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魔法銃士ルーサー、バンシュ地方を去る

 カメリアは巨大なユニーク個体のエビルサーバル、ゴクスケに呼びかける。


「ゴクスケちゃん!

 貴方は他のエビルアニマル達とは違う生き物なのよ!?

 こうして私と会話が出来る程の高い知性が備わっている。

 それは他のエビルアニマルには無い貴方だけの特別な力。

 だからこそあなたは本当は群れの中でも孤独だったんでしょう?」

「エビルヘラジカもエビルオリックスも……皆俺の親友だったんだ!

 お前なんかに何が分かる!?」


「自分以外皆が自分とは違う生き物の中で、貴方は常に違和感を覚えながら生きて来たはずよ!?

 きっとそう!

 ほら、もう一回口を開けてごらんなさい」

「あぁん? まだダイコン持ってるのか?

 もっと寄越せ」


 ゴクスケは再び頭を下げてカメリアの前に口を開け、ベロを出す。

 カメリアは何かを背中に隠したまま言った。


「今度はそのまま目を閉じて味わうのよ!」

「さっさと寄越せよ」


「必要な事なの!」

「ちっ、面倒くせぇなぁ」


 ゴクスケは口を開けたまま目を閉じた。

 カメリアは背中から肉の塊を取り出し、ゴクスケのベロの上にポイッと放り投げる。


 モグ……モグ……ゴクリ


 肉を噛み、飲み込んだゴクスケは目を見開いた。


「う……うめぇ……。

 何? 何? 今の?

 何を食わせたの?」

「貴方が踏み潰したエビルヘラジカの飛び散った肉よ!」


「こっ、この鬼畜がぁぁああ――っ!」


 ゴクスケは背中を丸めて毛を逆立てて唸る。


「待って!

 でもビックリするくらい美味しかったでしょう?

 それは貴方が今まで自分の本能に逆らって生きて来たから。

 自然に逆らい、無理をして生きて来たというあかし

 それは貴方にとって不幸な事だったのよ!

 可哀相にゴクスケちゃん!

 でもお友達の事は残念だけどこれは運命なの!

 ここで真実に気が付くことが貴方の運命!

 そして私達とのこの出会いも運命!

 さぁ!

 私達と一緒に生きましょう!?

 これから先の未来を私達と共に!」

「だがお前らもどう見ても俺とは違うぞ!

 二本足で歩いてるし、頭にしか毛が生えて無くてダサいし、体のフォルムもゴリラっぽくて格好悪いぞ!」


「貴方達にはそう見えるのね?

 でも私達は出会ってすぐに貴方の本当の姿を目覚めさせ、貴方が何年も違和感としか感じられずに生きて来た謎の答えを示した!

 これから私達と共に歩めば知性の高いゴクスケちゃんにとってもハッピーで刺激的な未来が待っているわ!

 そうでしょう!?」

「……」


「いろんな所に連れて行ってあげるし、色んなものを見せてあげる。

 色んな料理を食べさせてあげるわ!

 世の中にはゴクスケちゃんの知らない食べ物がまだまだいっぱいあるのよ!?」

「……」


 ゴクスケの心は揺れていた。

 カメリアの言う通り、今まで違和感を感じながら生きて来たのは事実。

 そして親友と思っていたエビルヘラジカの肉の旨さが天地のひっくり返るような衝撃だった事も事実。

 さらにまともな意思疎通の出来る相手の存在を知ったことも衝撃であり、生まれて初めて本当の仲間に出会ったような気持ちがどこかに湧いていたのも事実である。


 ***


 カメリアが必死でゴクスケのテイミングを行っている間、俺は急いでピーネの方へ行って柵から出させていた。


「はっ! はっ! 最高よルーサーさん!

 ハンティング最高!

 え?

 終わりなの?

 え――、詰まんないの」

「群れのリーダーのエビルサーバルを除いて他のエビルアニマルは全滅している。

 それより急いで準備しないといけない物が有るんだ。

 人参、ピーマン、セロリがすぐに必要だ。

 あとできれば調理器具。

 どこかに無いか?

 ピーネ」


「それならすぐ近くの倉庫に蓄えてあります。

 調理器具もあったかも」

「急いで取りに行くぞ!

 後ろに乗れピーネ」


 俺はピーネを俺の後ろに載せて倉庫へとケルピーを走らせた。


 ***


 カメリアはゴクスケのテイミングをほぼ終えようとしていた。


「それじゃぁ、私達の仲間になってくれるのね?」

「うん……まぁ……、そういうのもいいかなぁとは思ってる」


「それじゃぁ最後の神聖な儀式を行います!」

「儀式?」


「私達と動物達がお友達になる為に、神聖な最後の儀式!」


 カメリアはたすき掛けにしていたカバンからもう一本ダイコンを取り出した。

 そしてそれをゴクスケの方へと差し出す。


「ゴクスケちゃん、このダイコンをお食べ!」


 ゴクスケは頭を下げてベロを出し、カメリアの手から直接ダイコンを咥え取って食べた。


 ポリポリ……


「いいこ……、いいこ……」


 カメリアはゴクスケの鼻先を撫でる。

 ゴクスケは頬を少し赤らめながら無言でダイコンをかみ砕いていた。

 そこへ俺がケルピーで駆け付ける。

 後ろには野菜や機材の詰まった籠を背負ったピーネを載せて。


「カメリア! どうだ?」

「ルーサーさん、上手く行ったみたいです。

 もうゴクスケちゃんは私達の仲間になりました!」


「それは良かった!」


 俺はカメリアの隣でケルピーを止めると下に降り、カメリアに小声でヒソヒソ話をする。

 それが終わるとカメリアはゴクスケの方を向き直った。


「ゴクスケちゃん!

 ゴクスケちゃんが私達の仲間になった記念に、お祝いとしてとっても美味しい料理を今から作るわ!

 大人しくそこで待っててね。

 ほら、お座り」


 ゴクスケはお座りして俺達を見守る。

 俺達はピーネの畑の上に石のブロックを積み上げて金網をしき、まきをくべて燃やし、簡易の調理場を作成する。

 ピーネが調味料の入った瓶類を並べたり、炎の調整をしている間、隣に組み上げた簡易の机でカメリアが人参、セロリ、ピーマンを包丁で刻む。


 ジャ――、シュバッ、シュバッ


 ピーネがフライパンに食材を入れて火にかけ、慣れた手つきでフライパンを振ったり中身を箸でかきまわす。

 最後に火の通った食材がボウルに入れられて各種調味料がかけられ、混ぜられる。

 そしてテーブルの上の大皿に盛りつけられた。

 ピーネとカメリアがハイタッチする。


「出来上がり!」

「出来上がり!」


 俺は感心して盛られた料理を見る。


「旨そうじゃねぇか。

 何だこれは?」

「人参とピーマンとセロリのキンピラ炒めです」


「そうか、ちょっと頂いても?」

「どうぞ」


 俺は小皿を手に取り、料理を取って食べる。


「うめぇ、これはうめぇぞ!」


 カメリアが大きめの皿に料理を取り、ゴクスケの方へ差し出す。


「ほら、ゴクスケちゃんも食べて」


 ゴクスケは用心深く鼻先をその料理に近づけて臭いを嗅いだ。


 クンクン……


「うぇぇ、ちょ、ちょっとパスかなぁ」

「ゴクスケ、いいから食べて見ろって。

 マジでうめぇから」


 ゴクスケは恐る恐る舌先を料理に当てた。


「あっ、駄目だこれ。俺はこれ駄目だわ」


 ピーネが小皿に自分の分を取り、食べる。


「美味しーい! 大成功よこれカメリアちゃん!」


 カメリアはゴクスケに差し出した皿を地面に置いて、自分も小皿にとって食べる。


「美味しーい! 大成功ね!

 ピーネちゃんが一生懸命火を調整したり材料用意してくれたから!」

「カメリアちゃんの切り方が絶妙なのよ!」

「二人共料理上手いんだな。

 これおたゑちゃんの料理に匹敵する旨さだぞ」


 【ゴクスケの所属する現在の仲間パーティー

 1:ルーサー

 2:ピーネ

 3:カメリア

 4:ゴクスケ


 【ゴクスケの所属する現在の仲間パーティーの空気】

 ルーサー、ピーネ、カメリア:超美味しい!

 ゴクスケ:いや、これはちょっと、なんか俺に合わないというか苦手なものばっかで……


 美味しい(3) vs  いや、ちょっと(1)


 :

 :

 :


 ゴクスケは料理にパクついた。


「いや、良く味わってみればコレ美味いなぁ……モグモグ」

「そうでしょう?」

「美味しいよねー」

「食わず嫌いだったんだな」


 バックバック、クッチャクッチャ


 ゴクスケは嫌いな人参とピーマンとセロリを食いまくった。

 そして体格がグングンと縮み、3割ダウン+3割ダウン+3割ダウン=9割ダウン=元の10分の1。

 つまり元のサイズにまで戻っていた。

 勿論それに比例してパワーもダウンしている。


 ゴトッ、……カチャリ


 俺は小皿を置いて立ち上がり、エイジドラブをホルスターから抜いて撃鉄を下げる。


「よし、じゃぁ止めといくか」

「待ってください!」


 銃口をゴクスケに向けようとするとカメリアが両手を広げて立ちはだかった。


「待って下さいルーサーさん。

 ゴクスケちゃんはもう私のペットなんです!

 殺さないであげて下さい」

「だがそいつは結局のところエビルサーバルなんだぞ?」


「いえ、私達の仲間になりました。

 もう大丈夫です!」

「……」


 俺はしばらく考え、銃をホルスターに収めた。


「俺はテイマーじゃないから分からないが、テイマーのカメリアがそう言うんなら信じよう。

 ゴクスケ。

 ピーネとカメリアは今日からお前の大切な仲間なんだ。

 決して危害を加えたり、迷惑をかけて困らせるんじゃないぞ」

「俺は超仲間思いなんだから無用な心配だ」


 ユニーク個体の性質は、その個体の本性が現れると聞く。


「ふっ、そうかもな。

 で、見たところピーネの畑の魔導起爆壺は全て片付いた様だし、カメリアの畑も無事カメリアの元へ戻った。

 一件落着だな」


 ***


 その夜、晩御飯もご馳走になり、農具倉庫でゴクスケと一緒に泊った。

 翌朝、クエストを終えて旅立つ俺を二人と一匹が見送る。


「ありがとうございました、ルーサーさん。

 これで地方一の野菜の産地の名を取り戻す事が出来そうです。

 しばらくは畑の状態を戻すのに忙しくなりそうですが、落ち着いたら取れた野菜をもってルーサーさんの所に遊びに行っても宜しいでしょうか?」

「え? まぁ、構わないぜ」


「そういえばルーサーさんも小さな畑を作ってるとおっしゃってましたね?」

「そうなんだよ。そろそろ様子見に行かないとなぁ」


「ではこれを」


 カメリアが小さな袋を俺に手渡した。


「ピクシー・カタクリの種です。

 成長すると黄金色の花を咲かせて、妖精がダンスするようにゆっくりと首を振り続けます。

 そして周囲の小さな範囲の野菜の成長促進する魔法の力を発生させます」

「そうか、有難く頂くよ」


 その後、何故かピーネが顔を赤くしながらカメリアの頭に軽くチョップしていた。


「それじゃぁまたな!

 ゴクスケ、お前ちゃんと二人と畑守るんだぞ!」

「さようなら」

「さようなら」

「いわれずとも……だ」

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