第八章 日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング 9
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故に龍王院エリスは島カリンと矢間りえかを伴い、映創祭を去る。
皆が会場でヘディラマーの今後の話をしていた時、菜乃と芽理亜に薄い繋がりがある男女3人が大教室で、ナノメリア3部作を視聴していた。
終劇し、まず二人の女の子が出てくる。
「こ、これはすごいものを観た」とナビゲーション・フェスタでリスに似た、と描写された女子高生、玉那ちどり。
「うん、『二人の失楽園』は私たちでの撮れるかも、って思ったけど、これはムリだ。たった1年上だけで、これを撮れるのか!?たった半年だけでここまで上達するか、って」とこっちは猫っぽい子と描写された女子高生、瀬井みなみ。
「ねぇ?」
「ほぅ!」
二人は物販で大勢の観客が上映後に購入している本に注目する。
「でもさ、お品書きポスターには3冊も書いてある」とちどり。
「1冊。1500円か、痛いな」とみなみ。
「いや、3種類全部まとめて買えば、4000円で、500円お得だ」と亜美衣。
「誰ですか?」とちどり。
「この大学の関係者ですか?」とみなみ。
「私を誰だと思って!いや、誰でもいいか」と亜美衣。
―?なにこのひと?
「映画よかった?」
「はい」といっぺんにちどりとみなみ。
「この映画作ったのはね、一人は私の妹分で、一人は私の最新の友達だ。ふふ、まぁ、よく頑張っちゃいるが、私よりは下だな」と亜美衣1冊の本を差し出しながら。「これはその妹分が切ったこの映画のコンテ集。表紙のここ折れているでしょう。落丁、だから上げる。でさ、二人で、パンフレットと漫画集を1冊づつ買えば、3冊全部読めるでしょう」
「ああ!お姉さん、ありがとう!」とちどり!
―ヘンな人に絡まれたと思ったら、いいひとだ!
とみなみ。
亜美衣、ずっと昼メシも食べずに売り子、身体の弱いふみちゃんは宗次郎くんに伴われもう帰宅し、ユラやミヤコたちに休憩を作るため、ずっと売り子。
さすがに疲れ、カフェテラスの屋外パラソルで一人、軽食とコーヒーを採る。
「菜乃、きみは限界を超えちまったんだなぁ、だったら進め、徹底的に!芽理亜ちゃん、少しくらい時間が出来たら答えてあげなよ、室井くんの気持ちに」
独り言を云ったあと、亜美衣はイスの背もたれに身体をあずけ、目を閉じ、持っていたスプーンをとさっと落とす。
「な!悪いんだけど、どうしてもこの映画の感想を誰かに話したくて・話したくて、しょうがないんだ!だから、ちょっとそこのさ、カフェテラスで話聴いてよ!」とこの声はコミケで芽理亜を泣かせた男子高校生、曳間兵司。
ちどりとみなみ、躊躇。
「あ、ナンパとかそういうんじゃないんだ!きみら二人だから、大丈夫かと思ったんだ。そうだ、おれの性嗜好を尋ねてくれよ!」と兵司。
「なんで、自分から言わないんだい?」とちどり。
「うん、そんな重い話されてもねぇ」とみなみ。
「自分から言うのはイヤだが、尋ねられて答えることができないほどの罪や恥だとは思っていない、ってトコかなぁ」と兵司。
「ほぅ、矜持と社会性の両立ができている」とちどり。
「じゃあ、聴くけど、答えなくてもいい。ゲイなの?」とみなみ。
「うん、そうだ」と兵司。
だが女の子二人は妙な陰りを兵司から感じた。
―言っておいて後悔したか。
―こんなことをいちいち初対面の女性に言う自分の自意識にウンザリしたか。
「じゃあ、私たちも聴いて!」とちどり。
「同性愛者か、否かって?」と兵司。
「違う、なんでこの映画を観に来たかってこと!?」とちどり。
「きみはそういうことを聴いてくれと言ったのはこの映画を語りたいからだ。じゃあ、私たちにもその理由を聴かないと!」とみなみ。
「え、女の子、だから、じゃあ、ダメなの?」と兵司。
「そういうのがジェンダーバイアスになるんじゃあないの?」とちどり。
兵司、すまなそうな表情。
「私たちはいとこ同士で中二の頃から『小説家になろう』にBLや二次創作を発表していて、お互い、3万ポイント以上毎回獲得している。だから、この大学で、このサークルでシナリオライターになりたいんだよ!」とみなみ、溌剌と。
「そっかぁ、そういうことか。だったら、おれは来年この大学に入って、あんたらが書いた脚本の主演を務めるよ。おれの仲間のノンフィクションも撮りたいし、きみらに教わって小説も書いてみたい!」
―それで、いいんだよ。
「じゃあ、来年の同級生だ!」とちどり。
「では先輩の映画の感想戦を言い合いましょう!」とみなみ。
そこでカフェテラスに移動し、3人は結局ナノメリアに遭えなかったが、第二のナノメリアを形成する仲間に出会っていたのだ。
―あ、さっきのお姉さん、熟成している。
―美人で、かわいい。でもヘン。フシギなひとだなぁ。
これは当然ちどりとみなみ。
「速稲田の学祭で、上映なんざ、そうそうないことだ。明日ならば早く返事しないと。やります、って」と翔は熱弁した。
レコンキスタの面々が部室で話している。
エリスが云うようにカフェテラスではナノメリア3部作を感想を云い合う客が多かったからだ。
だから、亜美衣はレコンキスタの連中に寝顔を見られずに済んだ。
「私たちが作った映画をみんなにここで上映任せるのがイヤなんです。模擬店の売り子にだって入りたいし」と芽理亜。
「それはないんじゃない?私たちだって作った『デリリウム』と『トゥ・オブ・アス』さ。むしろ任せてもらいたい」
―そう、飛躍できる時にすべきだ。
野笛はそう思った。
実際に早く進めたつもりはなかった。
だが現在の恋人である彩が「男と女はいざ始まると早い」はその通りで、伊野の時はそのタイミングを完全に見誤った。
その早い時に野笛は伊野の将来のことを思って、理解あるカノジョを気取り、好きなことをほとんど言わなかった、忙しい時にはムリに会おうともしなかった。
―愛するひとのため、だから、会わない、それはやはりウソなんだよな。
野笛からすると恋愛ではないだろうが、エリスに2年以上も付いていくと決めたカリンとりえかは羨ましかった。
―あの時に伊野のマネージャーのように付きまとうという発想があれば、そうしていたかもしれないが、すると横にいるこの男と結婚することもないのだ。後悔とか実はナンセンスなものだな。ひとは結果を受け入れることしかできない。
―あ、そうか。そういうことか。
「菜乃はどうしたいの?」と野笛。
「私は、正直これ以上いくのは少し怖い。私はいい画が書けたからみんなに見せたい!いいシーンが撮れたからみんなに観てもらいたい!だけでやってきたので、そんな全国規模の映画祭とかフェミニズム運動とかガラではないんです」
しばし沈黙。
「いや、それがいいんだよ」と岸間先輩。「映画なんだ、そんな名誉欲や思想とかないから、酉野さんたちの映画はいいんだよ。そりゃ、結果的に何か残るよ。それになんと付けるかは観客や評論家の勝手さ。むしろ色々言える映画はいい映画さ」
「うん、映画って、小説みたいに芸術とエンターテイメントに分かれてないじゃない。私は菜乃ちゃんたちの撮る映画こそその最たるものだと思う」と高木彩佳。
「うん、彩佳と二人で手伝ってきたけど、いかに効率よく撮るかの方に比重がかかっていた。芸術家でなくプロデューサー的資質も二人とも持っている」と星ヒカル。
「うーん、実は『トゥ・オブ・アス』だけ上映してどこまで行けるかというのもある。『二人の失楽園』の続編だし、『デリリウム』の仕掛けがあって、初めて評価されているだろうし、言いだしっぺが作ったのがこの程度かと言われるのも少し怖いかも」と菜乃。
「『二人の失楽園』をサブスクで観た人が大半だと思うよ、その上映会」と千田先輩。
「主役の名をリュウとハチと少し変えたのは続編でもどっちでもいいからという発想、むしろこの1本でどこまでいけるか?という挑戦をすべきだ」と住田くん。
「そっかぁ、確かに、『トゥ・オブ・アス』をギミック映画から解放するいいチャンスかも!住田くん、ありがとう!」
菜乃、ほぼ快諾。
野笛だけが芽理亜の気落ちに気づいている。
「そうだ、やるべきだよ」と虎丸。「いや、芽理亜、おまえに言っているんだよ。こんないい機会はないよ。ナノメリアは菜乃と芽理亜の名からとれている。ナノメリアアキトラにしようなんて、相川もおれも言ったことあるか?おれたちは女の子を助ける気概でやってきたんだ。事実、おまえが決心しないと何も生まれなかった」
そう、野笛以上に虎丸が気づいていた。
―それで、私たちは本当にいいの?
このように虎丸を見る芽理亜の瞳は語っていた。
―いい!そんなことで壊れるもんかよ!
虎丸はそんな目力を込めた。
「判りました。打ってでましょう!やるならば、てっぺん取る覚悟でやります!」
芽理亜、拳で軽く、虎丸の右肩を叩く。
「しゃっ!未だ17時だ!速稲田にマスターテープを届けよう!確か、準備中だったな!?」と簗木部長。
「はい!ケートさんが夜遅くまで学内に残って学祭前夜、メルモさんとマリアちゃんと準備中だそうです!」と菜乃。
「明日のシンポジウムのリハもしているんだろう!安さん、おれがランクル運転するから、酉野さんと一緒に速稲田まで直ぐに行こう!」と翔が立ち上がる。
「あのー、ぼくも行っていいですか?」とここでようやくあきら。
「四人で行こう!」と菜乃。
―みなさん、うまくやれるものです。河都先輩と彩先輩、龍王院さんと矢間さんとカリンさん、高木さんと星さん、そして安さんと室井くん。どうすれば、こうなれるのですかねぇ。ぼくは分析ばかりで、何もできません。




