二ー弐話・・・・・護衛の仕事
…僕達は王都を目指して出発した。一行の人数は三十人、六台の馬車に分かれている。護衛役の傭兵は、僕を含めて六人で警戒をしている。出発前に、皆にバータックさんから僕の事を紹介してくれた。
「皆も昨日の騒ぎは知っていると思うが、こちらのサークさんが私の娘達を助けてくれた。なかなかの腕前だと聞いたので、王都までの護衛に参加してもらった。短い間だが宜しく頼む。」
バータックさんは僕に目配せをし、一言話すように促した。
「僕はサークと言います。成り行きで引き受けましたが、引き受けた以上全力で頑張ります。」
続いて、バータックさんから護衛役のリーダーのオリオンに紹介された。
「オリオン殿、新たな護衛役を勝手に雇ったが、宜しくお願いする。」
「サークです。邪魔はしない様に気をつけます。宜しくお願いします。」
「バータックさんが雇い主ですから、構いません。これで報酬が減ってしまったら、問題ですが。」
「それはもちろん。契約通り、お支払いをする。」
「なら、問題はありません。むしろ護衛役が増えて楽が出来ます。」
そう言って、オリオンは笑い声を上げた。そうして、オリオンは僕の前に手を出し、握手を求めてきた。
「宜しく。」
僕はオリオンの手を握り返した。その時、オリオンは僕を試すように関節を極めようとしたが、僕は平然と受け流した。
「いきなりの挨拶ですね。」
「すまん、すまん。少し試させてもらった。うん、足手纏いにはならない様だな。君も戦力として考えるから、得意な武器、魔法を教えてくるかな?」
「剣術と体術の心得は有ります。魔法は使えません。」
「なら、前衛が基本だな。王都までだが、俺達のパーティーの指示に従ってもらう。」
「ええ、わかりました。」
「よし! パーティーメンバーを紹介しておく。こっちへ。」
僕はオリオンに連れられて、メンバーの紹介を受けた。出発後、各馬車に一人づつ護衛に付いた。各傭兵はそれぞれ馬に乗っているが、僕はバータックさん達の馬車に乗せて貰っている。僕は徒歩で王都を目指していたが、護衛の名目で馬車に乗れたので、バータックさんにお礼を言った。
「バータックさん、有難う御座います。王都まで徒歩での旅を考えていたので助かります。」
「いえいえ、娘達の受けて恩に比べれば大した事無いです。こちらが御礼をする立場なのに、逆に護衛をして頂くことになって、すみません。」
僕は荷台の中に居るリリア達にも話しかけた。
「王都まで一緒に馬車に乗るけど、我慢してね。」
「そんな事は無いです。逆に一緒に居れて、すごく嬉しいですッ…!」
リリアは直ぐ返事をしたが、最後の台詞を言って、頬を染めて下向きに俯いた。
「嫌じゃないから…」
アイシャはやはりリリアに隠れながら、返事をくれた。
「昨日、あの男に怖い目に合わされたから、男の人が嫌いになったのかな?」
アイシャは僕をまともに見てくれないから、少し落ち込んだ。
「いや、そうじゃないよ。アイシャはもともと顔見知りな性格だが、あれは嫌っているというより、むしろ恥ずかしがっているんだよ。」
バータックさんが慰めてくれた。そんな会話をしながら、馬車は森の中へと進んでいく。森のかなり深いところまで進むと、バータックさんは馬車を止めるように指示を出し、
「皆、この辺りで昼食の為の休憩をとろう!」
バータックさんは昼食の準備を始め、料理が出来るまで待つ様に言ってきた。
「サークさん、私が昼食を作るので出来るまで、子供達を見ていてくれませんか?」
「ええ、分かりました。リリア、アイシャ、他の子たちのところに行こう!」
僕はリリア達と一緒に、他の馬車に乗っていた子供達と合流し、面倒を見ている。子供達の人数は全員で十一人で、リリアが最年長で面倒を見ている。僕はそれを離れたところから、見ている。子供達は、追いかけっこらしき遊びをしていて、楽しんでいる。少しして、子供達の人数が少なくなった事に気が付いた。
「リリア、ちょっといい?」
リリアに声をかけて、子供達の行方を聞いた。
「十二歳ぐらいと十歳ぐらいの男の子達がいないけど、何処に行ったか知っている?」
「え! ロロア達は皆と、追いかけっこしていた筈ですが?」
リリアは追いかけっこしているメンバーを見て慌てだした。
「い・いなくなっている。私、探してきます。」
僕はそんなリリアを止めて、
「僕が探してくるから、子供達をつれてバータックさんに伝えてきて。」
「はい! 皆集まって!」
リリアは子供達と一緒に、バータックさんの元へといった。僕は森の中へと分け入って、ロロア達を探し始めた。
「おーい! ロロアー! 何処に行ったー! 出ておいでー!」
森の中で大声で呼びかけているが、何の返事も無い。暫くして、馬車の方角から
ガッオォォォォォォォォォ
雷の様な天を裂く、咆哮が響き渡った。僕はその畏怖さえ抱く咆哮を聞き、すぐさま馬車へと駆け出した。
ピッカッ!!!
馬車の方角が光に包まれた。
ドッゴォォォォォォン!
直後に響く爆音!
僕が、馬車に着いた時には、地獄絵図となった光景が広がっていた。馬車が留めていた広場には、爆発で出来た大小様々なクレーターが無数にあり、馬車は殆どが原型を留めていないほど大破していた。周りには赤く血の付いた、肉片らしき物が散乱していた。その中心に二体の、大型の獣がいた。その獣は体長が三メートルをゆうに超える大虎で、白く輝く体毛に怒りの雷を纏っている。
その姿は神々しく、感動とそれ以上の畏怖を与える。
「…ライオウ!」
僕は、その名を呟いた。
雷神の落とし子・大陸の覇者・獣の王などの別名を持つ高ランクの幻獣であり、間違っても個人で対峙するレベルではない。一体でも国の軍が必要であり、それでも返り討ちにあう可能性がある。
「何故こんなところに…」
「サークさん!」
僕を呼ぶ声がし、振り返った。リリア達はオリオン達に守られ、無事だったみたいだ。
「リリア、無事だったかい?」
僕は皆がいる方へ、向かい合流した。生き残ったのは大人が三人、子供が四人、それとオリオンのパーティーが三人だった。皆は大小様々な傷を負っているが、命の危険性は無いようだ。アイシャは気を失って、バータックに抱かれている。僕はオリオンに状況を尋ねた。
「何故ライオウと戦いになっているのですか?」
オリオン達も、負った傷を癒しの魔法で治療している。
「わからん! 突然の咆哮と同時に雷が降り注いできた。咄嗟に防御魔法を張ったが、雷の衝撃を防ぐだけで精一杯だった。直撃を食らった奴は、防御をしてもしなくっても、黒焦げのバラバラだ。」
オリオンは悔しそうに言ってきた。
「その後に、奴ら飛び込んできて俺らを、紙切れ同然に薙ぎ払っていった。」
「…原因がわからないと戦うしかないか。」
僕は覚悟を決めた。
ライオウの放電現象は怒りの象徴であり、辺りの動く者全てを破壊尽くすまで収まらない。
「無理だ。逃げるぞ!」
オリオンの判断は間違っていない。ライオウを相手するぐらいなら、一騎当千を体現する方が現実的である。しかし、僕はこの状況で皆が逃げ切るのは無理だと判断した。
「そうですね。逃げましょう! しかし皆が逃げる為に、時間を稼ぐ必要があります。…僕が稼いできます。」
「しかし…」
オリオンの言葉を遮って、僕は喋った。
「このままじゃ、全滅します。一人でも多く助ける為です。」
オリオンは少し考えて、覚悟を決めた顔になった。
「わかった。しかし、相手は二体だ。俺がもう一体は受け持つ。セイ、ルイーズは皆を守って逃げろ!」
セイとルイーズは顔を見合わせて、頷き合った。そしてセイはオリオンに言い放った。
「俺達はパーティーだろ、一緒に戦うぞ。」
「そうよ。ここで逃げても貴方達がやられたら最後、追い着かれて全滅よ。サークが言った様に、一人でも多くの人を逃がすには、少しでも時間を稼いで遠くに逃げる事だけよ。」
ルイーズも戦う覚悟を決めていた。僕はオリオンに
「いいメンバーですね。」
「ああ、最高のメンバーだ。たまにリーダーの命令を聞かないがな。セイはサークと組んで右をやれ。ルイーズは俺と組んで左をやる。」
「なるほど。じゃ、僕もリーダーの命令を無視させて貰います。」
「なに?」
「セイさんはオリオンさん達と三人で左をお願いします。右は僕一人で相手します。」
「無茶だ!」
「慣れない人と組んでも、連携どころか邪魔し合って、動きが鈍くなります。それなら一人の方が動きやすいです。」
「ライオウが一体なら、時間を稼ぐ自信が有ります。」
僕はこんな時だからこそ、自信ありげに笑顔で返した。
オリオンは僕の自信ありげな笑顔をみて、信頼してくれた。
「サーク、そんな大口を叩いたんだから、途中で泣き言を言うなよ!」
僕はバータックさんの方を向き、
「という事で、僕達は時間を稼いできます。その間に出来るだけ遠くに逃げて下さい。」
「すまない。サークさん私が護衛に誘ったばかりに、こんな目に合わせてしまって。」
「気にしないで下さい。最初に言った様に全力やります。」
僕は泣き顔になっているリリアにも声をかけた。
「リリア今は辛いけど、全力で走って逃げるように。悲しむのは後から出来るからね。」
頭を撫でながら、諭すような口調で。それを見ていたオリオンは、準備完了とばかりに
「いくぞ!」
気合いを入れてライオウの方へ向いた。
「じゃ、行ってくるよ。」
僕も残されたリリア達に、言葉を告げた。
ライオウ達も僕達の事を捕捉していたみたいで、こちらを威嚇している。
「僕が最初に突っ込んで、右のライオウを引き離します。その後で左のライオウをお願いします。」
「待て、サーク! そんな事をしたら雷の餌食だぞ。お前、魔法が使えない言っていたのに丸裸で突っ込む気か?」
「オリオンさん、それについては考えがあります。見ていて下さい。」
そう言うと、僕はライオウ達に向かって駆け出した。
シュンッ
◆ ◇ ◆ ◇
オリオンは自分の目で見たのが、いや見れなかったのが信じられなかった。今まで色んな戦士、魔物と戦ってきたが、目の前で消える奴なんていなかった。しかし、サークは目の前で消えた様なスピードでライオウに向かっていった。
「なんて奴だ。実力を見誤っていた。」
セイも驚きを隠せないようだ。
「あいつ、凄いな! 一人でやるって言ったのも、口だけじゃないな。」
ルイーズは魔法を感知できなかった事に驚いていた。
「あの子、一切魔法を使ってない? 身体能力だけであの動き!!」
◆ ◇ ◆ ◇
ガッキンーーーー!
僕は頭部を狙った横薙ぎの斬撃は、爪によって防がれた。しかし、そのまま力を込め
「とりゃーーーーーー!」
ライオウの巨体を吹き飛ばした。
「今です。もう一体をお願いします。」
「ああ! まかせろ。」
オリオン達はもう一体のライオウと対峙していた。




