第44話「準備」
今回はちょっと速い更新。次回は更新が遅くなる予定です。
第44話「準備」
「ただいま~。」
クヨウが突如出かけて行き、帰ってきたのは2時間後だった。
「おかえりなさい、クヨウさん」
帰ってきたクヨウを出迎えたのは、青筋を浮かべてにっこりと笑うサクラだった。ヒカリはサクラの黒いオーラに負けて部屋の隅で怯えている。
「で?きっちりと説明してもらいましょうか?」
「あ~っと、はい、すみませんでした。」
クヨウがサクラ達の話を聞いて向かった先は学園だった。クヨウが学園に向かった理由は調べ物をするために学園の図書館を利用したかったからである。尤も、部外者がいきなり行って利用できるわけもないので、レナリンスに話を通してもらい、明日に利用できるように許可をもらったのである。
「というわけ。夕方だったし、あまり遅いと明日まで待たなきゃいけないから大急ぎだったんだよ。」
「それでも、一言言ってくれなきゃわからないでしょう?本当にトワさんを探しに行ったのかと思ったわよ。全くもう。それで、何を調べようとしたの?」
前の世界だと瘴気なんてものはないから、その手の伝説とかはないんだけど、この世界なら昔からある瘴気に関する事があっても不思議じゃないからね。」
「なるほど、あわよくば瘴気の浄化の仕方が載ってるかもしれないってわけね?」
「ううん、違うよ。そんな浄化の仕方なんて載っていれば、この世界に瘴気は残ってないよ。僕が知りたかったのは瘴気を浄化できる武器とか道具の情報だね。」
「ああ、なるほど。」
クヨウは今まで理詰めで瘴気を浄化、或いは無効化させようとしていたが、どうも知識が足りないのか元々不可能なのかはわからないが、手段が見つからなかった。そこで発想を変えたのだ。そもそも瘴気の浄化なんて無理難題に等しいことなのだ。理詰めでやろうとしても、相応に時間が掛かる。ならば、余計な手間は省いてご都合主義的に解決してしまえばいい。
伝説や伝承にある武器や能力は、ぶっちゃけて言えば不思議の塊のようなものだ。因果律を操作する呪いやら、時間逆行等、普通にやろうとすればほぼ不可能な事を武器レベルで行使している。ある意味ご都合主義的なところを今回は利用すればいいと思い立ったのだ。
「つまりクヨウさんが探していたのは・・・・」
「瘴気を浄化させることのできる道具。ってところだね。それを僕の能力で再現できれば一挙に解決だよ。」
「無理難題にはご都合主義をもって対処するか、まぁそれもありよね。」
「まぁ、まだそんな道具があるとは限らないけどね。」
一応突破口が見つかったと言え、まだあるかどうかわからないのだ。そもそも元がこちらの住人ではないクヨウにとって伝説や伝承などはさっぱりわからない。精々なまはげに近い話がある程度にしかわからない。あとはレナリンスや教師陣にそんな話があるかどうか聞くくらいだ。
「伝説ね、あるわよ。話の中に瘴気が出てくる程度なら2つ、3つくらいなら知ってるわ。」
「え?そんなにあるの?」
「まぁ、伝説や伝承には少なからず瘴気は関わってくるわね。特に闇の島に関しての伝承もあるし、物によっては世界中の瘴気をすべて浄化させるなんて物もあったわね。」
「それを後で、教えてもらっていい?」
「ええいいわよ、とりあえずご飯にしましょう。いい時間だしね。」
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次の日、クヨウは学園にきていた。伝説や伝承を調べるためである。許可を取ってくれたレナリンスと共に学園の図書館へ向かっていた。
「昨日はありがとうね、あんなに急な話をしてもらって。」
「いえいえ~、なんでもないですよ~。それに~クヨウさんからの~頼みごとは珍しいですからね~。はい~、ここが図書館に~なります~。」
パっと見は重厚感溢れる建物で、図書館というより博物館に近い建物である。中に入ると受付があり、いくつかの机とテーブル、長椅子が置いてある。そしてそこからかなりの数の本棚が確認できる。階段があり本棚だけ3階建てになっていて、奥行きは数十mは軽くあるだろう。本棚の横の通路はかなり間が空いており探しやすくなっているのは幸いなところだ、
「うわ~、これは凄いな。なんだか体育館をそのまま書庫にした感じだね~。」
「そうですね~、書籍の数は数十万冊以上にのぼりますからね~。一応右側の壁の向こうは学習部屋になっていて、大量の机とテーブル、イスがあるんですよ~。それに、地下は一部教師以外立ち入り禁止区域になってますからね~。全体像は~もっと広いですよ~。」
嬉しそうにクスクスと笑いながら説明をしてくれるレナリンスだった。
「これは・・・・探し物をするのは難しいな~。」
「そうでもないですよ~。一応~分類ごとに~ある程度分けられてますし~、探索用の~魔法具も~ありますからね~。」
そういってレナリンスが取り出したのはテレビのリモコンのような魔法具だった。この魔法具は探したい本のタイトルや種類を入力すると大体の位置を探してくれるのだ。
「調べたい本の名前は~受付で聞けば~調べてもらえますよ~。」
「なるほどね~、ありがとう。じゃあ、ちょっとがんばりますかね~。」
クヨウはレナリンスに教えてもらいつつ、目的に合いそうな本を調べていった。
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一方リュミエールではいつも通りサクラとミリアが店番をしており、ヒカリはたまに来るお客さんと遊びつつ暇な時は昼寝をしていた。
「あの後、クヨウさんはそんなことをしていたんですか。」
「一言言ってくれればよかったのにね、よっぽど焦ってたんでしょうね。」
やれやれと言った感じでサクラはため息をつく。サクラの行ったとおり実際クヨウは焦っていた。もっとも期限に余裕があるとはいえ、一週間ほど何も進んでいないのだから、焦るのも無理はなかった。
「後のことはクヨウさん次第でしょうね。私達は店番とかしかできませんし。」
「そうね~、まぁサポートも重要な要素の一つだから私達は私達で、できることをするだけよね。」
戦闘経験が豊富なサクラはサポートの重要性を知っている。戦闘に例えるならクヨウが今は前線で戦っており、サクラとミリアは補助や補給等の後方支援にあたる。クヨウが安心して前線に行くためには後方支援がしっかりしてなければならない。そう考えるならば、クヨウには店のことは気にせず依頼に集中してもらえる今の状況は最善と言える。
「そうですね~、でも・・・・もう少しお客さんが来て欲しいですね。徐々に増えているとは言っても、まだまだ暇が多いですから。」
「そうね・・・流石に暇が多いのはお店としてはよろしくはないわね。」
未だリュミエールの客足は復活してはいない。これから少しずつ増やしていくしかないのだが、暇な物は暇なのである。
「そうだ、サクラさん。2週間後くらいにお祭りがあるみたいですけど、出店とかするんですか?」
「あ~、そういえばそういう連絡があったわね。依頼の事ですっかり忘れてた。クヨウさん次第じゃないかな?依頼の件もあるから多分無理だと思うけどね~。」
その頃何をしているかにもよるのだが、どの道クヨウがどういう手段をとるかで変わってくる。サクラには判断できないことであった。
「まぁそうですよね。なら2人でデートですか?いいなぁ~、私も彼氏欲しいな~。」
「え!?あ、いや・・・・それいいなぁ・・・・じゃなくて!からかわないでよ!」
ミリアはチラチラと若干にやけた笑いでサクラを見ながらいじっていた。サクラもサクラで、顔を赤くして怒ってはいたが満更でもなさそうだった。
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夕方になり、クヨウが帰ってきた。疲れたような感じは受けられるが、悩んではいないようだった。
「ただいま~。」
「おかえりなさい、何か進展はあった?」
「流石に疲れたけど、進展はあったよ。」
ふと見るとクヨウはいくつかの本をもっていた。多分これから更に調べるのだろうとサクラは予想したが、それははずれていた。
「ん?ああ、この本?これが目的の物が載ってた本だよ。それとその物が使われた伝記だね。」
「載ってる本はわかったけど、何でその伝記まで?」
「能力を付加させるのは僕だからね。一応細かい経緯とかも知っておくとまた違うかと思ってね。」
クヨウがやろうとしている能力は、神が杖に与えた能力だ。再現性を増し、確実にできるようにするためにはその話自体も知っておいたほうがいいと判断したのだった。クヨウの能力付加は実際にその能力を詳しく知る必要もあるが、それに関するエピソードを知ることにより再現性が増す気がしたのだ。伝説等で使われた武器や防具、道具などは大抵それに付随する話がある。元々そういう能力がある場合もあるが、物語上のエピソードを経験する事でそういう能力をもった場合も少なからずあるのだ。知っておいて損をすることはない。
「ということで、あとはこれを熟読しておいて、イメージを完全に把握できればそこで完了だね。」
「へ~、じゃあもう一気に解決したようなものですね。」
「あ~いや、そうでもないんですよね~。」
「そっか、素材ね?」
「はい。」
素材が能力に合わない、あるいは質が足りないと能力を与えた時点で物が壊れてしまう。それは以前に確認済みだ。なので、今回は杖なのだが、どんな木でできていて、どんな工夫、細工がされているか等かなり詳しく調べた。この日一番時間をとられたのがこの作業だった。素材等はすでにバンガードに依頼しており、組み上げをヨーゼフに頼めるよう手配してある。
「多分お金は相当かかるだろうけど、事が事だけに、金に糸目はつけない方針でお願いしたよ。」
「まぁ、実際素材の質を落とすわけにはいかないものね。でも相当掛かりそうよ?」
「今まで貯めたお金があるからなんとかなるでしょう。最悪の場合はアゲインさんに報酬の上乗せを要求するし、準アーティファクトクラスの魔法具を作って荒稼ぎすることもできなくはないからね。あまりしたくはないけど。」
「この依頼だけで破産しそうな勢いですね。」
実際今までに貯めたお金は相当なものであるし、今でもクヨウの資産は右肩上がりである。仮に一日で全て使いきっても、次の月には大量のお金が入ってくる。仮に破産しようとお金に困ることは当分ないのだった。
「お金は特に問題ないでしょう、当面の問題はこれで解決ね。」
「そうですね~。そうだ、クヨウさん。2週間後くらいにお祭りがありますけど参加しますか?物が出来上がるまで暇なんですよね?」
「あ~お祭りね。そういえば連絡を受けてたな~、すっかり忘れてたよ。そうだね~かなりぎりぎりまで暇だから出店でもしようかな。何かしたいことでもある?」
「私ですか?ん~特にないです・・・というか魔法具店とかじゃないんですか?クヨウさんならそういうのをやると思ったんですけど。」
「いや、それじゃ面白くないかな~って思って。お祭りだし、一風変わったことをしてもいいかな?と思っただけなんだけどね。」
前に一度参加したときは出店も出さずにレンヤと食べ歩きをしていた。途中常連のハンター達と回ったりみんなで飲みに出掛けたり等々もしたが、出店はやってはいなかった。
「そうだ!クヨウさんの世界にあって、ここのお祭りに無い物で出店をしませんか?そのほうが面白いと思いますよ?」
「なるほど、いいわねそれ。」
「あ~、それもいいね~。ん~向こうにあってこっちに無い物ね~。型抜き、ピンボール・・・金魚すくいとかかな~。」
お祭りで出店といえば大体相場は決まってくる。そこは世界が変わっても同じである。
型抜きやピンボールは地味すぎて却下。金魚すくいも、魚を飼うという習慣があまりないので、これも却下。流石に即席で良いアイデアは思いつかなかった。
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数日後、クヨウからの手紙を受け取ったバンガードは嬉しそうに狼狽していた。何故なら・・・
「実際に頼りにされたのははじめてかも知れんな。それにしても、無茶な内容を言ってきたものだ。」
クヨウが作ろうとしている杖の素材なのだが、物によっては貴族が持っている高級品すらも霞んでしまうような物だった。要でもある杖は生命の樹と呼ばれる大樹の枝を使うことになる。これは国宝に指定されている。そんな樹の木材が普通に手に入れれる分けがない。早い話、裏で手に入れるしかない。ついでに言ってしまえば、値段も相応に掛かるのだ。
「まぁ、頼られては仕方がない。手紙には重大な依頼を成功させるためとしか書かれていなかったが、彼なら悪用することはないだろう。」
バンガードは早速手配をかける。なるべく迅速に調達できるようにと。
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ヨーゼフもクヨウから手紙を受け取っていた。しかし、内容はバンガードとはかなり異なっている。それはクヨウが受けた依頼内容が書いてあるのだ。クヨウがヨーゼフを信頼しているのもあるが、一番の理由は他にある。それはクヨウがやりたい事を完璧に理解してもらうためだ。クヨウが伝説上の杖を再現させる。これはある意味世界中で注目されてもおかしくはないことだ。国家プロジェクトで遂行しても不可能なことをクヨウの能力でやろうとしている。それを明かすのはリスクが大きいが、そうしてでも成功率を上げたかったのだ。完全に理解しないと完璧な物は作れないからだ。
「この間まで、鼻たれ小僧だったと思っとったが・・・中々良い依頼をしてくるじゃないか、くくく・・・はーはっはっは!」
素材は超一流、依頼主は自分の弟子でもあり、息子のような存在でもあるクヨウから。しかも自身にかかる多大なリスクを犯してまで自分に依頼をしてきた。ここまでされて、クヨウの保護者としては勿論だが、一流の職人の誇りも燃え滾ってきた。
「よっしゃ~!受けてやるクヨウ!ワシに任せとけぇ!」
手紙を読んで1人燃えるヨーゼフだった。少し離れたところから見ていたサキには、一人言を言って奇行を行っているようにしか見えなかった。
「御医者様ヲ呼ンダホウガイイノデショウカ?」
まだまだサキには理解できない物が多かった。
全然気がつかなかった。ヒカリが一言も喋ってない!
気がつくと空気になってますね~・・・・マスコットの予定なのに
活躍の場がない><。。
次回とかはたくさん出せるといいなぁ・・・
では~、次回をお楽しみに。