魔法銃士ルーサー、ミツール達を隠れて見守る為にミルトン王国向きのクエスト依頼を受ける
ミツール達の『打倒アバドーン』パーティーは結局46歳妻子持ちのマジシャン(魔法系初級職)のフィリップさんをメンバーに加え、オオネズミ駆除のクエストを受けてミルトン王国に旅立った。
俺はというと、過保護な事をやればミツールの根性の育成に悪影響を与えると考え、同行はせずに突き放した。
で、その翌日の午前中。
ドーラの町の冒険者ギルドの職員が業務を開始し始めた頃。
俺は冒険者ギルドを訪れ、さりげなく受付嬢の立つカウンターの前を通り過ぎる。
「あ、ルーサー様、おはようございます」
「おう、おはよう」
「ルーサー様が一人で来られるって珍しいですね。
一体どうされたのですか?」
「いや、その……。
ちょっとミルトン王国に行く用事があってだな。
ついでだから何かそっち方面のクエストでも無いかなぁと」
万が一ミルトン王国でミツール達に出くわした時に、不安だから様子を見に来たなんて言ったら示しがつかんからな。
偶然そこに行く用事が有った。
……そうでなければならない。
「あ――。
残念ですが今の所無かったはずですよ。
クエスト依頼掲示板ですよね?」
「そうか」
「でも今日は週末で一般の方々も手が空く日ですから、沢山クエスト依頼の申請が見込まれます。
多分午後に来ていただければ、依頼はぐっと増えているはずですよ」
「そうか、まぁ急いではいないし、午後にまた来るよ。
それじゃ」
「お待ち申しております」
***
太陽が天辺に登った昼頃、冒険者ギルドのクエスト依頼掲示板のある部屋、酒場では大勢の冒険者が集まって食事をとり、ガヤガヤと騒がしく雑談をしながら過ごしていた。
全てのテーブルが埋まり、筋骨隆々とした髭面の戦士達や気位の高そうなウィザード、レンジャーやらガラの悪そうなシーフ職も居る。
ここは普段はここまで人で溢れる事は無い。
今日は週末。
多くのクエスト依頼が貼りだされるのが恒例であり、条件の良い物を真っ先に見つけ出す為に冒険者が集まるのである。
冒険者たちは全員雑談はしつつも常にクエスト依頼掲示板から注意は反らさない。
トットットッ
ヒョロヒョロで長身、ニット帽を被った青年が酒場に現れ、クエスト依頼掲示板に紙を押しピンで張り付ける。
クエスト依頼は受付で必要手続きを経た後、認定印を付きのクエスト依頼用紙を貰う。
そして依頼者が自分で掲示板に張りに行くのがクエスト依頼システムだ。
多くの冒険者たちはニット帽の青年の作業を遠巻きに眺めながらも、無視して雑談を続ける。
もう常連だから分かっているのである。
ニット帽の青年は秘薬屋ギルド所属の製薬店の店員、依頼内容は毎週恒例の何らかの薬草収集。
そんな初心者向けで報酬の安いクエストなど人気が有るはずも無く、どうしても小金に困った冒険者が仕方なく余り物として選ぶのだ。
タタッ
製薬店の青年が酒場から消えた後、代わりに今度は若い美少女が依頼用紙を持って現れた。
酒場の荒くれ冒険者たちがざわめき立つ。
「おおぉ、凄い可愛いなあの娘」
「ベッピンさんじゃのう」
「スゲー美人だぁ……。あんな美人見た事ねぇ」
「何言ってんのよ、アンタ、アタシの事が世界一とか言ってただろが!」
2、3人のガラの悪そうな戦士が少女に近寄って話しかける。
「よぉ、依頼かい?」
「俺達なら只で受けてやってもいいぜ?
なんなら場所を移動して詳しい話を聞かせてくれや」
その依頼用紙を持つ少女はおたゑの孫のナオミであった。
「ごっ、ごめんなさい。
色々と条件の難しい依頼だから」
「そう言わずに見せて見ろよ」
「見なくてもいい。受けるぜ」
「ごめんなさい、通して下さいね」
男たちに手を掴まれそうになりながら足早に振り切って掲示板に依頼用紙を張り付け、押しピンで留めた。
「お嬢ちゃん、ちょっと待って、もっと話そうや」
ナオミは苦笑しながら逃げるように男達から距離を取ってすり抜けて酒場から消える。
「おいおい何だ? 何の依頼なんだ?」
「俺ちょっと見てくるわ」
「俺も」
「行ってくる、受けれそうなら報酬無視で受けてくるからいいな? お前ら」
「ああ、もぎ取って来い」
大勢のイカツイ男の冒険者達が席を立ち、ナオミの張った依頼用紙を見に集まる。
***
俺はお昼を過ぎた頃、再び冒険者ギルドへと訪れた。
そして受付カウンターの前を通る。
「よぅ、クエスト依頼は一杯来てるか?」
受付嬢は意味ありげな笑顔で酒場の方を示して言った。
「はい。沢山来ているのでどうぞご確認下さい」
「よし、じゃぁ見に行くか」
酒場に入るとクエスト依頼掲示板にはムサイ男共が集まって騒がしい状態になっている。
そいつらが邪魔で掲示板など見えやしない。
「すまんな、ちょっと通してくれ。
依頼を確認したいんだ」
俺は武骨な冒険者共をかき分けながら進み、掲示板の前に出た。
冒険者たちは多数ある他の依頼用紙には目もくれず、只一枚の依頼用紙に全員が注目し、嘆いたり悔しがったりしている。
「一体何を大騒ぎしてるんだ。どれどれ?」
依頼用紙にはこう書いてあった。
――――――― クエスト依頼 ―――――――
◆依頼者◆
ナオミ
◆依頼種別◆ ※該当するものにチェック
_討伐
レ護衛
_採集
_駆除
_捜索
_調査
◆想定拘束期間◆
三日間
◆想定難易度ランク◆ ※難易度の指標は別紙をよく読んで記載をお願いします
ランク:S
◆依頼概要◆ ※一文で簡潔に記載して下さい
ミルトン王国への買い出しの護衛をお願いします。
◆依頼詳細◆ ※特殊事情などは隠さずに記載してください
ミルトン王国まで荷馬車移動の行き返りの護衛、買い出し中の身辺の護衛を依頼します。
出発して帰るまで三日間を想定しています。
ハイオーク・ブルートくらいの暴漢が10匹来ても撃退出来る程強くて優しい方を希望します。
比較的よく狙われます。
◆必須条件◆ ※この条件は絶対に外せないという内容を記載して下さい
・武器として魔法銃を使う方。
・勇者サリー様の元パーティーメンバーだったほどの実力者の男性の方。
・名前の先頭が「ル」で始まる方。
・名前に「サ」が含まれる方。
◆報酬◆
・5000ゴールド
・おたゑお婆ちゃんの喜ぶ笑顔
◆備考◆ ※リスクなどが有れば正直に記載して下さい
条件に妥協は出来ず、条件に合う方に受けて頂けなければ買い出しは断念します。
この買い出しを断念するとおたゑお婆ちゃんが悲しむ可能性があります。
回回回回回回回回 責任者承認印 回回回回回回回回
冒険者ギルド内職位:受付嬢
名前:メリロイヒ
印:刈吪
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
―――――――――――――――――――――
一部の冒険者が鼻息を荒げる。
「何だよこの条件!
ふざけてるのかよ、よくこんなの冒険者ギルドは承認通したな!」
「別に怒るくらいならこの依頼用紙、無視すりゃいいだろうが、他行けよ」
「いやっ、そんなっ、でもぉお!」
「何でずっとこだわるんだよ」
他にも依頼用紙は幾らでもあるのに集まっているイカツイ冒険者たちは見向きもせずに言い争っている。
俺はなんとなく状況を察した。
「やれやれ……あの受付嬢、ナオミと繋がってやがったのか。
しかも今度はおたゑちゃんをダシにつかいやがって。
なんか俺こんなのばっかだな」
俺は歩み出てナオミの依頼用紙をピッと取った。
「なっ、誰だてめぇ!」
「勝手に取るんじゃねぇ!」
「いや……、まてその方は!」
「ルーサーさんだ」
「マジだ、ルーサーさんだ」
「……」
「……」
冒険者達は不服そうな顔をしつつも、依頼用紙の条件と俺を交互に見比べて黙り込む。
どんなイカツイ奴でもここらの冒険者であれば俺の事は知っている。
勝てる相手では無い事も。
「悪いな。じゃ、どいてくれ」
俺は依頼用紙を持ってクエスト依頼掲示板の前を離れ、クエストを受ける為に受付へと向かった。




