序章 3
馬車が屋敷に到着すると私はすぐに自室に向かいました。なにせあのゲームのシナリオは膨大です。何かに書き留めておかないと忘れてしまうかもしれません。
「ジルダ、書くものを用意して」
「は、はい」
私はジルダに紙とペンとインクを用意してもらうと、早速思い出した『あなたを支えたい』の設定を書き出します。
まずは攻略対象についてです。
攻略対象は6人いて全員が上級貴族令息。マルシャン家・ルロワ家・デルランジェ家この3つが公爵家で、ジュベル公爵家を含めて四大公爵と呼ばれています。あとは全て侯爵家でダル家・メルマズ家・オリオール家となっています。
1人ずつ詳細をあげていきましょう。
1人目はトニー、フルネームでアントニー・マルシャン。
貴族としての矜持を持ち、自分に厳しく他人にも厳しい男。銀のおかっぱで背が高い。
常に気を張ってなければならない中で、主人公の庶民としての価値観に癒されていく。
政争パートでは腐りきった貴族達を粛清するのだが、正攻法で悪事の証拠を探してもいいし、邪道に罠にかけ罪をでっち上げるのも有り。更に失敗して没落寸前までいってからの大逆転はなかなかに熱い展開。
2人目はニック、ニコラス・ルロワ。
高いカリスマ性で周囲を引っ張る俺様系。落ちこぼれた人間はおいていくタイプ。背中まである金のロングヘアーが特徴的で肩幅が広く王様オーラを放っている。
その性格で周囲から恐れられ空回りしていることに気づいておらず、それに気づいた主人公がアドバイスしたことで物事が上手くいくようになり、自分の隣にいて欲しいと考えるようになっていく。
政争パートでは王宮でそれまでの慣習を破った人事を行い、王族を敵に回してしまう。和解の道を探すか、王家転覆を狙うか、主人公の行動で物語の雰囲気ががらりと変わる。
3人目はフラン、フランシス・デルランジュ。
誰隔てなく優しくて紳士的、学園ではアントニー、ニコラスとトップを競い合うなど成績もいい。ライトブラウンの短い髪と細めの身体つきが穏やかな表情に似合っている。
他の公爵家を抑えられるのが彼だけの為、苦労している。その愚痴を主人公に聞かれ、共感されたことで一緒にいたいと思うようになる。
政争パートでは貴族に優しく、平民に厳しい法律を変えようとひた走る。主人公は協力者を探すことで手助けをするが、誰を協力者にするかでシナリオが変化していく。
4人目はロルフ、ランドルフ・ダル。
体育会系の熱血漢、運動は得意だが勉強は苦手。赤いぼさぼさの髪で平均的な体格。平民への興味で主人公に近づき、一度会っただけで恋に落ちる
彼を含む3人の侯爵家は政争パートが他の家との権力争いになり、それぞれの家の抱える問題の内容と主人公の攻略対象への立ち位置でシナリオが変化する。
彼の家の問題は公爵家の後ろ盾を持たないこと。やり手のボリスが当主の間は問題なかったがランドルフが継いだ途端に他貴族からの攻撃が始まる。
5人目はウィル、ウィリアム・メルマズ。
水色のショート、背はしたから二番目で痩せている。口数が少なく感情表現も薄い。読書好きで図書館で主人公に本の場所を聞かれたことがきっかけとなり、好きな本の話で徐々に仲良くなっていく。
メルマズ家の問題はウィリアムにある。家自体には弱みが無いのだが、あとを継いだ彼の社交能力の低さが弱みとなってしまう。
6人目はクリス、クリストファー・オリオール。
小柄で明るく素直、いわゆるロリ系のショタなのだが言動が妙に色っぽい。髪は白の短髪。背丈は二番目に身長の低いウィルと比べても頭一つ分くらい低い。
オリオール家の問題は女性スキャンダル。代々引き継いできた無自覚の色気で女性達を惹きつけ、素直な性格が災いしていろいろな問題を抱えている。
こうやって書き出してみると隙だらけですね。
続いて私のこと。黒のロングヘアときつめの顔が印象的な悪役令嬢である私シャーロットは、主人公への嫌がらせによって修道院行きとなります。ですがその解決方法は至極簡単です。
主人公に嫌がらせをしない。ただこれだけを守ればいいのです。
私についてはあとはジュベル家についてですね。ジュベル家の問題、攻略方法と言い換えてもいいそれはボリスの不正です。四大公爵として莫大な権力を持つボリスは、自分の欲を満たすために様々な悪事に手を染めています。証拠を手に入れるのが大変ですが、手に入れてしまえばあとは勝手に没落していきます。
こっちも隙だらけのようです。
最後に主人公についてですけど、主人公の名前はプレイヤーがつけるから名前はわかりません。わかっているのは今日ぶつかった平民の女が主人公であることと、多分彼女も『あなたを支えたい』の記憶を持っているということ。容姿が主人公の立ち絵そっくりでしたし私が令嬢でなくなることも知っているようでしたから。
「ジルダ、今日私にぶつかった庶民の女の顔を憶えてる?」
「ええ、憶えています」
「あの女に気づかれないように調べて頂戴」
「いつもの報復ですか?」
「違うわ」
「でしたら理由をお話ください。あの女とぶつかってから少し様子がおかしいです」
理由ですか。こんな荒唐無稽な話、信じてくれるでしょうか・・・。
ですが、私の考えを理解した協力者も必要かも知れません。ジルダなら信用できますし、その役にふさわしいでしょう。
「わかったわ。聞いても信じられないと思うけど説明します」
私はジルダに前世のことと『あなたを支えたい』について話しました。
「……なるほど」
「あら信じてくれるの?」
「私がシャーロット様を疑うなんてありえません」
「あらそう」
「それで? どうするのですか?」
「どう、とは?」
「まさかそのままにして修道院に行く気じゃないですよね?」
「当然ですね」
「では、ヒロインと戦うのですか?」
「まさか。平民と争うなど私のプライドが許しません」
「ならば攻略対象者の誰かを味方につけますか?」
「私の人生に男性など必要ありません」
「……では、どうするというのですか?」
「決まっています。この国を私のものにするのです」
「…………本気ですかシャーロット様!? 王族への敵対は縛り首ですよ」
「あら私は本気よ。だって私は悪役令嬢」
そう、私に与えられた役割を考えればこうするのが一番らしい。
「悪なのですから当然でしょう」
これはいい。これほど悪役にふさわしく、響きのいい言葉があるだろうか。
いつか主人公の少女にこの言葉を送ってあげよう。
そのとき、果たしてあなたはどちら側に立っているのでしょうね?
しばらくは更新をしないつもりなので、もし我慢できない方がいたら似たような設定で書いて、私に教えてください。
読みに行きます。評価します。ブックマークは内容次第。