリップさんも必死に攻撃魔法を詠唱しようとしながら体中突かれて逃げまくってパーティー大混乱だったなぁ」


「あれは本当にヤバかったですね。

 発狂した戦士のボガードさんが斧を偶然ホーンドバニーの角に当てて、ブチ折らなかったら全員死んでたかも知れませんよ」

「あん時のホーンドバニーの驚いた顔、傑作だったなぁ!

 ハッハッハッハ」


 これが年の功、経験の差かとミツール達はフィリップと衛兵のやり取りを見守る。


「ところでピーターさん。

 私達はどうしてもこの町に入らなければならないんだけど、そんなにお金を持っていないんですよ。

 下水道のオオネズミ駆除はシルフィルドの為でもありますし、衛生環境を向上させることに繋がります。

 どうか昔のパーティーメンバーだったよしみで、こっそり通して頂けないでしょうか?」

「……いや、駄目ですよ」


「え?」

「何言ってるんですかフィリップさん。

 それとこれとは話が別です。

 駄目なものは駄目、1万ゴールド払って頂かない事にはここを通すわけにはいきません。

 はっは、怖いなぁ――。

 一体何を言い出すかと思えば」


 知り合いであると言う事と、それが重要人物であると言う事はこれまた違うのである。

 ミツールが思わず声を上げる。


「うわぁ……使えねぇこのおっさん」

「ミ、ミツール殿、声が大きいですよ」

「……」


「は、ははは、ははははは……。駄目?」

「駄目」


 ミツールが再び衛兵の前に歩み出る。


「後払いって出来ない?

 俺達今からクエストでモンスターを狩りまくるんだよ。

 当然素材とか戦利品が出る。

 それを売っぱらってここから出る時に一人一万ゴールド払うってのは?」

「無条件に信じる訳にはいかないな。

 何かこう、人質というか何か等価以上の物を担保として私が預かり、出国時にお金を受け取ればそれを返す。

 それなら認めても良い」


 ミツールは黙ってダイヤの前に歩み寄った。


 ジ――


 ミツールの視線が自分の頭に行っているのに気付いたダイヤは、ミツールに背を向け、ティアラを両手で押さえて遠ざかる。


「いやっ! これはダメ!」

「一時的に預けるだけだから! ちょっとだけだから!」


「駄目! 駄目駄目駄目~~!

 駄目ったら駄目ぇ――!」

「つべこべ言うなって! 戦闘に使わない物で価値ある物って今それしかないんだから!

 ほらっ、よこせって!」


「いや――っ!

 あああっ! このっ返しなさいっ!」

「ほらっ、これ。

 スマホって言って異世界の貴重なアイテムだから。

 オーケー?」


 ドガッ


 後ろからダイヤに後頭部を殴られながらミツールは衛兵にスマホを渡した。


「むむむっ!

 なんだかよく分からんが何やら凄そうな物だ。

 いいだろう。

 通ってよし」

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