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終ノ刻  作者: 如月透羽
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第二話

パーティーから数日が経った。

もうその頃には、アイク殿下のことなんてすっかり忘れていて。

普段通りの生活に、戻っていた。


……あの手紙が来るまでは。


「ユノ様」

「入りなさい」


反射的にそう言っていた。

信用出来る人の声に、落ち着いたからかもしれない。

どうかしたの、と聞くより先に、目の前のメイドが答える。


「ユノ様宛にお手紙が届いているとのことで、持ってまいりました」


私宛の、手紙。

きっとエンダ様からだろう。

エンダ様以外に、私に手紙を送ってくる人なんていないから。


「エンダ様からですの?持ってきてくれてありがとう、モニカ」


この家で、唯一信頼のおける人物。

それが、私の専属メイドであるモニカだ。


私以外の家族の息がほとんどかかっていない、唯一の人物。

そんな彼女が言った。


「いえ、それがエンダ様ではなく……」


とにかく、見ていただいた方がわかりやすいかと……。

そう言われ、差し出された手紙の封蝋を見る。

モニカが言う通り、エンダ様が使うシュバルツ家の封蝋ではなかった。


いや、ある意味シュバルツ家なのかもしれない。

私の手にある手紙には、王家、グランファレス家の封蝋が押されていた。

頭が真っ白になる。


「……ありがとう、モニカ。下がっていいわ」


そう言うのが、私の精一杯だ。

モニカは黙って、扉を閉じる。

部屋には私と、封が閉じられた手紙が残される。


もし、エンダ様に、あのアイク様から手紙が送られてきたと知られたら。

そのとき私は、前と同じ私、としていられるだろうか。

そんなことを考えながら、手紙をあける。


『ユノ・ヴァレンタイン子爵令嬢』


私のなんかより、余程綺麗な字で書かれた書き出しが目に入る。

その字は、エンダ様とよく似ていた。

手紙を、読み始める。


『お元気ですか?先日は、貴殿の婚約者を怒らせてしまったようで、申し訳なく思います。

お詫びとして、来週から始まる歌劇、アイリーンの観劇権を2枚封入させていただきました。

先日の非礼を、どうかお許しください。』


律儀な人だな、と思った。


アイク殿下は、別に悪くない。

仮に悪かったとしても、そこまでするだろうか。


私は、部屋にある便箋を取り出して、返事を書き出した。


『先日はお見苦しい姿をお見せしてしまったようで、申し訳ございません。

お詫びについてですが、あの件は私どもの問題であり、むしろこちらが謝罪をしなければ、と思っていたところでした。

ですので、アイク殿下からお詫びを受け取ることは出来ません。

お気もちだけ、受け取らせていただきます』


末尾に自分の名前を書いて、封蝋を押す。

そして私は、ベルを鳴らした。

しばらくすると、モニカがやってくる。


「どうかいたしましたか、ユノ様」

「これを持っていって。出来る限り早く」


わかりました。

その声が聞こえたときには、既に私の手に手紙はない。

それは、宛先以外はいつも通りの手紙。


その手紙は、三日で返答がきた。

いつも通り、モニカに渡された手紙を読む。


『ユノ・ヴァレンタイン様

既に席を取ってしまいましたので、貴女さえよければ私とアイリーンの観劇をしませんか?

もし都合がつくのであれば、十四日の九と半の刻に、グランド歌劇団にいらしてください。当家の執事が案内いたします。』


世間知らずな王子様。

それでいいのか、と思いながらも、私は部屋を出た。


父上の部屋へ向かう。

途中、モニカとすれ違う。


「モニカ」


きっと、他の下級メイドの手伝いをしていたのだろう。

モニカは洗濯桶を持っていた。


「何でしょうか、ユノ様」

「私の部屋にある、アイク様からの手紙を取ってきて。右隣の引き出しにあるわ」


モニカが頷いたのを見て、私は再び足を進めた。


「お父様、私でございます」

「入れ」


アベル・ヴァレンタイン。

正真正銘、私のお父様だ。


「人払いをお願いしても?」


そう言うと、お父様はひとりのメイドに2人分のお茶を頼んだ後、執事たちに別室へ移動するよう命じた。

そのメイドもいなくなったとき、部屋の扉が開いた。


「ユノお嬢様、こちらお持ちいたしました」

モニカの手から私の手に、手紙が移動する。

「……もう戻っていいわ」


本当はありがとう、と言いたかったけれど、お父様の前では言えなかった。

失礼いたします、と言って、モニカは部屋から出ていった。


「用は何だ、ユノ。早く言え」

「こちらの手紙のお誘いをお受けするか悩んでいるのです。お父様の意見をお聞かせ願いませんか?」


手紙を開いた状態で、お父様に渡す。

お父様が手紙を読んでいる間に、私はもうひとつの手紙を開いた。

黒かったはずのインクが、少しだけ青くなって見えた。

投稿日のズレ、そして誤字の修正をしようとして削除してしまう

という致命的なミスを犯したため再投稿です。

申し訳ございませんでした。

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