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22.傍にいる理由



 ――12月15日の朝。

 ブルッと身震いし、腕を組んだまま学校の昇降口に到着すると、繭花さんが私に近づいてきた。

 少し前に、敦生先輩とのことを忠告してきたから、正直顔を合わせるのが気まずい。

 彼女は目の前で足を止めた。

 私はサッと目線を落とす。鼓動がやけに大きく感じる。


「あのさ、この前も言ったけど、いつまで敦生くんの傍にいるつもり?」


 喉の奥から漏れるような声に、指先が冷たくなった。


「それは……」

「偽彼女を断ってって言ったよね。忘れたなんて言わせないよ」


 彼女は腕を組んだまま、指先でリズムを刻んだ。

 通り過ぎる生徒たちは、私たちの険悪ムードに気づいたのか、腫れ物に触るような目で眺めている。


「そっちが守ってくれなきゃ、お姉ちゃんが傷つくの。それに、私も……」


 わかってる。

 敦生先輩は、綾梨さんが忘れられない。

 イヤホンのことを思い出すだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。

 亡くなった日は最後のデートって言ってたけど、二人にどんな事情があったかはわからない。


 でも、いま私が離れたら、彼はどうなるのだろう。

 まだ一人で星空を見れる段階じゃない気がしている。


「……ごめん、偽彼女は解消できない」


 気付いたときには、彼女の提案を断っていた。

 自分でも驚くほど。


「なんで?」


 すっと息を飲み込んだ。


「実は私、敦生先輩と同じ。……2年前、好きな人を失ったの」


 あの日のことを思い出したら、声が震えた。

 最近は、敦生先輩の気持ちが、自分の痛みと重なって見えることがある。


「えっ」

「偶然ってあるんだね。彼の気持ちがわかる気がするし」


 とはいえ、失ったのが恋人と好きな人では、想いの強さが違うかもしれない。

 もしかしたら、私の気持ちなんて、彼に比べたら微々たる可能性もあるし。

 正直、いま自分が彼の味方をしていることに、少し驚いている。

 声は、昇降口のざわめきにまぎれた。


「もしその話が本当なら……友達でいい」


 彼女は眉を吊り上げた。

 その瞳の奥に、焦りがちらついている。


「えっ……」

「私っ、敦生くんの気持ちをよくわかってる。ずっと、近くで見てきたから」


 彼女は拳をぎゅっと握りしめ、瞳を揺らした。


「里宇さんがいなくても、なんとかなるの。だから……もう、そんな関係やめてよ」


 繭花さんは敦生くんの幼なじみだから、心配しているのだろう。

 他人の私がいきなり偽彼女だと言われても、気持ちが追いつかないよね。


「ごめん。繭花さんが心配している気持ちは、すごくよくわかる」

「だったら」


 間髪入れずに返事をした彼女に、私は静かに首を横に振った。

 この役割を彼女に託すのが正解かもしれない。

 でも私は、自分じゃなきゃいけないと薄々気づいている。

 認めたくないけど。


「でもね、偽彼女は解消できないんだ。それが彼との約束だから」


 1ヶ月間、彼の偽彼女を請け負うことは、自分で決めた。

 あのときは、1ヶ月なんてすぐだと割り切っていて、面倒だとも思っていた。

 でも最近は、この短い時間の中で、彼が少しでも前を向けるように願っている。


「意味わかんない……。知ったかぶりなんて、してほしくない」


 彼女は肩で風を切りながらも、どこか不安げだった。

 後ろ髪を引かれるように廊下の奥へ消えていく。

 冬の冷たい空気をまとい、ざわめきを残して行くかのように。


 少しずつ明らかになっていく彼の過去。

 目を背けることができなくなっていた。

 彼の心の痛みがじんわりと伝わるようになってから、放っておけなくなっていた。



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