終わり
その時間は、本を読んでいるときよりも本の中のような時間で、本当に物語のヒロインにでもなれたようだった。
もちろん、本当のことなんて口にはできない。
ただただ、他愛もない話をして、くだらないことを言い合って、普通のことで笑っていた。
それは、同僚と過ごす同じ時間とは全くの別物で、普通のことがこんなにも楽しいことだと初めて知ることができた。
この時間がずっと続けばいいのに、どこまでもこの道が続いていればいいのに、今日という日が終わらなければいいのに。
その日から、私はまた物語に入ることができるようになった。そして、またたまに、自分がヒロインになれる時間を得ることができた。
今までよりも、一日一日がはやくて、その日はまた格段とすぎるのが早くて、ジェットコースターで過ごしているような日々だった。
ただ、ずっとこんな日々が続けばいい、それだけを願っていた。
だけど、その唯一の願いだけは叶うことがなかった。
ある日、店長がお店にいなかった。
今日は、“例の日”ではないのに。
お店も開いていなかった。定休日じゃないのに。
“臨時休業”
そこからは重くよどんだ日々が流れた。
はやく、行かなくちゃ。今日こそはきっと開いてるはず。
最近はよく見ていたあの猫も姿を消していた。
私は、一週間毎日お店に通い続けた。
来る日も来る日も“臨時休業”
今日も、急いでお店に向かって走っていた。
お店の前に人影が見えた。
てんちょ・・・
あの従業員だった。
あ、すみません、今日は臨時休業なんです。
知ってますよ、張り紙を見てから私毎日来てたんです。
そうだったんですか、申し訳ないです。
なにかあったんですか?
…実は、とてもいいにくいんですが。この店閉めることになったんですよ。
ええ?!どうしてですか
店長が・・・・・・・・・
そこからは、二人とも号泣していた。
泣いて泣いて言葉になっていなかった。
だけど、二人とも通じていた。
二人とも大好きだった、あの人が。
すました顔をして、頭の中では子供のようなことを考えていたあの人が、いつも絶妙なタイミングでコーヒーをいれてくれるあの人が、奥さんだけを想っていたあの人が。
いまさら、こんなことをするなんて思ってなかった。
でも、聞く話によるとずっと前から話していたらしい。
いつかは、そうなってしまうと思うと。
だけど、冗談半分で聞き流していた、それが現実となったら耐えられないから。
気持ちはよくわかった。
私がそんな話を聞いていたら、きっと、普段から泣きながら話していたと思う。
もしかしたら、会えるのは今日で最後かもしれない。
むしろ、そのタイミングを知りたかった。
今日が最後だと、思う日を作りたかった。その時間をかみしめたかった。
なぜ、何も言わずに行ってしまったんだ。
今日だって、二人でお散歩する予定だったじゃない。
おすすめの本があるから紹介するねって言ってたじゃない。
なんで、今なの。
なんで、出会ってからなの。
こんなことになるなら、あなたとなんて出会わなければよかった。
出会いたくなんかなかった。
そう心の中で、人生最大の嘘をついた。
今日は猫が日向ぼっこしているような気持ちの良い天気。
本屋の前で大の大人二人が抱き合って泣いているのなんて、誰も想像できないような、晴れ渡った空だった。
とにかく一作品書き上げたくて、衝動的に書き上げました。




