表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

8 悪役令嬢の友情

午後2時37分。

教室。


乙女ゲーム『救いの天使~マイスイートエンジェル~』の極悪非道の悪役令嬢令嬢であるこの私、伊藤千鶴いとうちづるは遠い目をして窓の外を見つめていた。

この状態を、あるいは呆然ともいう。


ああ終わったーー。

テストの全てが、終わったーー。


大の苦手の社会科のテスト。その最後の空欄を埋めた瞬間に残酷な終わりの合図が鳴り響いたのだ。

見直しも何もしていないぞ。

周りはテストが終わった解放感でざわざわしているが、今の私は燃え尽きた灰 。

終わったよ、本当に。

ああ……なんだか、空が、青いな。


「え、えっと。伊藤さん、大丈夫、ですか?」


真っ白な灰と成り果てた私に声を掛けてくれるのは、昨日少しばかりの手助けをした(出来たと思いたい)三上杏さんである。

三上さんは表情の死んでいる私にあたふたしながらも、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「あー……三上さん。大丈夫、少しばかり疲れただけだから」


あははは、と乾いた笑みを浮かべる私がそんなにも見るに耐えなかったのか三上さんは傍らの女子生徒に助けを求めるような視線を送る。


「え、あたし!?」


ガタンッと凄い音を立てて席から文字通り飛び上がった彼女の名前は二十日麻里はつかまりという。

イマドキ女子と言った感じのサイドアップの水色のシュシュで纏めた髪、溌剌とした印象を与えるぱっちりとした目。

隙無くおしゃれに制服を着こなす人で、出来たらそのセンスと女子力を分けて欲しいものだ。

雰囲気に合わないと言えば失礼だが、彼女もまた三上さんと同じ特待生である。

勉強面ではなく音楽のーー特にヴァイオリンの才能を見込まれているらしい。既に海外でのコンテストで優勝も果たしているとか。つまりはまあ、将来を期待されている才女ということだ。


「あのねえ、一体あたしにどうしろと!? 杏、あたしの成績良くないの知ってるでしょ!?テストが終わってホッとしてるようなあたしに、真面目にヘコんでる人をどうやって慰めろっていうの??」


声がデカイぞ君ぃ。

今の彼女は丸い目を見開いて、首をぶんぶん振って慌てていて、その姿はさながら興奮したチワワのよう。

あ、褒めているつもりなんだよ?犬かわいいし。賢いし。

私はぐったりした状態から起き上がると、グッとサムズアップをして見せた。


「二十日さん、諦めたらそこで試合終了だって誰かが言ってた。おかげでなんか元気出た、さあ一緒にがんばろう!」

「伊藤のお嬢様がその台詞を使うのに違和感がっ!!そして謎の文脈っ!!でも親しみやすい感じであたしは好きよ!?」


お?このノリについてくるとはなかなかやりおるな?

つい楽しくなって悪ノリしてしまう。


「なん......だと……?このノリがわかるとは、さては貴様オタクだな?」

「それだけで認定!?確かにアニメも漫画も好きだけど、それだけでオタク認定されるのはちょっと……って伊藤さんもオタクじゃないそのノリだと!!」

「ふふ、いつからお嬢様がオタクでないと錯覚していた?いいか、日本を、この国を回しているのはオタクなんだ。だからそのトップの娘がオタクなのは当然の帰結じゃないか」

「オタクに対する風評被害も甚だしくない!?」

「ふ、二人とも息が合いすぎだよ〜!私を置いてかないで〜!」


三上さんがアワアワとなるのを見て二人で吹き出した。盛大に。だって面白かったから。

可愛くて面白いとか最強じゃないか。

私は腹筋を震わせながら二十日さんに右手を差し出す。

出来る限りお茶目に、そして誠実さを込めて。


「友達にならない?これでもお嬢様だけど」

「お嬢様の概念が滅びそうだよもう……。うん、よろしくね」

「あの!私も友達だよねっ!だから、その、私も混ぜて!」


いや勿論貴方を省く気はありませんが三上さん。

私は彼女の手も取って、ぎゅうっと一緒に握りしめた。二人とも温かい手だ。

これが人と人の繋がりだ。誰かと繋がる感覚だ。こういう時があるから、これを感じられるから私は世界をすきになれるのだ。

例えどれほど辛い結末があったとしても、この時間は事実なのだから。

ん、何故か湿っぽく。

そんな雰囲気を振り払うため、私は立ち上がって三上さんの頭をよしよしと撫でた。うん、ただの趣味だ。三上さんは、ええっ!?と驚いていたけれど大人しく撫でられている辺りは、人懐っこいウサギさんのようで可愛い。

ううん、チワワとロップイアーのウサギ。

つまり私は飼育員ーー?

いや違うだろ、何考えてるんだアホか。

自分で自分にツッコミを入れると、教室のドアがガラリと開いた。


「ほら〜そこの姦しい娘っ子ども〜、帰りのホームルームの時間だ。席に着けー」

「姦しい、は流石に酷いです!」


副担任の若い男の国語教師、野沢先生が失礼なことを言ってきたので唇を尖らす。

確かに女子三人ですけど。姦しいは言い過ぎじゃないです?ほら、二十日さんもぷくっとしてますし。


「はは、まあそこは許せ。帰りの連絡、行くぞー」


うわぁ、流されたっ。食えないキャラクターかもしれないぞあの人。

しかしその後は特筆すべき事は特になく、一、二個の連絡があったあとは、つつがなく帰りのホームルームは終了。

私の聖・ニコラウス生存戦争二日目は一応、無事にに終了したようだった。


忙しかったんです......。反省してます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ