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35.灰色の空の下で



 ――私は墓苑を離れた後、一人で遊園地に行き、観覧車に乗った。

 小さなかごに揺られながら、外を見つめる。


 先日、敦生先輩と一緒に乗ったときは、周りの景色なんてよく見えなかった。

 でもいまは、曇っていても遠くの山まではっきり見える。

 なにもかもを失った、いまの私のように。

 でもきっと、晴れている日はさらに素敵な景色が見えるだろう。


 准平からもらったはずのマフラーが、綾梨さんへのプレゼントだったなんて信じられない。

 そうとも知らずに、自分のものだと思って喜んで使っていた。

 この恋が一方通行だったなんて。

 全てが明らかになったのは、2年後だなんて皮肉な話。


 マフラーをするりと解き、ぎゅっと握りしめた。

 私のものじゃないのに、こんなに大切にしていたなんて。


 それだけじゃない。

 准平と綾梨さんが付き合ってたなんて、気づかなかった。

 部活が忙しいとは聞いていたけど、まさか恋愛していたなんて。

 あの日のデートは、私に好きな人ができたとでも言おうとしてたのかな。


「はぁ……」


 俯くと、深いため息が漏れた。

 しかし、観覧車の軋む音が、心の奥のなにかを呼び覚ました。


 ……ん、ちょっと待って。


 敦生先輩は、あの日が最後のデートだって言ってた。

 それなのに、綾梨さんは准平と一緒のバスに?

 だとしたら、敦生先輩は綾梨さんに会った後にどうなっていたの?


 そう考えていたら、額からサッと血の気が引き、指先が震えた。


 もしこの推測が正解なら、私と敦生先輩はさらに傷ついていた。

 私は准平からマフラーを貰わなかったし、きっと敦生先輩とも出会わなかった。

 それぞれ、途方に暮れた1日になっていただろう。


 雲が流れ、空の色がゆっくりと薄灰に変わっていき、胸をざわつかせた。


 ――でも、そんなこと関係ない。

 どっちにしても、私は綾梨さんの代理でしかなかった。

 信じられる人がそばにいてほしいと言っていたから、せめて私だけでもと思ってたのに。


「なによ、あいつ……」


 とは言え、偽彼女に同意したのは自分だ。

 もっと素直になって、あの日三島先輩との会話を問い詰めればよかった。

 なのに、聞いた内容をそのまま鵜呑みにして、離れることばかり考えてしまった。

 敦生先輩の本心が、どこかに隠れていたかもしれなかったのに。


 結局、大事な話はいつも後回し。

 それが嫌だから、変わろうと思っていたのに。


 目頭がじんわり熱くなり、視界が霞んでいく。


 でも、これはもう終わった話。

 偽彼女契約は期限が切れたし、事故は遠い過去の話。

 いまさら過去を知っても、どうにもならない。

 早く忘れて前を向かなくちゃ。


 観覧車を降りると、小雨の冷たさが胸に沁みた。

 迷いが少しずつ溶けていくようだった。


 いつか、春は訪れるのだろうか。

 もし春が来るとしたら、そのときは自分の足で歩いてみせる。

 

 頬を濡らしていた雨は、心の迷いを流すかのように、より一層強くなった。


 ――もう二度と、迷わないように。


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