魔法銃士ルーサー、ミツールパーティーの魔法職の面接に付き合う
俺はドーラの町へと帰還し、冒険者ギルドのカウンターで受付嬢にクエスト完了の報告を行っていた。
「魔導起爆壺の除去依頼、それに糞尿ゴーレムの駆除依頼。
二つとも完了だ。
これが依頼者のサイン入り証明書」
「お疲れ様でしたルーサー様、えぇっと……はい、確かに。
既にギルド側への通知もすでに届いているようです。
各支部からの確認が取れました」
「もう伝わってるのか。早いな」
「伝書鳥が空を飛んで支部から書状を運んでくれますからね。
それではこれが報酬の35万ゴールドとなります。
受け取りのサインをお願いします」
俺はサインをしながら何気なく聞いた。
「ところでミツール達、『打倒魔王アバドーン』パーティーの方は何か問題とか起こしたりしてないか?
何日か開けちまったから若干気になってたんだよ。
大人しく兵団で訓練を続けててくれたらいいんだがな」
「あぁ……『打倒魔王アバドーン』パーティーでしたら先日、ミルトン王国の下水道にはびこるオオネズミの定期駆除依頼のクエストを受けに来られまして……」
「え?
オオネズミは確かにビギナー向けと思われがちだが、数が多い。
まだ経験の浅いアイツ等には事故って全滅のリスクがあるぞ?」
「はい……なのでギルドのサブマスターのワスプさんが止めました」
俺はほっと胸を撫で下ろす。
「さすがワスプさん、分かってらっしゃる。
しかしミツールの奴は大人しく引いたのか?」
「ワスプさんが彼らに条件を出したんです。
十分に経験を詰んだ魔法職をパーティーに加えるまでは認める事が出来ないって。
それでギルドにはパーティーメンバー募集の依頼を出せるの、ルーサー様もご存知ですよね?」
「ああ」
「『打倒魔王アバドーン』パーティーはその依頼を昨日出されまして、今日志願者の方が一人来たんです。
で、今打ち合わせ室3で面談中です」
俺はサインを終え、報酬を受け取ってカバンに入れた。
「教えてくれてありがとう。
ちょっと様子を見に行ってみるよ」
***
ガチャリ……
俺は打ち合わせ室3と書かれた扉を開けて中に入った。
中は小さな部屋になっており、丸テーブルをはさんでミツール、エリック、ダイヤと頭が薄ら禿げた40~50代のおっさんが向き合って座っている。
そして突然現れた俺に全員が注目した。
「ルーサーさんじゃないですか」
「あ、ルーサーさんだ」
「お久しぶりです」
「えーと、気にしないでくれ。
面接してたんだろう?
俺に構わず続けてくれ」
俺は椅子を取って壁際の隅っこに移動し、足を組んで座った。
皆気まずそうにしている。
「ほら、続けて続けて」
ミツールは向かいのおっさんに尋ねた。
「じゃぁフィリップさん、まずは職業とどんな事が出来るか教えて下さい」
フィリップと呼ばれたおっさんは背筋を伸ばし、呼吸を整えてから答え始める。
「はい!
私は魔法使い、マジシャンでして、ファイヤーボールを撃ったりとか?
ライトニング、エアカッターにアーススパイクと各種属性の攻撃魔法を卒なくこなせます」
ダイヤが遠慮がちに尋ねる。
「マジシャン? ウィザードじゃなくてですか?」
「はい! マジシャンです」
なお、ウィザードはマジシャンの上位職である。
だがミツールはまだこの世界の職業にピンと来てないといった表情だ。
エリックも真面目な顔で質問する。
「今までご経験なさった戦いとか、冒険とかそういったものを聞かせて頂けませんか?」
「はい!
一口に経験と申しましても、私は今まで数十を越えるパーティーのメンバーを経験しておりまして、ダンジョンに潜ってのトレジャーハントやモンスター駆除、ジャングルでのサバイバルや隊商の護衛、時には魔王軍と戦う兵団の臨時戦力として魔導兵隊に入ったりといった事も……」
ミツールが気難しい表情でフィリップの話を遮る。
「ダラダラ話さなくていいからっ!」
「はっ、はいっ! も、申し訳ございませんっ!」
フィリップは体を縮こまらせた。
俺もちょっと気になったので出来るだけ邪魔しない様に尋ねる。
「ごめん、ちょっとだけ教えて下さい。
フィリップさんってお年はいくつでしたっけ?」
「46になります!」
「あ、そう。
ありがと。
……いいよ、続けて」
俺より年上だ。
頭頂部も薄くて地肌が見えてるし、心なしか白髪も混じってるもんな。
ミツールは続ける。
「僕達はミルトン王国下水道のオオネズミ駆除のクエストを受けようと思ってて、その時の火力を求めてるんですよ。
ワスプさんには相手が多すぎるから火力が無いと押し切られて事故るリスクがあるって言われてるんでね」
「はいっ!
オオネズミに関してはもうすでにクエストにして10回以上駆除は経験しております!
奴らは体というか体毛が脂ぎっているので火属性魔法が良く効くんですよ。
単体ならファイヤボール2発も当てれば死にますし、大勢に襲われそうになっても私がファイヤーウォールを出してパーティーを守った事もあります!」
オオネズミなら中級ウィザードのファイヤブラストで10匹単位で丸焼き可能だ。
ミツールは考え込み、隣のエリックに意見を聞いた。
「うーん……。
エリック、どう思う?」
「そ、そうですねぇ……要求は満たしてるし、いいんじゃないですかねぇ」
エリックは人がいいから目の前のフィリップさんに気を使っているようだ。
「ダイヤは?」
「えと、これって臨時メンバー?」
「基本的にはずっと一緒のパーティーのつもりなんだけど」
「……若干不安かな」
「本当は若くて可愛い女の子とか、美人でグラマラスな魔法使いが良かったんだけどなぁ……」
「実際女性の冒険者自体がレアですからねぇ。
その上実力も伴ってるなんて……ダイヤさんみたいなのは本当に超例外ですよ」
フィリップさんは半分ニヤけ顔で立ち上がり、両手で自分の腰からスカートを伸ばすようなジェスチャーをした。
「よし、それではこの私が女装をして……」
「フィリップさん、今喋って下さいって僕言いました?
真剣な面接なんだからふざけないで下さいよっ!」
「もっ、申し訳ございません!
まことに申し訳ございませんでした!
反省致します!
もちろん、オオネズミ駆除クエストでも全力で魔法で戦わせて頂きます!
真剣にっ!」
見てて分かった。
普通に魔法を志す者ならば、そして普通に才能がある者なら46歳なら既に上位職に転職してるし、パーティーなりどこかの組織でそれなりの地位に就いている。
本人が望む、望まないに関わらず周りの人間が押し上げるからだ。
フィリップさんは確かに軽いクエスト等の経験は豊富だろう。
だが年が一回り以上下のミツールに対してペコペコ頭を下げる事に躊躇が無さすぎる。
それはフィリップさんのこれまでの人生を物語っている。
例え運の悪さとか、気質や何かほかの理由でフィリップさんと同じ境遇に立ったとしても、実力がある人間ならばこんなペコペコしない。
しなくても認められるからだ。
ミツールはさらに質問をした。
「フィリップさんってご結婚されてるんですか?」
「はい。
妻と子供が二人おります」
エリックが心配そうに尋ねる。
「大丈夫ですか?
冒険者って危険な仕事だから、下手すると死ぬ危険もあるんですよ?」
「それは皆さんも同じじゃないですかねぇ?
勿論私だって死にたくはありませんので、最大限そうならない様に努力致します」
ミツールは腕組みしてしばらく考え込んだ。
で、最終的に俺に聞いた。
「ルーサーさん、どう思います?」
「ミツールのパーティーだ。
俺がどう思おうが決めるのはミツールだろう?」
「僕としてはまぁいいんじゃないかなと思ってますが、やっぱりルーサーさんの意見も聞きたいです」
「完全に個人的な意見でいいのか?」
「はい」
俺は本当に個人的な意見を言わしてもらう事にした。
「冒険者ってのは大部分、10代後半から30代半ばばっかりだ。
冒険者ギルドの酒場でも一様にそういう年齢帯の顔ぶればかり。
年を取れば体も動かなくなったり、病気や故障を抱えたりするからな。
今ブイブイ言わせてる冒険者たちも皆、ある程度の年で冒険者を止めてマネージャー的な立ち位置を目指したり、独立したり、組織の人間管理に行こうと思っている奴らが大半だ」
「ふむふむ」
「だが俺はそれが気持ち悪い。
人間社会ってのは赤ん坊から老人まで存在するんだ。
年齢の偏った集団ってのがまず気持ち悪い、女にモテる為にイケメンの10代ばかりで構成されたパーティーを作って、へそ出しの服でトゲトゲに固めたり茶色に染めた髪の毛をして、身の丈に合わない大剣を振り回して、パーティー内で恋愛して、自分たちの世界に浸って見つめあって、青春している奴らなんぞヘドが出る。
おっさんがパーティーに居てもいいと思う。
それが世界の自然な姿なんだ。
おっさんが現役の危険な最前線に居る、それを許容する空気があるべきだ。
フィリップさんの危険で安全の保障の無い最前線を選ぶ勇気はある意味立派な才能だし、冒険者的にも社会的にも経験豊富でミツールのサポートにも適しているだろう。
俺なんかと違って結婚もしてるしな」
「だからルーサーさん、私と……」
「もちろんだがフィリップさん!」
「はいっ! 何でしょうか?」
「ミツールより年が上だからと言って、偉そうにしたりしてはいけないし、正当な叱責であれば真摯に受け止めて改善しなければならない。
そういう事をフィリップさんがしてしまうと、それは社会全体がおっさんを敬遠する空気を作ってしまうんだ。
年いった人を仲間に居れたら面倒くさいから断ろう……そう判断する奴が増える。
だからそういった事はしてはいけない」
「それは重々承知しております」
「それならばフィリップさんを『打倒アバドーン』パーティーに入れてもいいと思う。
以上。
これが俺の完全に個人的な意見だ」
ミツールは俺の言葉を聞いて、最後の後押しをされたような、決心がついた顔になった。
そして両手を組みながらフィリップさんに顔を向ける。
「マジシャンのフィリップさん。
採用」




