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モブな私は自由なはず‥‥なのに私の周りはいつもずっと騒がしい  作者: おかき


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64話話 婚約の行方

エリアナを引きずるようにしてキャシーは急いでテントへと歩いて行く。


行き交うアルーン国の騎士達の慌ただしさに反して、冒険者達はスタンピードの鎮圧を祝して宴会を始めていた。


第二王子と聖女のせいで騎士達は祝宴どころではない様子。


(私達もそれどころではないし、事が片付いたら騎士様達も一緒にお祝いしようかな)


エリアナは先の楽しみを見付け、早々に第二王子や聖女の事を片付けよう!と気合を入れ直した。


「エリアナです」


テントの前で中に声をかけると、中からマーティーが布をあげてエリアナとキャシーを迎え入れてくれた。


マーティーをはじめ、殿下の側近のナダ、バートンはキャシーの表情や動きを目で追っていた。

キャシーの答がどんなものになるのか、皆は気になって仕方ないのだろう。


ダリル殿下は表情が硬くキャシーの動きを目で追っている。


セドリックはエリアナを視界に入れると直ぐに隣に座るように手招きしていた。


セドリックの隣に座るエリアナの横にキャシーも腰を下ろした。


「話は出来たかい?」


セドリックがエリアナに確認すると、キャシーに視線を向けた。


「エリアナ様から聞きましたわ。私はお話に協力をする決心をしました。

その前に、ダリル殿下に確認したい事が幾つかあります。不敬な発言になるかもしれませんが、お聞きしても宜しいでしょうか」


ダリル殿下は真っ直ぐキャシーを向き強く頷く。


「何を言葉にしても不敬とする事はありません。気にせず聞いて下さい」


キャシーは頷きダリル殿下へと口を開いた。


「殿下は王太子の立場にあります。アルーン国の未来の国王です。

生き延びる為に、その地位を捨てる覚悟がお有りでしょうか。また、覚悟があったとして国を離れる覚悟はお有りでしょうか」


婚約者候補の話から突然の殿下の身の置き場の行方の話に、ダリル殿下も側近達も驚いている。


「そうだね。魔獣に襲われた時に正直やっと自由になれる。そう思ったのも事実かな」


「殿下!」


ダリル殿下の本音の吐露に、側近達は驚きと自分達の支えが足りなかったと顔色を悪くする。


「それは本音だ。私の側近としているだけで貴方達にも迷惑をかけてきた。私の存在が無くなれば、貴方達を自由に出来るとも考えた……。でも、あんな状況でも私を生かそうと守る貴方達に、私は生きなければならないとも強く思ったのも事実だ。私を命懸けで守る者の思いを蔑ろにしてはならない。


私は王族として生を受けた。この血を受け継いでいる以上、責任がある。だが、この血のせいで私の周りはいつも血なまぐさい。私は王太子でなくともよい。民を人を助ける事が出来るのであれば、それで良いと考えている。

国に拘りはない」


キャシーの問いにダリル殿下は正直に気持ちを伝えた。


マーティー達側近はダリル殿下の今日までを思えば、その答えになるのは解っていた。

だが、ダリル殿下ほど王太子として相応しい人はいないとも思っている。


「でしたら、ダリル殿下。私と正式に婚約をし、アスティ辺境伯へ婿入りしませんか?母は私が決めた相手ならば許可を下さります。ただ、父が煩いとは思いますがエリアナ様が口添えをしてくれたら父は許してくれます。」


「は?え?私がルーベン様に口添えって、どうしてそうなるのよ!」


自分に殺意を向けた相手に口添えなんて効果がある訳がない。


「父はエリアナ様に剣を向けた事をとても気にしています。私の尊敬する方に剣を向けたので、私はずーっと父を無視していますから。エリアナ様が一言口添えしてくれたら、私が父に会話を振ります。浮かれた父から言質をとろうかと」


悪意なく父親を嵌める気満々のキャシーは、清々しいくらいの笑顔で言い切る。


「解ったわ。協力します」


エリアナが了承すると、キャシーは早速父ルーベンに話をしに行こうと立ち上がる。


が、


「キャシー嬢。まだダリル殿下から返事を貰っていないのでは?」


セドリックの問いかけにキャシーは一瞬キョトンとするが、一方的に伝えただけで返事を聞いていなかった事を思い出す。


ゆっくりと腰を下ろし、エリアナの隣に座り直した。

うつむくキャシーの耳は真っ赤だ。


エリアナはキャシーの手を握り、ポンポンと慰めた。


「キャシー嬢。貴女の求婚をお受けします。私は私の人生を歩きたい。キャシー嬢とならそう出来る気がします」


ダリル殿下は真っ直ぐキャシーを見て言葉を紡ぐ。

キャシーはゆっくり顔をあげると、耳だけでなく顔も真っ赤にしていた。


「あ、ありがとうございます。一緒に両親に伝えに行って貰えますか?」


恥ずかしさを必死に堪え、ダリル殿下にそう伝える。


「はい。一緒に行きましょう」


ダリル殿下が立ち上がり、キャシーへと手を差し出す。

キャシーは殿下の手をじっと見つめ、おずおずと手を出した。


「エリアナ様もお願いします」


「解ったわ。役に立つのかは解らないけれど、一緒に行くわ」


エリアナはセドリックに手を振り、三人はテントを出て行った。


「殿下の恋が実りましたね」


マーティーは嬉しそうに口元を緩ませ呟いた。


「ダリル殿下はキャシー嬢に恋を?」


「はい。エリアナ様が眠られセドリック殿達のお世話をし、また具合が悪い騎士や冒険者達の看病に走り回るキャシー嬢に恋心が芽生えたのです。ですが殿下は気持ちを伝えるつもりは無かったのです。色々とありましたからね……」


マーティーは少し悲しげに話をするが、セドリックは反して喜んでいた。


ダリル殿下がエリアナに恋をしていない。

ダリル殿下が追う女性がヒロインになる可能性が高い。

ならば、ヒロインになるのはキャシー嬢か?

エリアナがヒロインにならなければ、それで良い。


セドリックのどこか楽しげな空気を感じたマーティーがセドリックにどうしたのか尋ねた。


「あぁ。ダリル殿下とキャシー嬢が上手く行くと良いなと。そうなれば明日の王子達の到着してからの問題も解決しやすくなるからな」


キャシー嬢やダリル殿下の事などどうでも良いセドリックだったが、それを匂わせないように誤魔化した。


「殿下には幸せになって頂きたいのです。死を選ぶことが楽になる事なのだと……二度と思わないで欲しいのです」


マーティーは拳を握り、自分達の不甲斐なさで悔しさを隠せずにいる。


セドリックは浮かれた自分を少しだけ反省した。


「キャシー嬢と殿下が上手く纏ったならば、エルランドさんに相談に行きましょう。明日の王子達の事は細かく策を練った方が良いので」


セドリックと側近達はキャシー嬢とダリル殿下が戻るのを待つことにした。



一方のキャシー達は……


「キャシー嬢。少しお話をしたいのです」


先をどんどん急ぎ歩くキャシーにダリル殿下が声をかけた。

キャシーは足を止め一瞬躊躇ったが振り返るとダリル殿下を真っ直ぐに見た。


「人がいない場所に行きましょう。エリアナ様も一緒に来て下さい。二人きりは良くないですから」 


駐屯地の端によりキャシーと殿下が向かい合って話を始める。

エリアナは数歩下がって見守る事にした。


「キャシー嬢の提案は私にとって大変有難いお話です。ですが、キャシー嬢はそれで良いのですか?貴族である以上、政略的な婚約や婚姻は貴族の責務の一つであるのも事実でしょう。ですが、アスティー辺境伯は政略的な婚約や婚姻は必要ありません。ならば、キャシー嬢が好いた方と添い遂げる事も可能です。私を婚約者とすれば、それも望めなくなります」


ダリル殿下は国の揉め事にキャシーを巻き込む事になる可能性もあるため、どうしても確認をしたかった。


「そうですね……確かに私はアスティー辺境伯の次期当主になります。婚姻相手は婿入りのため、私の好いた相手を選ぶ事が出来るでしょう。

でも、今は殿下を助けたい。私がその役を担える立場にあるならその役を引き受ける覚悟があります」


キャシーは迷わずダリル殿下に言い切る。

役割としての立場であっても構わないと。


「この地に来て自身の不甲斐なさを痛感しました。森の中に行けないどころか、森の入口での討伐にすら参加を拒否されました……辺境領で必死に頑張った一年は意味があったのか……

私が本気で頑張ったのはたった一年。

でも、エリアナ様やセドリック様は何年も努力してきた。それに、ダリル殿下もきっと幼い頃から努力してきたはず。

私もこれから先も頑張るつもりです。

そして、私の立場を使って誰かを助ける事が出来るならば、そうしたい。

今はダリル殿下と側近の方々を助けたい。そう思っています。それが婚約であるなら、どんと引き受けます」


キャシーの顔は決意を決めた表情だった。


「あ!もしかして殿下には好いた方がいましたか?それなら、殿下の立場が安全なものになったら婚約を解消してか……!」


キャシーが婚約解消の言葉を口にした瞬間、ダリル殿下がキャシーの両手を掬い上げキュッと握りしめた。

殿下が手をとった事でキャシーとの距離がとても近くなった。

キャシーは驚き固まったまま、ギギギっと人形のようにぎこちなく殿下を見上げた。


「私には好いた相手はいません。正確に言えば好いた相手はいます」


殿下の言葉にキャシーはキョトンとなった。


「私はキャシー嬢を好ましく思っています。討伐に参加できなくても落ち込む事なくエリアナ嬢達のために。倒れ込む騎士や冒険者のために走り回るキャシー嬢をずっと見ていました。

高位貴族の令嬢が一生懸命誰かのために動き回る姿をずっと見ていました。

私はキャシー嬢と役目としてでなく、想い合える婚約者になりたい。そう思っています」


殿下からの告白に最初こそキョトンとしていたが、殿下の言葉を脳が理解した瞬間、キャシーの顔がみるみる真っ赤に染まる。


「な!す…?え?」


意味不明な言葉を言い始めたが、


「はい。私はキャシー嬢を好いています」


(殿下!キャシー様の言葉を理解してた!)


二人の成り行きを見ていたエリアナは、両手を組み胸の前でギュッと握りしめ二人の恋の行方をドキドキしながら眺めていた。


前世も今世もこんな素敵な甘酸っぱい光景を見たこと無かったエリアナは、むず痒さとドキドキと沢山の嬉しい気持ちが混ざり自身の感情が爆発寸前。


「えっと…?えっと……」


キャシーが何とか言葉を発するけれど言葉を探せず、顔を真っ赤に染めた。


ダリル殿下はそんなキャシーを可愛らしいと思い、クスリと笑うとキャシーの左手を離したが右手はしっかりと繋いだままだ。


「ご両親のもとに行きましょう」


殿下はキャシーの手をとったまま、リリアーヌのテントへと歩き出す。


真っ赤な顔のままキャシーは殿下に手をひかれ、二人は行き交う人の視線を殿下は全く気にせず、キャシーは恥ずかしそうに受け止めていた。


エリアナは嬉しい気持ちを叫びたいくらい興奮していたが、深呼吸を繰り返し二人の邪魔をしないよう静かに後を追った。



アスティー辺境伯のテントが近くなると、冒険者達がキャシーと殿下の手を繋いだ姿を見て報告しにテントへと入って行くのが見えた。


キャシーはこれから両親を説得するため、真っ赤な顔はいつの間にか覚悟を決め凛とした表情に変わっていた。

ダリル殿下も王族としての顔をし、テントから出て来たリリアーヌと対面をした。


リリアーヌはキャシーと殿下が手を繋いでいる姿を見て、小さく口元をあげた。


「キャシー。婚約者を見付けたのか?」


リリアーヌから先制攻撃を受けたキャシーは、一瞬で淑女の仮面が剥がれた。


「な!な!」


「な?とは?何が言いたい?婚約者にしたいのだろう?許可する」


「は?」


「ダリル殿下はアスティー辺境伯に婿入りするつもりなのだろう?ならば、良いではないのか?許可する」


「「「………」」」


キャシーだけではない。

ダリル殿下もエリアナも三人でキョトンである。


「私のもとに二人仲良く手を繋いできた。しかもエリアナ嬢まで連れてだ。

婚約の許可取りと思ったが、違ったか?」


リリアーヌの言葉は正しい。

確かにそうなのだ。そうなのだが……。

あっさりし過ぎて力が抜ける。

覚悟を決めて対面するはずが、一言も覚悟を伝える事なくあっさり許可がおりたのだ。


「少し話をしよう」


リリアーヌはテントの中に三人を招いた。

そこにはルーベンが座っていた。

娘命のルーベンが静かにしている事が逆に恐ろしかった。


「アルーン国の内政は耳にしている。実際アルーン国から我が家への婚約の打診があった。」


ダリル殿下がリリアーヌへと視線を向けた。


「弟の婿入りですか?」


「そうだ。友好関係にあるアスティーへの婿入りを打診された。返事を少し遅らせ第二王子を調べあげると同時に王宮を調べあげた。

まぁー第二王子の屑の婿入りは拒否する事に決まったのだ」


リリアーヌはニコリと微笑みダリル殿下を見た。


「殿下の状況も把握していますよ。あの王宮で腐らず王太子として責務を熟している事も知っています。よく耐えましたね」


リリアーヌの口調はとても優しく、母親が息子を褒めるようである。


ダリル殿下は唇を震わせながらも

「ありがとうございます」

そう返事を返した。


「ダリル殿下が婿入りするなら、私は反対しない。アルーン国も殿下の婿入りを許可するであろう。

殿下、貴方はちゃんと父親である陛下に愛されていますよ。

第二王子をアスティーに婿入りさせたいのは、ダリル殿下から遠く引き離したかったからです。陛下は王妃の派閥や王妃の生家である国との板挟みで動けない。ダリル殿下を守りたくとも、国を乱す訳にはいかない。ダリル殿下と第二王子を離す事が陛下が出来る唯一の事なのです」


リリアーヌの言葉に殿下の唇が震える。

泣くのを必死に堪える姿を、リリアーヌはじっと見ていた。


「キャシーは正義感が強過ぎます。殿下との婚約もそれの暴走かもしれません。

でも、正義感だけで婚約をする程愚かではないと思っています。

殿下とならやっていけると信じての事だと思います。二人の婚約を認めます。誰一人この事に異を唱える事はさせない。アスティー女辺境伯リリアーヌの名の下に二人の婚約を認めさせます」


キャシーも殿下もリリアーヌの言葉が胸に染み込み、二人は静かに涙を流していた。


エリアナはルーベンが気になっていた。

エリアナに剣を向けた程の家族命のルーベンが何も言わないなんて……。


チラチラ様子を見るエリアナにリリアーヌが気が付いた。


「エリアナ嬢はルーベンが気になるか?大人しくしているのが不思議か?」


エリアナは不作法をした事に、黙って頭を下げた。


「ルーベンは確かに家族の事になると手が付けられない。でも、ルーベンは子供が好きなのだ。第二王子の事は所業を見て嫌っているけれど。

ダリル殿下の報告を読み泣いたのだ。必死に生きる殿下を助けられないかと私に願うくらいにな」


リリアーヌがチラリとルーベンを見ると、少し居心地悪そうにルーベンは視線を反らした。


「そうなのですね……」

(ルーベン様が子供好きなんて意外だけれど、ダリル殿下との婚約がすんなり通ったのは有難いわよね)


「リリアーヌ様。明日の昼前に第二王子と聖女が駐屯地に来る事はお耳に入っていますか?」


「いや、初めて聞いた。そうか……」


リリアーヌ様が小さく笑った。


(怖っ!)


「殺っても良いのだな」


「駄目です!」


「駄目なのか?屑王子など要らぬであろう?民が被害を被る。殺った方が早い。スタンピードに巻き込まれた事にしよう!」


「殺りはしませんが、報復はする予定です。エルランドさん達に話しをしに行くので、リリアーヌ様とルーベン様も一緒に行かれますか?」


「「行く」」


二人の参加も決定となった。


(明日は派手な報復になりそう…)


エリアナは心の中で大きな大きなため息を吐いた。


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