第四章 映画大学の映研カレー蕎麦 6
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「イロドリ先輩、こういう機会だから、言うね。私が伊野さんと出会って、イロドリ先輩とも仲良くなって、付き合い始めたのは11月頃だったのは、伊野さんが『彩がノブちゃん好きって知っている』って決心つかなかったからだよ」
気を遣ってか、部室には誰も来ない。
だから彩と野笛の二人。
「それは俺も同じだ。伊野が野笛好きだって知っていた。だがね、結局年明けた頃にはアイツはもう大学なんて興味なくなった。多忙だからって、きみとも別れた。許せないよね」
―彩さんへの後ろめたさと多忙、それに違う世界を知った者とおいてきぼりにされた者。いったいどの順番で物事は起こったか。
「いや、違うよ。許せないのは伊野さんじゃない、私なんでしょう?映画業界で飛躍していく、同等だと思っていたのに追い越した男を選んだ女である私」
「そうじゃない」
「そうなんじゃないの?」
「それは違う。でも伊野が俺に気を遣っていたと知らなかった。アイツの口癖は『おまえは最終的に店継げばいいからいいよな』だったからバカにされていたと思っていた」
「先輩、伊野さんの憎まれ口はよく知っているでしょう?でもとても懐の深いひとだよ。じゃないと長編映画完成させる程のスタッフはついてこない」
「もういいよ」
「よくない!」
「いや、あれだけの成功をもたらしたナノメリア諸君が今は主役だ。戻ろう」
「一つ言っておくけど、菜乃ちゃんたちを自分の復讐のためとか考えあったら、やめて」
「だとしたら、俺は最悪に、最低にかっこうわるいゼ」
その後、野笛は人知れず、数年ぶりに煙草を一本、喫んだ。
『なんかさぁ、菜乃を探しているリサリサ先生みたいなひとが来ているんだけど』
カレー蕎麦の模擬店の撤収作業している虎丸が電話をしてきた。
菜乃は映写大教室で片付けの最中であった。
―最終公演には立ち見も出るかと思っていたけど、さすがにそれはなかった。浮かれてはやはりダメだな。
虎丸には『大教室に来てもらって』と頼んだ。
部員たちは片付けの最中、虎丸に連れられ、その〈女〉はやってきた。
菜乃は芽里亜と受付のパイプ椅子やテーブルを片付けている最中だった。
「菜乃、よかったよ。お世辞、抜きで」
「亜美衣さん!」
亜美衣、菜乃の同人誌やコミケの師匠!
ざっくりとして黒のサマーコート、長い黒髪、夕方なのにサングラス、だが、菜乃に声をかけた時に外した。
―なんだ、この女!
嫉妬でなく、明らかに変わり者のオーラを芽里亜は感じたのだ。
「この大学の場所直ぐに判りましたか?」とか「カレー蕎麦、食べましたか?」と会話が進む中、ふと亜美衣が顔の向きを変える。
「あなたが芽里亜さんね。菜乃のメールやチャットで聴かされていた。素敵な髪と上等な顔と身体の輪郭、そして名前もイカしている」
―この人はいいひとだ!
「か、か、カレー蕎麦は食べましたか!?」
「芽里亜、大丈夫、亜美衣さん、こう見えて、フツーに社会人しているから案外まっとうな人だよ」
そうこう話していると撤収時間となり、教室と模擬店は完全に片付けた。
カフェテラスで、アプリ研やアニ研ら他サークルも含めた後夜祭、とはいってもクローズの時間もあるので、1時間で終わりにして、30分で自主的に片付けという縛りはあったが、この熱狂を冷たい飲み物で冷ましたい気持ちは皆にもあった。
彩、野笛、綾川ら年長組がノンアル含めた缶ビールを次々と配る。
「私も、いいのかしら?」
「っていうか、もういるじゃないですか、亜美衣さん」
あきらはいつもと同じふうだが、虎丸は最初模擬店で話しかけられてから、亜美衣に言い表せぬ恐怖を感じていた。
―このタイプの女は、初めてだ。母親とも美海とも違う、でも何かおかしい。しかし悪性のものは感じないのも又確か。
「芽里亜さん、これから『二人の失楽園』はどうやって売り出す予定だか聴かせてくれないかしら」と亜美衣。
野笛も寄って来た。
「youtubeとか無料で流すのはしたくないので短編映画専門のサブスクがいくつかあるので、それに登録しようと思います」
「芽里亜さん、小説投稿サイトと同じ、観てもらうまで厄介ですよ。私、こういうところで仕事しています」
すると亜美衣は名刺を配る。
かいつまんで云うと亜美衣は在野のアーティスト、例えばユーチューバーや絵師のプロモーションやマネジメントをする会社に所属していた。
実際、昔のコネもあり、コミケをネット内で再現するような仕事であるので、アマチュア作家の気持ちもよく知る亜美衣は、業績でも評判も上々だった。
「動画プラットフォームは面白いところを紹介させていただきます」
「どういったところですか?」
野笛もやはり亜美衣の圧を感じていてか、少し険のある言い方になった。
「海外に向けます」
芽里亜と野笛と虎丸、唖然。
菜乃、ニコニコ。
「確かに、かなり寓話性が高いから言葉の壁はた易く乗り越えられる。でも、冒頭のヌードシーンとか大丈夫ですかね」
「そのためのサブスクですから」
亜美衣、組んだ手の上に顎を乗せて云う。
「最初からレーティングある、ってことか」
野笛、亜美衣の元ネタに気づかない。
「そして、再生回数増えた時点で海外のコンペディションに出品させます。私ができるのはここいらまでか」
―菜乃、あなたにはこんなすごいマネージャー兼プロデューサーが小学生の時からいたのか!もう、私は何すればいいんだよ!
芽里亜はそう思ったが、まさにその芽里亜に亜美衣は話しかける。
「でも、そのサブスクだって、観てもらわないと話にならない。じゃあ、どうするか?」
亜美衣は芽里亜が作成したA4のプレスシートをひらひらさせた。
「そしてさっき部室の鞄から菜乃に持ってきてもらったオールカラー、30頁、A4横、左綴じ。これもいい装丁に、いいレイアウト、芽里亜さん、いいよ。コミケ行くわよ!」
「エエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッ!!!!!」
いちばん大きい声は虎丸だったが、野笛と芽里亜も「エッ!」くらいは発音している。
菜乃はニコニコ。
あと、台詞も描写もないがあきらはいます。
それと彩は綾川と簗木部長と深酒モードでこの頃には居酒屋に移動中。
「でもコミケって、あと2週間後だから、とっくにサークルスペース取れないのでは?」
「芽里亜ね、初期衝動が急に起こったり、夏アニメで死んでも二次創作したい作品ができたりする時のためにサークル申し込みは必ずしているんだよ。準同人入れて仲間は15人いて、どれもなかなかな絵師たち、新刊だせない時は総集編やイラスト集を出すんだ」
「亜美衣さんのペンネームとサークル名を教えてください」
芽里亜の言葉に答える亜美衣。
「無限キドウ、無限極限」
「はぁ」
とりあえず、野笛がため息をついた。
「さて、芽里亜さんのパンフレットともう一品、菜乃の画コンテ集も出す。さすれば、無限極限の固定ファン全員がサブスクで『二人の失楽園』を必ず観る」
―観たことのない映画のパンフレットと画コンテを売る!これは思いつかない!
虎丸は更に、この女、ヤン・ウェンリーか何かか?と父親の影響で読んだスペースオペラを想起した。
「でもさ、亜美衣さん、今日が7月の28日の日曜で、無限極限って二日目の日曜にやるんでしょう?だから12日の月曜祝日。2週間ないよ」
「菜乃、確かに販売するならば直したい気持ちは判る。だが、ネットで小規模ながら盛り上がっている今やらないと追い風は止む。印刷所は一週間みておけばいから、締め切りは8/4日曜!」
「確かに。亜美衣さん、でしたっけ?確かに、今日燃え尽きてはダメなんだよ。どうせ今は夏休み。一週間で、パンフレットの改訂版とかっこいい装丁と絵師コメントも載せた画コンテ集を出す!夏コミで会いましょう!」
―ダメだ、本当に楽しい!楽しすぎる!
芽里亜はこうして又コミケに行くのである。




