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隣町の古本屋  作者: sima
5/5

終わり


その時間は、本を読んでいるときよりも本の中のような時間で、本当に物語のヒロインにでもなれたようだった。

もちろん、本当のことなんて口にはできない。

ただただ、他愛もない話をして、くだらないことを言い合って、普通のことで笑っていた。

それは、同僚と過ごす同じ時間とは全くの別物で、普通のことがこんなにも楽しいことだと初めて知ることができた。

この時間がずっと続けばいいのに、どこまでもこの道が続いていればいいのに、今日という日が終わらなければいいのに。


その日から、私はまた物語に入ることができるようになった。そして、またたまに、自分がヒロインになれる時間を得ることができた。

今までよりも、一日一日がはやくて、その日はまた格段とすぎるのが早くて、ジェットコースターで過ごしているような日々だった。



ただ、ずっとこんな日々が続けばいい、それだけを願っていた。

だけど、その唯一の願いだけは叶うことがなかった。

ある日、店長がお店にいなかった。

今日は、“例の日”ではないのに。

お店も開いていなかった。定休日じゃないのに。


“臨時休業”


そこからは重くよどんだ日々が流れた。

はやく、行かなくちゃ。今日こそはきっと開いてるはず。

最近はよく見ていたあの猫も姿を消していた。

私は、一週間毎日お店に通い続けた。

来る日も来る日も“臨時休業”

今日も、急いでお店に向かって走っていた。

お店の前に人影が見えた。


てんちょ・・・


あの従業員だった。


あ、すみません、今日は臨時休業なんです。

知ってますよ、張り紙を見てから私毎日来てたんです。

そうだったんですか、申し訳ないです。

なにかあったんですか?

…実は、とてもいいにくいんですが。この店閉めることになったんですよ。

ええ?!どうしてですか

店長が・・・・・・・・・


そこからは、二人とも号泣していた。

泣いて泣いて言葉になっていなかった。

だけど、二人とも通じていた。

二人とも大好きだった、あの人が。

すました顔をして、頭の中では子供のようなことを考えていたあの人が、いつも絶妙なタイミングでコーヒーをいれてくれるあの人が、奥さんだけを想っていたあの人が。

いまさら、こんなことをするなんて思ってなかった。

でも、聞く話によるとずっと前から話していたらしい。

いつかは、そうなってしまうと思うと。

だけど、冗談半分で聞き流していた、それが現実となったら耐えられないから。

気持ちはよくわかった。

私がそんな話を聞いていたら、きっと、普段から泣きながら話していたと思う。

もしかしたら、会えるのは今日で最後かもしれない。

むしろ、そのタイミングを知りたかった。

今日が最後だと、思う日を作りたかった。その時間をかみしめたかった。

なぜ、何も言わずに行ってしまったんだ。

今日だって、二人でお散歩する予定だったじゃない。

おすすめの本があるから紹介するねって言ってたじゃない。

なんで、今なの。

なんで、出会ってからなの。

こんなことになるなら、あなたとなんて出会わなければよかった。

出会いたくなんかなかった。

そう心の中で、人生最大の嘘をついた。




今日は猫が日向ぼっこしているような気持ちの良い天気。

本屋の前で大の大人二人が抱き合って泣いているのなんて、誰も想像できないような、晴れ渡った空だった。


とにかく一作品書き上げたくて、衝動的に書き上げました。

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