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第八章 日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング 10



     10



それからの金土日月(祝)は怒涛の四日間であった。

木曜、翔の運転で到着した速稲田の前夜祭に参加し、ナノメリアの4人は歓待を受けた。

結局飲酒した彩の代わりに運転した芽理亜が帰り着いたのは深夜1時であった。

午後イチがシンポジウムであるが、渡水メルモの「THE PIER」、銀座ケートの「流薔園」、八家マリアの「ぼくたちは」を観ておきたかったし、なにより「トゥ・オブ・アス」の観客の反応が気になった。

映創祭は虎丸の言葉通り、あきらたち二人に任せて、お客さんの相手をしてもらうことに。

で、全国女子学生ダイバーシティ映画祭・準備会の上映会とシンポジウムが行われる大村講堂に行くと、「ちゃんと許可はもらっている」と黒図ミヤコと安具楽ユラがいた。

つまり、パンフレットと画コンテ集とコミックアンソロジーをここでも販売しにきたのだ。

「ところが、肝心の亜美衣さんは風邪で欠席!そりゃ、11月でお外で疲れた身体で爆睡すればそうなるよ!」とユラが苦笑しながら。

「映創祭の方はユキエに任せてきた。昨日のうちに後輩たちをいっぱい呼んで、日当も出している。出せるくらいに売れているんでね」と嬉しそうにミヤコ。

そう、実際に売れに売れて、現在増刷もかけている。そしてこの儲けが亜美衣により活用され、全国女子学生ダイバーシティ映画祭の資金源となるのはもう少し先の話である。

「二人ともありがとうね」と少し眠そうな菜乃。

「コミケはやめないでよ」とミヤコ。菜乃は「うん」と返事。

「私さ、声優デビューすることになった」とユラ。「えーーーーーーーーーーーーー!」と菜乃とミヤコ。

「ほら、アニ研スクラムの綾川さん。あのアニメーション手本村に出品依頼がきたから、ヒロインやってくれって、『デリリウム』で気に入られた模様」とユラ、まんざらでもない。

「綾川さんも大いなる第一歩を踏み出すワケか」と芽理亜。

ミヤコとユラは交代で観に行こうとしたが、ここでも予想以上に売れたので、結局二人体制とし、シンポジウムが始まると一時閉店した。

その後、ナタリーやらおたスケやらネットニュースで取材を受け、サブカルに詳しいユーチューバーたちからこの四日間に15の番組から出演依頼を菜乃と芽理亜は受け、現地の映創祭で話をして、自分らの映画を紹介した。

教授先生たち、伊野監督の知人・友人、ちどりやみなみのような進学を志すファン、ご近所のおじさん・おばさんたち、観てくれた人々からの感想を聴き、笑顔をたやさなかった。

連日にわたり打ち上げが催され、それにも毎晩参加した。

その上、月曜祝日には飛行機で大阪に八家マリアのいる大阪映像大学の学園祭で、上映し、またしてもナノメリア、メルモ、ケート、マリアで座談会のため登壇。

「すげぇ、活気」と芽理亜。

「うん、天の光は全て星。ああ、そうね。BLの友が待つ、星々だ」と菜乃。

17時からの打ち上げに参加し、19時には伊丹空港から立つ。

21時、レコンキスタの打ち上げに合流し、23時にはお呼ばれしたヘディラマーの打ち上げに参加、綾川からメールあり、『スクラムの打ち上げ、みんなで来ない?』、深夜の吉祥寺の飲み屋をハシゴしまくり、彩夫妻を始めとするレコンキスタの面々、高円寺女子美大からはユキエとミヤコも参戦し、嶋中アランや竹内教授も顔を見せ、吉祥寺で大打ち上げ大会が終わったのは朝9時であった。

―た、楽しい。楽しいが、地獄!

―これは女子として、そうとうヤバい生活。

前者は菜乃、後者は芽理亜。

それでも二人はちどり、みなみ、兵司とは再会できていなかった。

そして、芽理亜の部屋に虎丸とあきら含めて転がり込み、ついた瞬間、4人とも爆睡。

あきらと菜乃が起床したのは次の日の朝5時であった。

「ニンゲンって、こんなに眠れるもんなの!?」と目がうまく開けられない菜乃。

「なんか、タイムスリップしたみたいな感じ、です」とあきら。

そして芽理亜と虎丸は未だ眠っている。しかもお互い足を絡ませて。

「すごい、仲いいですね」とあきら。

「うん、もう付き合っちゃえばいいんだよ」と菜乃。

「フシギなものですね。僕は今、芽理亜さんに少し嫉妬しています」

「え」

「はい、多分室井くんが好きだったんですよ、どんな意味かは自分でも判りませんが」

「残っているんだよ、ハチの心が相川くんの中に」

「そうかもしれません」

その後、僕はいいのでとあきらが云ったので、菜乃だけシャワーを浴び、直ぐに帰宅した。

帰宅して腹ペコの菜乃を待っていたのは母がくるんだ餃子の山で、そして母から感想を聴いた。

映創祭に家族も来てくれたのだ。

朝食から延長して、昼食まで母娘の会話は弾んだ。

せめてとこれくらいと食器洗いを母の代わりに菜乃がして、時刻は夕方あたりになった頃、あきらから電話があった。

『酉野さん、室井くんと安さん、起きません、未だ眠っています』

『それ、さすがになんか、ヤバくない!?』

当然、菜乃はゆすぶってみて、と云う。

するとスマホの奥から虎丸のか細い声で『おはよう』と聴こえる。

『起きたみたいです』とあきら。

その後、虎丸が芽理亜を軽くゆすぶって起こして、ようやくあきらと虎丸は帰宅の途に就いた、17時。

夜、菜乃は帰宅した父と二人の兄からも感想を聴いた。

食卓には菜乃が大好きな手巻き寿司。

次の日、数か月ぶりにフツーの大学生のように授業に出ようと登校。

映創祭の余韻冷めやらぬキャンパス。

―ああいうのを一緒に過ごしたひとたちと再会するのはなぜか恥ずかしいものだ。何で?

そう、菜乃は部室にも顔を出したりした。が、なぜか芽理亜と虎丸には会わなかった。

「え、酉野さんも会っていないんですか?」とあきらと共に心配した。

「うん、見てるでしょ、LINEには反応あるんだよ」と菜乃、スマホを見せながら。

『なんか、調子悪い』と虎丸。

『心配しないでね』と芽理亜。

あれだけ、そうあれだけ、三ヶ月間ビッシリ撮影と編集で駆けずり回り、果ては佐渡島に北海道にロケに行き、映創祭五日間はほぼ不眠不休でパブリシティの対応と饗宴の参加の毎日でそうなるであろうと菜乃とあきらはそう判断した。

4人は親友である。

しかも実家の菜乃とあきらと違い、二人は一人暮らし。お見舞いに行こうという発想になるのは当然だ。

「でもねぇ」と菜乃。

「ええ、そうですね」とあきら。

―二人一緒にいたら、気まずいよなぁ!

ところが次の日の木曜、翌日の金曜にもくることはなかった。

ただその度にLINEすると虎丸も芽理亜も『大丈夫』とか『明日は行くよ』とレスはくる。

土曜、菜乃のスマホが鳴る。

『酉野さん、行きましょう。やはり行った方がいい』

このあきらの誘いに菜乃は『私もそう思っていたのだ!』と直ぐに家を飛び出した。

あきらが虎丸の部屋に、菜乃が芽理亜の部屋に行くことになった。

LINEで行くことを(グループLINEでなく個人宛に)報せると二人とも短く受諾した。

「芽理亜ぁ?」駅に着いた時に到着メールで「何か買ってきてもらいたいものは?」と聴いたのだが、「ない。鍵開けてあるから入ってきて」とレスが直ぐにあった。

「いない?いる?」という菜乃の声に「いるよ」と弱い声は芽理亜。

目の下に酷いクマ、髪はぼさぼさ、パジャマ姿の芽理亜はソファに横たわっている。

「どう、した?」菜乃おそるおそる。

「眠れないんだ」と芽理亜。

「眠れない?いつから?」

「火曜の夕方起きてから、ずっと」

「じゃあ、え、今日は土曜だから、ずっと!?四日間!?」

「そうなるね。最初は打ち上げ後に寝すぎたから、その反動だと思った。で、これ幸いと思い、会ったひとたちや行ったイベントの日記のような備忘録を書いて眠気がくるまでまった。それでも眠れないから、病院に行ったら、先生から『色々なことがあって身体が未だ緊張しているんでしょう』と言われ睡眠薬を処方してもらって飲んだ。でも眠れない」

確かに錠剤を出した後のPTPシートがテーブルの上に散乱している。芽理亜は続ける。

「身体は眠りを欲しているからダルいし、熱い。歩くとフラつくから通学もしたくない。菜乃、どうしよう?なんなの、コレ。どうなるの私」と云い終わった頃、菜乃が芽理亜が抱きしめる。

「これなら、どうかな」

菜乃は毛布を持ち上げて、二人は横になり、くるまる。

「あ、お願い。眠れそうな気がする」

とは云った芽理亜だが、20分後に「菜乃だけ、熟睡してどうするの!」と起こされた。

「ごめん、ごめん」と菜乃が云った時にインターフォンの音。

菜乃が代わりに魚眼レンズをのぞくとあきらの姿。

開けると憔悴しきった虎丸を連れている。

だがその虎丸は直ぐに靴を脱いで上がると、芽理亜の元に行き、さっきの毛布を二人でかぶって、直ぐに熟睡は始めた。

「これ、相川くん」

「どうやら、こっちでも同じだったのですね」

虎丸もまったく同じ症状で、医者の対応までそっくりだった。

「僕の仮説ですが、極限状態まで疲労がたまり、その反動で二人して眠ったため、脳波だかシナプスだかが完全にシンクロしてしまい、相手がいないと睡眠が取れなくなってしまったのではないでしょうか」

「そんなバカな!」と菜乃は口にした。

ともかく異常であることは判った。

起きたらお腹も減るだろうから、台所をお借りして、その前に買い物をして、菜乃とあきらは二人の目覚めを待った。

はたして芽理亜と虎丸は夕方には一緒に目覚めた。

「お腹減ったぁー」と予期していたセリフを芽理亜が云ったので、四人でお好み焼きをホットプレートで焼いて食べる。

それから芽理亜と虎丸はあえて距離を置いてみた。

11月はその実験(?)に費やされたが、やはり結果は同じ、お互い相手がいないと眠れないことが証明された。

病院にも行ったが、そんな症状や病気は聴いたことない。偶然か若年性の譫妄症としか云われなかった。

〈ナノメリア〉シリーズ、〈エンマコンマ〉シリーズ、〈瀬戸内マリンドラゴン〉シリーズ、〈タイトル未定〉シリーズと四大連作中唯一この〈ナノメリア〉シリーズは超常の力、つまりロストテクノロジーや逆に現在日本の科学力を超えた未来のパワー、または魔法や呪術などのファンタジー的フォースがを出さない物語である。

だが少し例外があり、それは先のあきらの仮説である〈芽理亜と虎丸はお互いがいないと睡眠を採れなくなった〉はその例外である。

12月に入ると虎丸は芽理亜を伴い、札幌の実家に戻った。

その突拍子もない仮説を披露すると仕事の関係で知り合った医師に相談し、二人の精密検査を依頼した。

一週間かけたが、原因は判らない、でも症状は心因性のものではなく、実際にそういう何かだとは判断された。

「医師のお墨付きももらった!虎ちゃん、芽理亜さん、結婚しちゃいな!」と虎丸の父。

プロポーズもしない・されないのは少々腹立たしい二人だったが、この〈二人にならないと眠れない症状〉をいちいちひとに説明するのは難儀だし、それを隠して同棲生活もなんかバカバカしいので、それは確かに唯一の落としどころだった。

新千歳空港から松山空港まで飛んだが、子猫ちゃんがいるのでお母さんは留守番。

「ぼくとすごして、必ず芽理亜さんに幸せだったと言わせてみせます」と彼女の母親に虎丸は頭を下げた。

すると虎丸の父親と芽理亜の母親が話し合う。

虎丸の部屋は解約し(芽理亜の部屋の上の前線基地ナノメリアは映創祭が済んだのでとっくに解約している)、二人は芽理亜の、井の頭通りの部屋で生活することになった。

「そして、室井さん。この子の学費もお願いしますよ。だって、もうそちらの人になったんですから」

母親はそう告げた。

帰りの飛行機、父親と別れて、羽田空港を目指す旅客機の中で虎丸は芽理亜に長年の疑問を聴いてみた。

「そういやぁ、なんで今井美樹なんだ?」

「お母さんが好きだったんだ」

「そうか。そうだったのか」


そこで室井虎丸と室井芽里亜はバイトを始めようとしたが、菜乃が提案した。

「全国女子学生ダイバーシティ映画祭事務局の運営を二人でしてよ。メルモちゃんとケートちゃんが思った以上にタイヘンだからどっかに委託するかって言ってたんだ」

全国の大学と連絡をつけ、来年の第一回大会を準備し、メーリングリストを回す、そんなデスクワークを二人でこなし、収益が出るのは後のことだが、会員費用から二人の給料を出すことになった。

二人の生活費はまかなえることになり、「トゥ・オブ・アス」と「デリリウム」もサブスク配信の予定なので、さすれば家賃も払えそうだ。

「そっかぁ、じゃあ、例のオレらが常連の、井の頭公園内のイタリア料理屋。貸し切りであすこで合同披露宴だ!」と彩翔。

横には彩野笛。

結婚式は正月休みに野笛の実家の名古屋で行うことが決定しているが、やはり馴染みある学び舎の仲間と派手に祝ってもらいたいと思っていた矢先の後輩二人の結婚だった。

―それで朝まで飲んで、また多重性不眠症が出るのはごめんです。

あきらの感想。

だがあきらの危惧も当たらず、素敵な披露宴に花嫁二人のあで姿であった。

二組の新郎新婦は早々に撤収し、二次会を菜乃とあきらは星さんと高木さんと過ごした。

二人が仲良く帰っていくと菜乃とあきらはまた井の頭公園に入って、少し歩くことにした。

撮影の思い出ある公園、その時の仲間の結婚とその祝福を経て、二人は少々センチメンタルになっていたのかもしれない。

「酉野さん、今度二人で昼ごはんでもどうですか?冬休み、会えなくなるし。どこがいいですか?」とあきら。

「日本橋の千疋屋オーダー制フルーツバイキング」

菜乃は自分が大好きだが、高くて自分では払いたくない店を一切の躊躇もなく、直ぐに答えとした。

「おごりますよ」

「いや、いいよー、はずみで言った店だよ」

「おごりますよ。そこで菜乃さんに告白をしようと思っているから」

「え、なに、それ」

「菜乃さんが好きです。会った時からずっと好きです」

少しの間。

「なんかさー、ノブさんと彩先輩、芽理亜と室井くんがああなったからのついでみたいな感じがするんだよねー」

「だから、会った時からずっとと付けました」

「違う違う、いつから好きになったではなくて、このタイミングってこと」

「だから、告白はその千疋屋でするんですよ」

菜乃が笑う。勿論嘲笑の意味は一切ない。

「もっと言って」

「どこの店がいいですか?」

「違うよ、わたしをどう思っているかってこと」

「菜乃さんが好きです」

「もっと言って」

「菜乃さんが大好きです」

「もっと言って!」


                                              了

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