第十二話
床に敷き詰められた園芸ネットに絡まり、二十キログラムの堆肥の袋に押し潰された悪党たち。彼らがなおも負け惜しみの罵倒(不適切な発言)を繰り返す中、私の横でマイクを握ったクレーマー主婦の佐藤さんの目が、怪しくキランと輝きました。
彼女は深く息を吸い込むと、ホームセンター内、および駐車場の全域に設置された、最大出力の『業務用大音量スピーカー』に向けて、地獄の広域音響兵器(爆音クレーム愚連砲)をぶちかましました。
『ちょっとおおおお! そこのモヒカン!! あなたたち、何時だと思ってるのよ! 今は神聖な夕方のサウナタイム(お風呂)なのよ! 近所迷惑っていう言葉を知らないの!?』
――ズゴゴゴゴゴゴ……!
メガモールの巨大な壁面スピーカーから、駐車場がビリビリと震えるほどの爆音説教が響き渡りました。堆肥の下で身動きが取れない悪党たちは、至近距離から脳を直接揺さぶられるような大音量に、耳を押さえて悲鳴を上げます。
『だいたいその改造車は何なのよ! マフラーの音がうるさすぎるのよ! 不正改造車で公道を走るなんて、道路交通法違反よ! 親の顔が見てみたいわ! 服のセンスも最悪、そんなんだから略奪なんていう底辺みたいな仕事しかできないのよ!』
『う、うるせええ! 何なんだこのおばさんはぁ!』
『耳が、耳が死ぬ! 頼むからマイクを切ってくれぇ!!』
世紀末の略奪者たちは、理不尽なまでの超正論でキレ散らかす本物のクレーマーの精神攻撃(サイバー攻撃)には、一切の免疫(耐性)がありません。佐藤さんの説教は息を継ぎ暇もなく、怒涛のマシントークで悪党たちの人格をズタズタに否定(論破)していきます。
しかし。この爆音クレームの副作用として、別の問題が発生しました。
「み、水瀬さん、ヤバいよ! おばさんの大声に引き寄せられて、外から徘徊ゾンビたちがホイホイ集まってきちゃった!」
純君がモニターを指差して悲鳴を上げます。周辺のゾンビ数十体が、駐車場のフェンスを越えてワラワラと侵入してきました。
「……いいえ、純君。これはバグではなく、極めて効率的な追加仕様です」
私はおっとりと微笑み、コントロールデスクのレバーを引きました。おばさんの大声に釣られて、直線的な行動パターン(アルゴリズム)で正面ゲートへ突撃してくるゾンビたち。しかし、彼らが悪党たちのすぐ横の通路を通り抜けようとした瞬間、カチリと自動防衛システムが作動します。
――ピン! ピン! ピン!
無音の自動ワイヤートラップが次々と跳ね上がり、ゾンビたちは面白いようにバタバタと転がり、床のネットに絡まって芋虫状態(フリーズ画面)になっていきました。
「おばさんが大声で敵を論破すればするほど、外のゾンビ(無料の労働資源)が自動的に集客(自動回収)されていく……。素晴らしいリサイクル構造(永久機関)の完成です!」
「お嬢ちゃん、おばさんのクレームをゾンビホイホイの呼び水にしちまうなんて、とんでもねえ発想だな……!」
金物さんが震えながら爆笑しています。
それから、じつに二時間。駐車場に響き渡る佐藤さんの怒号。その横で、自動トラップによって淡々と無力化され、店長たちのフォークリフトで『立体駐車場のスロープコンベア』へと一括ダウンロード(一網打尽)されていくゾンビたち。我が要塞の電力供給(自家発電)は、見る見るうちに200パーセントへと跳ね上がっていきました。
そして、午後七時。二時間の爆音説教を浴びせ続けられた悪党のリーダーは、ついにボロボロと涙を流し始めました。
『す、すみませんでした……。僕たちのマフラーがうるさくて、ゴミを散らかして……本当に申し訳ありませんでした……だからもう、そのスピーカーを止めてください……ううっ』
暴力で世界を支配しようとした略奪者たちの精神は、クレーマーおばさんという最凶の防衛ソフト(セキュリティ)によって、完全に崩壊(デバッグ完了)したのでした。
「ふん、少しは反省したかしら!」
マイクを置いて満足そうに胸を張る佐藤さん。私は彼女に、冷たく冷えた高級缶コーヒーを手渡しました。
「素晴らしい大声による広域破壊(セキュリティ処理)でした、佐藤さん。敵の精神システムを直接破壊する、見事な防衛担当の誕生です。これより、あなたを下請けから『身内の特権アカウント(正社員)』へと昇格いたします」
「あら、正社員!? ふん、当然よ、私を誰だと思ってるの!」
こうして、外部からの不法侵入は、実害ゼロどころか、要塞の電力を爆上げし、おばさんを最強の味方に変えるという完璧なリソース活用(大勝利)で幕を閉じたのでした。
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