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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき


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68話 聖女の意地と死への恐怖

広場に設けられた会談席に第二王子と聖女を案内する。


テントの天幕を全てあげ、周囲からその様子が見れるようになっていた。


第二王子と聖女は周囲を気にする事なく、さっさと座った。

エルランドとフィーナが呆れた表情を浮かべながら席に座る。


エリアナから見た第二王子の顔立ちはダリル殿下の優しげで太陽のような雰囲気とは違い、神経質で気難しさが表情に出ている。

威厳ではなく、我儘な王族として相応しくない雰囲気を纏っている。



エルランドの背後にはアードが控えた。


大きな円卓にはまだ席が数席空いていた。

そこに人集りの中からダリル殿下が現れた。


フィーナの隣にダリル殿下が座ると側近達は背後に控える。

第二王子はダリル殿下に視線を向けるが、鼻で笑うかのように見下した態度を見せた。


全員の前に紅茶が出されたのを確認したエルランドが口を開こうとしたその時。


「聖女様よりお花を置いてほしいとの要望があり、卓の中央に飾っても宜しいでしょうか」


第二王子側から出て来た騎士が花瓶に入れられた花を差し出した。


アードがエルランドの背中を2回叩いた。


「殺風景よりも良いだろう。許可する」


エルランドが許可を出すと、騎士は花瓶を中央に置き下がった。

花瓶に何かしらの仕掛けがあるのだろう。

事情を知る者はそう察した。


アードが魔力発動を感知しエルランドの背に合図をした。


「私はスヴァルト王国の冒険者ギルドマスターのエルランド。このスタンピードの総責任者となっている。ダリル殿下がアルーン国の総指揮をとられているが、第二王子と聖女は何用で来られたのでしょう」


エルランドは「お前に用はない」と、暗に告げる。


「エルランド殿。初めてお目にかかります。私はアルーン国の第二王子ファルナ。こちらが聖女のレーニア。我が兄の助力になればと、聖女を連れ参った次第です」


エルランドは眉をあげ、「ほぉー」

と尊大な態度で第二王子ファルナに視線を向けた。


ファルナは不躾な態度をされ腹の中は苛ついていたが、相手は他国のギルドマスターであり現役のSSランクの冒険者。

第二王子の立場であろうとエルランドの態度に不敬だと声を出せない。


「助力とは何をもって言っているのですか?第二王子の魔力はこの駐屯地にいる冒険者より遥かに少ない。その聖女と呼ばれる者はもっと少ない。

助けにもならない魔力持ちは迷惑でしかないのだが?」


エルランドはハッキリとファルナとレーニアを役立たずだと言い切る。

広場は一瞬で沈黙となった。


「失礼ですわ!私は聖女ですのよっ!」


発言も許されていないレーニアだが、自身を馬鹿にされ我慢ならず声をあげた。


エルランドはレーニアを一切見ない。

声をかけたのはファルナにのみ。

レーニアには声をかけていない。


「ちょっと!無視する気?私はアルーン国の聖女なのよ!黒竜を鎮める為に来たのよ!」


レーニアがそう叫んだと同時にファルナの手がレーニアの口元に伸ばされたが、遅かった……。

間に合わなかったファルナは顔色を悪くする。


「黒竜がいると?聖女はそう仰っしゃるのですね」


「そうよ!黒竜がスタンピードの原っ……」


レーニアの口をファルナが押さえたが遅い。


「スタンピードの原因が黒竜だと何故知っているのです?我々は対峙して初めて知ったのですよ?遠く離れた王都で知るはずもないのでは?」


エルランドの言葉にレーニアは口を押さえられながら顔を青ざめさせる。


勿論、エルランドや森の奥に討伐に向かった高ランクには黒竜の話は伝えてある。

だが、エリアナからもたらされた黒竜の話は限られた者にしか伝えていない。

話がこちら側から漏れる事はあり得ない。


「聖女の魔力では、黒竜の浄化など無理でしょう」


エルランドが言い切るが。


「私は浄化も癒しも出来ますわ!」


レーニアはファルナの手を剥がし、そう言い放つ。


「そうですか。でも、スタンピードは鎮圧されましたし、黒竜の浄化も終えています。ですので、貴方がたの助力は必要ではありません」


エルランドは淡々と告げると、紅茶を口にした。


「「はぁー?」」


ファルナとレーニアは驚愕の眼差しでエルランドを見つめる。

黒竜にはめられた魔道具は鍵がない限り解除出来ないはず。


「嘘よ」


レーニアがエルランドを睨みながら、そう口にした。


「なぜ嘘だと?現に森は鎮まってますよ。スタンピードは昨日鎮圧しましたので」


さらりと告げられ、ファルナとレーニアは固まってしまった。


「う、嘘よ。そんなに簡単に鎮圧されるわけないじゃない!浄化出来る人はいないでしょう!」


「なぜ出来ないと言い切れるのです?世間には報告されていないスキル持ちや加護持ちは沢山います。王族や教会が知らないだけですよ?冒険者ギルドが守っていますから。聖女がいなくとも、我がスヴァルト王国はスタンピードを幾つも鎮圧していますからね。荒れた土地の浄化も冒険者が行っていますし、貴方の言い分は何もかもがおかしいのですよ?」


エルランドは完全にファルナとレーニアを馬鹿にしている。

煽っているのが解る。


「違う!違うわ!私以外が黒竜を沈める事は出来ないのよ!」


席から立ち上がり、肩で息をしながら大声で叫んだ。


「証拠を見せなさいよ!黒竜を討伐した証拠を見せなさいよっ!」


レーニアはバンっとテーブルを叩き、エルランドに詰め寄る。


「証拠ですか?討伐はしていないので、黒竜の魔石もありません。そうなると、証明は難しいですね。

あ、聖女が黒竜を浄化出来ないのは事実なので、スタンピードが鎮圧された結果だけ見れば良いのでは?アルーン国の領土を守った事に変わりはないのですからね」


「何度も何度も……。私は浄化出来ると言っているでしょう?馬鹿にするのもいい加減にしなさいよね!」


エルランドは大きくため息を吐き、フィーナに視線を向ける。


「スタンピードが鎮圧された事が不服ですか?聖女様の浄化の力を下に見られて不愉快ですか?ならば、聖女様の浄化の素晴らしさを皆に見て頂いた方が良いですね。きっと聖女様の浄化の素晴らしさを認めて下さります」


フィーナは話しながらも冒険者達に指示を出していた。


「では行きましょう」


有無を言う暇も与えず、ファルナとレーニアを置いて全員が席を立ち何処かに向かう。

出遅れたファルナとレーニアは急いで後を追った。

全員が向かった広場の地面には大きな魔術紋が描かれていた。


「結界紋です。スタンピードに参加した冒険者達は回収した黒い魔石を全てこの紋の上に置いて下さい。聖女様が浄化をして下さり、もとの魔石にして下さります」


フィーナが周囲に大声で告げる。

冒険者達は自身の魔石回収袋を紋の上に置き、浄化を見届けようと周囲を囲い始めた。


「これは黒竜の魔力に侵され黒くなった魔石です。このままでは買い取りが出来ず、冒険者達が困ってしまいます。

聖女様の浄化の力で元の魔石に戻して下さい」


フィーナは一礼し、後ろに下がった。


ファルナとレーニアは山のように積まれた袋を見て困惑し始めた。


「レーニア。このくらい出来るよな?」


「で、出来ますわ……」


ファルナの問いかけに先程までの威勢の良さはどこへやら……。

魔石の側にゆっくり近付き、レーニアは手をかざした。


淡い光が魔術紋へと流れ、小さく輝いた。


「浄化は終わりですか?」


フィーナがレーニアに確認をとる。


「浄化は終わったわ……」


少ない魔力を放出したレーニアは顔色が悪い。


「浄化を終えられたようだ。各自魔石を確認し、聖女様にお礼を」


フィーナの言葉に冒険者達は自身の魔石回収袋を拾っていく。


「おい……」

「え?浄化出来てないぞ」

「黒い魔石のままじゃねぇか」

「あ!俺のは小さいのが一つだけ浄化されてる」


次々と口にする言葉に浄化が出来ていないことを告げていた。


「大丈夫です。黒竜を浄化出来ると言われたのですよ?もう一度浄化して下さります。先程の浄化は何かの間違いですよね?」


ニコリとフィーナは微笑み、冒険者達に魔石を紋に置くように伝えた。


「聖女様。本気で浄化をして下さいね」


フィーナがレーニアに浄化をするように促した。


(なんなのよ!なんで浄化されないのよ!)


苛立ちながら、残り僅かな魔力を再度放出した。

先程より小さい光。

誰が見ても浄化されたとは思えなかった。

レーニアは魔力を使い果たし、青白い顔色のまま地面にへたり込んだ。


フィーナが近くの袋を拾い中の魔力を確認する。

袋を覗いていた視線をエルランドに向けると、首を横に振った。


「たかが黒竜の魔力にあてられ変化した魔石を浄化出来ないなんてな。黒竜をどうやって浄化するつもりだったのか……何か裏があったのか?」


エルランドは両腕を組み、へたり込むレーニアと支えようとレーニアの側に腰を下ろしたファルナを怪しむ目つきで見つめる。


「いえ、レーニアは聖女ですので黒竜を浄化出来ると思い込んでいたのかもしれません」


「思い込み、ね……」


エルランドはじっとファルナを見つめる。

ファルナは必死に自分達が企てた計画が知られないように考える。絶対に魔道具の鍵の存在を知られてはならない。


背中に汗が流れるのを感じながら、平静を保とうと必死だった。


「まぁいい。では、黒竜の浄化をした者に証明として魔石の浄化をしてもらう。

 エリアナ!」


エルランドが後ろを向き、人集りに向かってエリアナの名前を叫んだ。


エリアナは事態を食い入るように見ていたため、名を呼ばれビクッと肩を揺らした。


「リア、浄化をして欲しいようですよ?頑張って下さいね」


セドリックがエリアナに手を差し出し、エリアナをエスコートする。

周りの人垣が左右に開かれ道ができる。


セドリックにエスコートされ広場の中央に現れた美しく妖艶な姿を見て、ファルナの顔が真っ赤に染まる。

ファルナだけではない。エリアナを初めて目にする第二王子側の騎士や冒険者はエリアナの美しさに魅入られていた。


一歩一歩前に足を進める度に、ドレスから見える脚に釘付けになる。


エルランドの側に来るとセドリックはエスコートを解き、エリアナの後ろに控えた。


「この者はSSランクのエリアナ。黒竜の浄化をした者だ。その証明を今から行う。エリアナ、浄化を頼む」


エルランドが場所を譲り、エリアナを山積みの魔石の前に立たせた。


エリアナが魔術紋に魔力を放出すると、辺りが見えない程の輝きを放ち全員の目を閉じさせた。


閉じた瞼から光が薄らいでいくのを感じ、ゆっくりと目を開いていく。


フィーナが袋を開け確認すると、エルランドに頷いてみせた。


「浄化が終わったようだ」


冒険者達はエルランドの言葉を聞き、急いで袋を開ける。


「浄化されてるぞ!」

「いつもの魔石より透明度が高いな」


聖女の時とは違い、冒険者達から歓喜と称賛の声があがる。


「なんでよ……」


悔しそうに地面の土を握りしめるレーニアに皆は冷めた視線を向ける。


「ふざけるな!いんちきでしょう!あんなに簡単に浄化出来るわけないじゃない!

あんたの魔力に反応するとか、この紋に仕掛けがあるのよ!」


レーニアはとても醜い顔をエリアナに向けてそう叫んだ。


ファルナはレーニアの醜い顔と声に驚いていたが、エリアナが近付いて来た事で顔を赤らめた。

うっとりと熱い眼差しを向けるファルナは、エリアナからすれば気持ち悪いしかなかった。


「自分の力が及ばないからと、私を貶めるのは止めなさい。貴女の魔力ではSランクの魔物の魔石一つすら浄化出来ないわよ」


「私は聖女なのよ!あんたなんか足元にも及ばないのよ!」


(どうしたらこんなお花畑が出来上がるのかしら?甘やかされた結果なのかしら?

ヒロインだからと自分勝手に振る舞うエイミーに似てるわね)


そう思うと聖女に対して益々嫌悪感が増していく。


知らず知らずにエリアナは汚物を見るような視線を向けていた。


その視線を受けたレーニアは、握りしめていた地面の土をエリアナに向かって投げつけたのだ。


瞬時に氷の壁を作り、土を被る事はなかった。


「ふーん。喧嘩を売ってきたのですから買いますよ?逃がしませんからね」


美人の睨む姿は、恐ろしい。


エリアナはレーニアに回復魔法をかけた。


「さあ、魔力は完全に回復されましたわね?聖女様は浄化と治癒しか魔法は扱えないのですか?剣術は?魔術は?」


「全部出来るわよ!ふざけるな!」


レーニアが立ち上がり、エリアナを睨みつける。


「ちょっと美人だからって調子にのるなっ」


「ちょっと?貴女に比べたら、かなり美人ですわよ?性格も貴女よりはマシですし?」


コテンと首を傾げ、聖女を馬鹿にしている。


「っ……くそ女のくせに!」


レーニアが火魔法をエリアナに放つが、エリアナは指一本動かす事なく水の玉を火にぶつける。と、同時に周りに被害がないように防御結果を張り巡らせた。


レーニアは次々と火魔法を投げ、地面からは土の槍をエリアナに向ける

エリアナは宙に紋を描くと、足場にして軽やかに槍と火を避けていく。


一つも当たらない攻撃に、レーニアは益々ムキになる。

子供の癇癪のように、火に土に終いには騎士達の剣を魔法で奪い、エリアナへと投げ放つ。

エリアナは腰に帯剣するレイピアを抜くと、放たれた剣を叩き返した。


エリアナに弾かれた剣は、レーニアの目の前に次々と刺さって行く。


「ヒッ!」


一本後ろに足を引くと、背後にも剣が刺さり始めた。


レーニアが奪って投げ放った数十本の剣が自分の周りに落ちてきたのだ。


腰が抜けたが、しゃがむ事も出来ずガクガク震えるだけしか出来なかった。


レーニアは最後の意地を見せ踏ん張りエリアナを睨みつけた瞬間、レーニアは氷漬けにされてしまった。


エリアナは宙から階段を降りるように、ゆっくりとレーニアに近付いてくる。


寒さで震える体と、薄くなる空気にレーニアは死の恐怖を抱いた。そして冷めた視線でゆっくりと近付いてくるエリアナに、レーニアはヒュッと息を吸う。


今まで経験したことのない、死の恐怖にレーニアは初めて対峙する事になった。


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